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土が変わるとお腹も変わる

土壌微生物と有機農業

著:吉田太郎

紙版

内容紹介

日本の農地の25%を有機農業に、それ以外の全農地も化学肥料や農薬を削減する----日本でも生物多様性の激減と気候危機に適応した農政転換がおこっている。とはいえ、有機農業面積はわずか0.5%。病害虫や雑草が多い日本では、ゲノム編集技術やドローン、AIといったハイテク技術の実装がなければ不可能だというのが世間一般の見解だ。

実際には欧米はもちろん、日本以上に高温多湿なインドや台湾などでも有機農業は広まっている。そのカギは、4億年かけて植物と共進化してきた真菌、草本と6000万年共進化してきたウシなどの偶蹄類にある。 本書は、最先端の研究を紹介しながら、土壌と微生物、食べ物、そして気候変動との深い関係性を根底から問いかける。世界各地で取り組まれる菌根菌を活かした不耕起自然農法や自然放牧での畜産の実践事例は、「一度失われた表土再生には何百年もかかる。化学肥料や有機堆肥がなければ農業はできない」という通説を見事に覆していく。

腸活や健康を考えれば有機農産物はコスパがいい。川下の消費者意識がカギと、国をあげて有機学校給食を推進するデンマーク。森林、海、農地の循環と地域経済再生のコアに土づくりを据える大分県臼杵市。篤農家が在野で開発した農法を横展開して、流通や消費を総合的にガバナンスすればどうなるか。「有機」こそが、日本の食べ物を担う、あたりまえの農業であることがわかるだろう。

目次

はじめに オーガニック給食実現の鍵は関係者のマインド・リセット

序章
カーボン・ゼロでは防げない地球の危機
土壌にカーボンを戻し有機農業で地球を冷やす
重労働低収量の有機農法から科学的に洗練された再生農業へ
世界ですでに始まっている再生農業革命
本書の構成と登場人物
COLUMN1 再生農業とロデール研究所

第1章 有機農業で洪水と旱かん魃ばつを防ぐ
ヨーロッパの洪水とオーストラリアの緑野を結ぶ土壌とは
気候変動で多発する洪水と旱魃
夏は緑─入植者たちが見たオーストラリアの原風景
土壌団粒によって高まる透水性と保水力
植物の吸水力を飛躍的にアップさせる助っ人、菌根菌
ニューヨークの空を暗黒に染めたダストボウル
カバークロップ革命で土壌は簡単に作れる
団粒構造が構築されれば干上がった河川も蘇る
COLUMN2 団粒構造を構築する接着剤グロマリン

第2章 土が健康なら無肥料で農業ができる
根からの液体カーボンと菌根菌ネットワークの共生進化
農業とともに始まった地球温暖化
耕起は真菌の身体を切り裂き土壌を壊す
締固めと耕起 耕せば耕すほど雑草は増える
生物多様性の九五%を占める目に見えない土の中の世界
リン酸肥料は不要 着目される菌根菌ネットワーク
根からの糖分と交換されるミネラル
菌根菌にカーボンを提供し光合成能力を高める共利関係
菌根菌ネットワークを養う栄養パーティーの主催者は植物
化学肥料と農薬で台無しにされる地下の饗宴
インクルーシヴの摂理─誰一人取り残されずメンバー全員の参加でミネラルは循環する
農業は土壌生物たちを育むアート─ハイテク・アプリよりも顕微鏡
COLUMN3 メタンへの濡れ衣 工場型畜産が問題

第3章 草本と偶蹄類の共進化が生み出した肥沃な土壌
野生動物の行動パターンを模倣して肉牛を飼育しながら地球温暖化を防ぐ
牛は地球温暖化の犯人なのか─草原の価値を見直す
地上部よりも根が多い草の高い適応力と過放牧による植生破壊
牛をたくさん飼うほど砂漠化が防げる─常識を覆すホリスティックな放牧マネジメント
サバンナでのゲリラとの命がけの戦いの中から生まれた気づき
密集して絶えず移動する野生動物の群から、草を根こそぎにする家畜飼育へ
草は齧られると成長する─肥沃な土壌は偶蹄類が作り出した
COLUMN4 科学的に検証できないが世界から注目

