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福島第1原発事故後10年 テレビは原発事故をどう報道したか 3・11の初動から「孤立・分断・差別」そして「復興」フェイクまで

著:小田桐 誠

紙版

内容紹介

本書は、2011年3月11日の東日本大震災によって引き起こされた福島第一原発(通称「イチエフ」)事故とその後を、テレビがいかに伝えてきたかを検証するメディア批評である。
「3・11」勃発後の初動の70時間をすべての局で比較検証した第1章は圧巻である。読んでいると、自らが体験した3・11の記憶が甦るだけでなく、「原発が危ないらしい」と噂され始めた3月13日夜以降の、あの恐るべき緊張が昨日のことのように甦る。
電源喪失から水素爆発、消化活動、冷却方法の模索、住民避難、メルトダウン、電源回復、汚染水問題……怒濤のごとく進行したその後の半年、それから時間が経つにしたがって、帰宅困難地域指定と解除、廃炉作業の開始とぶち当たる困難、福島県産農水産物の風評被害、避難住民の差別や、地元に残る住民たちの復興への決意と思い……それらをテレビはどう伝えてきたか。本書はあますところなく再現する。
のみならず、北海道、福井県等の、他の原発地域の地方番組も細かくチェックし、福島原発事故が他の地方原発に与えた全国的影響も検証する。
そこから浮かび上がるのは、「原子力ムラ」と呼ばれる原発利権集団の片隅に位置し、必ずしも常に最重要問題の所在を明確に指摘してこなかったテレビ・メディアの報道姿勢の問題点である。

目次

プロローグ ―― メデイアと原発
第1章 2011年3・11、NHK・民放各局の初動70時間を検証する
     ――東日本大震災・東京電力福島原発事故をテレビはどう伝えたか
 Ⅰ 世界史上初めての事態に直面した日本
 ■影響の巨大さに立ちすくむ
 ■同時進行・広域型・複合横断型の自然災害
 Ⅱ 3月11日――初めて経験する複合・同時進行型報道の困惑
 ■なぜNHKだけがヘリコプター中継ができたのか
 ■原発情報の初動は遅かったNHK
 ■緊急事態宣言を民放はどう伝えたか
 ■錯綜する情報と根拠に欠ける報道
 ■緊急で局に呼ばれた専門家たち
 ■電力確保=節電を最初に報道したフジテレビ
 Ⅲ 3月12日 ―― 報道は見えない真実を伝えられたか
 ■「爆発」という言葉を避けたNHK
 ■深夜、少ない情報の中、解説に四苦八苦
 ■避難指示の拡大 ―― その理由は推測するのみだった
 ■犠牲にされた〝正確な〟情報
 ■放射線量の説明でもいたずらに安全を強調した
 ■1号機の爆発 ―― 曖昧過ぎる情報に翻弄される
 ■被害者が疑心暗鬼を募らせたNHK報道
 ■民放で相次いだ不適切発言
 ■作り手の意思が明確だった『報道特集』特番
 ■情報ルートに疑問を呈した『報道特集』の眼識
 ■1号機の爆発情報をどう読み解いたか
 ■リアルタイム情報を報じながらリテラシーの必要性を議論
 ■最悪のシナリオも想定して番組を展開
  ――「想定外」を言い訳にした東電・政府との大きな違い
 Ⅳ 3月13日、14日 ―― NHK震災報道の陥穽
 ■面的情報が欠如したNHKの報道
 ■水野解説委員の登場で過小評価ぎみだったNHKの報道に変化が
 ■3号機の爆発の瞬間
 ■避難住民の不安と専門家のギャップが目立った日テレ
 ■番組のよってムラがあったTBS、津波問題に注力したテレ朝
 ■3号機爆発を各社はどう報じたか
 ■政府の指示通り取材範囲を決めるなら、受信料の論理が成り立つか?

第2章 復興オリンピックと原発
     ――帰還と避難の狭間で
 ■東電幹部の当時の発言
 ■課題が解決するわけでない
 ■「五輪で払拭できれば」
 ■「戻るかと言われても」
 ■次世代に何を残すか
 ■漁業者の決断任せに
 ■〝核食〟というレッテル
 ■「ふるさと喪失損害」
 ■週に一度はフクシマを
 ■復興を強調するために?

第3章 イチエフ事故から1年を検証する
     ―― 地元局は原発事故をどう伝えたか
 ■黙禱のひととき
 ■行政へのあきらめと怒り
 ■村が3つに分割される!?
 ■なぜデータは公表されなかったのか
 ■全国向けと県民のためと
 ■スタジオと現場のズレも
 ■「今ここでできること」とは
 【コラム】見た、読んだ、つぶやいた ―― 学生たちが感じた大震災・原発事故1年

第4章 北海道、泊原発の動揺
     ――「ヤラセ問題」と原発再稼働
 ■「緊急安全対策でも不十分」
 ■官庁・識者の相反する見解
 ■反対派潰しの実態
 ■データ改ざんの内部告発
 ■北電の安全対策は「妥当」?
 ■試行錯誤の原子力防災計画
 ■九電ヤラセ事件が飛び火
 ■道主催のシンポでもヤラセ?
 ■民放各局による国・北電追及
 ■「原発反対!」と声を上げる人々
 ■原発関連CM考査の現場で
 ■原発関連の「意見広告」「節電」をめぐる攻防
 ■泊村に原発が建設されるまで
 ■世界初の「フルMOX型」
 ■なぜ工事再開なのか
 ■その場しのぎの原発政策
 ■問われる説明責任
 【コラム】北海道から・特別編 NHKはどう報じたのか

第5章 収まらないフクシマの「孤立」「分断」「対立」
     ――地元民放局の苦悩
 Ⅰ 長期化する避難と消えない健康不安
 ■複雑な課題をどう伝えるか
 ■県外避難者の困惑
 ■「いつ終わりなのかなぁ」
 ■さまよえる家族たち
 ■解消されぬ健康不安
 ■「少ないほうがいいのは当然」
 ■ストレスが少ない生活を
 Ⅱ 二転三転する除染計画に虚妄の安全性
 ■除染は「現代の蟹工船」
 ■希望に向かう道は……
 ■除染作業の実態
 ■捨てるための刈り取り
 ■「できることは何でもやる」
 ■心に希望のタネをまく
 ■原発とともに歩んだ福島民放局
 ■「安全なくして原発なし」
 ■東電のトラブル隠し
 ■危機管理の要諦とは
 Ⅲ 分断と対立、終わりが見えない中で
 ■福島県産農産物のその後
 ■ゾウがアリを踏みつぶす
 ■加害者が被害者を線引き
 ■野生動物の巣窟に
 ■故郷からの反発も
 ■内に秘めてきた苦悩が爆発
 ■〝までい村〟に帰る日
 ■畜産農家の苦悩
 ■犠牲を分かち合いましょう
 Ⅳ 汚染水処理と廃炉、エネルギー政策転換の困難
 ■理解できないニュース
 ■分かっていることが少ない
 ■学者の説明に一喜一憂せず
 ■首都圏の原発の危険性 
 ■ドイツと日本の違い
 ■エコロジー的近代化
 Ⅴ 分断・対立を超えて
 ■帰宅困難区域が残る町で
 ■生活再建をどう進めるのか
 ■「命は数字や記号じゃない」
 ■汚染土は出続けている
 ■医師たちの原発事故
 ■直接死を上回る震災関連死
 ■被害者を追い詰める加害者
 ■踏ん張っている地元局
 Ⅳ 福島の各局は東電旧経営陣強制起訴裁判判決をどう伝えたか
 ■事前予想通りの無罪判決
 ■「納得できない」と市民の声
 ■安全神話のなか対策を怠った経営陣
 【コラム】福島民放4局の報道制作幹部に聞く

第6章 原発銀座福井の50年
     ―― 地元民放局は安全神話にどう向き合ってきたか
 ■「絶対安全です」
 ■絶対安全と言える対策はない
 ■苦悩する地元住民
 ■「原発とともに歩んできた」は原発依存症か?
 ■日本一幸福度が高い県の裏で
 ■廃炉作業の課題は
 ■廃炉も核のゴミ処分場も遠い道程
 ■「後進県」返上をめざして
 ■欧米に調査団を派遣
 ■原発と食、隣合せの矛盾
 ■何を信用していいのか
 ■関電1社提供番組の影響力
 ■「もんじゅ」での事故隠し
 ■基本的なモラルに欠ける

第7章 コロナとイチエフ
     ―― 再びフクシマへ
 ■詳細なニュースも良し悪し
 ■「県内経済は今」 
 ■コロナとの共生
 ■対照的な2つの番組
 【コラム】TUF初のゴールデンタイム自社制作番組『ふくしまSHOW』

エピローグ ―― フクシマが報道機関に突き付けたもの

著者略歴

著:小田桐 誠
小田桐 誠(おだぎり まこと)
1953年、青森県生まれ。10歳から高校卒業まで北海道後志管内喜茂別町で暮らす。亜細亜大学法学部卒業。出版社勤務を経てフリーのジャーナリストに。放送専門誌『GALAC』編集長、BPO(放送倫理・番組向上機構)「放送と青少年に関する委員会」委員、NPO法人放送批評懇談会常務理事・選奨事業委員会委員長、法政大学社会学部兼任講師を経て、現在、メディア総合研究所運営委員、立教大学社会学部と武蔵大学社会学部兼任講師。著書に『消えたお妃候補たちはいま』『NHK独り勝ちの功罪』(以上、ベスト新書)、『NHKはなぜ金持ちなのか?』(双葉新書)、『テレビのからくり』(文春新書)、『PTA改造講座』(NHK生活人新書)、『NHKに明日はあるか』(三一書房)、『企業脅迫!グリコ・森永事件の構図』(社会思想社)、『ドキュメント生協』(社会思想社・現代教養文庫)などがある。

ISBN:9784798063089
出版社:秀和システム
判型:4-6
ページ数:448ページ
定価:2200円(本体)
発行年月日:2020年12月
発売日:2020年12月17日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JKS