第4章 表土は根から放出される液体カーボンで作られる
化学窒素肥料と菌根菌
窒素施肥で失われる土壌カーボン
大半が無駄となり環境汚染や病気の原因となる化学窒素肥料
植物と菌根菌と半共生窒素固定菌チームの無駄がない有機態窒素固定
団粒構造と生物的窒素固定と液体カーボンの深いつながり
表土は根から構築されるカーボンによって構築される
表土形成と森林での木材形成とのアナロジー
真菌が繁殖する切り返さない方法で良質な堆肥づくりに成功
バクテリアと真菌のバランスが養分や土壌カーボン以上に重要
COLUMN5 バクテリアと真菌のバランスの破壊者・化学肥料と農薬
COLUMN6 スマート農業とグリーン・ウォッシュ

第5章 土壌カーボン・スポンジで地球を冷やす
緑・土壌・微生物による水循環の再生が地球を蘇生させる
土壌から失われたカーボンが大気中の二酸化炭素を増やす
土壌にカーボンを戻せば二酸化炭素を減らせる
微生物の構成が変われば生産性が五倍向上
地球の熱収支を制御するのは二酸化炭素ではなく水蒸気
樹木は自然のエアコン─アマゾンを冷やす夜間放射と気化熱
雨は微生物が降らせていた─アマゾンにある立体河川
裸地になると土埃と赤外線の再放射熱でより乾燥化が進む
乾燥化で内陸部に居座った高気圧でさらに加速する温暖化
土壌団粒とセットとなった植生からの蒸発散で地球を冷却
土壌カーボン・スポンジを作り地球を再生する

第6章 生物はプチ飢餓が常態
土壌にカーボンを再び戻すことが大気中の二酸化炭素を減らす
気候変動問題を解決する鍵は菌根菌と不耕起と都市自給
炭素を元の鞘に戻せば温暖化は防げる
砂漠での発見─自然界は微生物による相互協力とミネラル循環で成り立っている
土壌、食べ物、ヒト、地球のつながり
日々の選択が地球を救う─小食こそが肝要
COLUMN7 二酸化炭素の増加はジャンクフードを増やす

終章 消費を変えれば腸も健全化し土壌と地球も再生する
EUのモデル 川下需要が牽引するデンマークの有機農業
調理員を教育することで経費をあげずにオーガニック給食を実現
テクノロジー重視の転換戦略は時代遅れ
鍵は公共、NGO、民間がコラボできる仕組みづくりとマインドのリセット

おわりに
引用文献
著者紹介

著者略歴

著:吉田太郎
1961年生まれ。東京都杉並区で育つ。
筑波大学自然学類卒。同大学院地球科学研究科中退。
大学では地質学を専攻。
東京都及び長野県の農業関係行政職員として長期計画づくりや補助事業に携わる他、長野県農業大学校教授として土壌肥料学演習も担当。
有機農業推進担当職員として、本書の内容と重なる現地の農業者や消費者、国内外の研究者とも交流した。
なお、大学院時代に川喜田二郎教授とともに初めて訪れた海外はネパール。
2022年3月には定年退職し本書で描いた菌根菌を活かし川喜田二郎氏が提唱した「晴耕雨創」の生活を送る予定。
主な著作は、韓国でも翻訳出版されている『200万都市が有機野菜で自給できるわけ』『世界がキューバ医療を手本にするわけ』、『文明は農業で動く─歴史を変える古代農法の謎』などのほか、本書と三部作を成す『タネと内臓─有機野菜と腸内細菌が日本を変える』、『コロナ後の食と農─腸活・菜園・有機給食』(いずれも築地書館)がある。

ISBN:9784806716310
出版社:築地書館
判型:4-6
ページ数:256ページ
定価:2000円(本体)
発行年月日:2022年03月
発売日:2022年03月30日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:KN
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:TVK