『ウクライナ戦争と向き合う ― プーチンという「悪夢」の実相と教訓』
井上達夫(東京大学名誉教授)著
【目 次】
◆プロローグ―我々は何処へ行くのか
◇一 増幅する悪夢的現実
⑴ 疫学的危機と政治的危機の拡大再生産
⑵ 戦争長期化の懸念と世界の行く末への不安
◇二 本書が向き合う問題
⑴ ウクライナ戦争の性質と原因
⑵ 戦争終結への道筋
⑶ ウクライナ戦争が日本に突き付ける課題
・当事者意識の希薄性
・九条問題の正面解決―立憲主義的安全保障体制の確立
◆第一章 いかなる戦争が戦われているのか
◇一 「ロシアは侵略していない」という不思議な「論理」
⑴ 「ネオナチ的支配からのウクライナ解放」という言説の呪力
⑵ 「集団的自衛権行使」論の虚妄性
◇二 「NATOの東方拡大がプーチンを追い詰めた」のか?
⑴ 国際政治におけるリアリズム派の「NATO東進帰責論」
⑵ NATOの変容―集団的自衛権体制から地域的集団安全保障体制へ
・冷戦期対立構図の崩壊によるNATOの機能転換
・NATO東進帰責論の米国陰謀説的偏見
・NATO・ロシア関係の変遷
⑶ コソボ紛争とNATO・ロシア関係
・NATOのコソボ紛争軍事介入とエリツィンの核恫喝発言
・プーチンの親米的・親NATO的対応
⑷ ロシアの軍事的攻勢とNATOのロシアに対する軍事的非関与主義
・攻めるプーチン、自制するNATO
・民主化の波へのプーチンの軍事的応答
⑸ 「リアリスト的プーチン像」の破綻
◇三 「西側」の責任はどこにあるのか―責任の問い方に潜む罠
⑴ 米国とNATOの真の罪責
・「西側」の欺瞞に対するプーチンの応酬
・バイデン陰謀説の欠陥
・「バイデンのそそのかし」より巨大な米国の罪責
⑵ 自己批判の陥穽―「二悪二正論」を越えて
・戦争責任問題における「二悪二正論」の呪縛
・「二悪二正論」の自壊性と執拗性
⑶ 「チョムスキーよ、お前もか」
・対露宥和主義へのチョムスキーの傾斜
・ウクライナ知識人たちの公開書簡
・チョムスキーの意図の好意的解釈―ウクライナへの愛?
・「自己批判の陥穽」へのチョムスキーの転落
◇四 プーチンがウクライナを侵略した真の狙いは何か
⑴ 「ユーラシアニズム」というアイデンティティ政治への転向?
・ロシアにおけるユーラシアニズムの復活とプーチン
・ミンスク合意の虚妄性
・ウクライナ征服のイデオロギー的道具
⑵ 「対外硬、内に憂あり」―プーチンの自己保身戦争
・挑発されざる戦争に為政者が走る一般的理由
・民主化の波に対するプーチンの自己保身
・自己保身主因論に対する批判への応答―陰りゆくプーチンの威光
・軍人イヴァショフによるプーチン批判
・アイデンティティ起業家的プーチン像と自己保身主因論の整合性
◆第二章 戦争はいかにして終わり得るのか
◇一 ウクライナ戦争の実相認識と国際社会の対応
◇二 第三国の仲介調停による紛争解決の可能性―中国の利害と期待可能な役割
⑴ 戦況の膠着と停戦交渉の頓挫―調停役はいないのか
・ロシアとウクライナの亀裂拡大と第三者的調停役の不在
・調停者としての中国の可能性
⑵ 中国の政治的・経済的利害状況
・中国経済の沈下要因としてのロシア
・中国の国際政治原則・世界戦略を掘り崩すロシア
・中国の戦略的利害が見えていない習近平
◇三 戦争泥沼化の行く末―破滅は止められるか
⑴ 戦術核兵器使用から第三次世界大戦へ?
・「戦術核兵器限定使用」の非現実性
・「核のブラフ」への屈従の自壊性
⑵ ロシアが勝てない戦争をプーチンが止めない理由
・米国とソ連の失敗から学習できないプーチン
・なぜロシアはウクライナ戦争に勝てないのか
・プーチンの戦況認識が歪められている可能性
・戦況が不利でもプーチンが戦争を止められない理由
⑶ 「テレビと冷蔵庫の戦い」―ロシア国民は覚醒できるか
・ロシア国民しかプーチンを止められない
・アレクイシエービッチの「知恵の言葉」―ロシア国民の変容可能性
・「プーチンが排除されても明るい展望は開かれない」のか?
・「冷蔵庫をテレビに勝たせる」ための対露経済制裁の意義と効果
・対露経済制裁強化はロシア国民に対して苛酷か?
・ロシアの民に捧ぐ、ディランとともに―To Russians, with Dylan
◆第三章 この戦争から日本は何を学ぶべきか
◇一 ウクライナ戦争の「当事者意識なき当事者」日本
⑴ 「反ロシア共同戦線」への日本の参加
・「火事場」に立ち入った日本
・ミロノフの恫喝の意味
⑵ サハリン・プロジェクト撤退問題―危機管理意識なき日本
・問題認識の倒錯―敵に回したロシアに依存し続けたい日本
・エネルギー政策の抜本的転換ができない日本
◇二 立憲主義的統制に服する自衛戦力の確立
⑴ 「危なすぎて使えない軍隊」としての自衛隊
・「仁義なき戦争」が跋扈する国際社会
・日本の安全保障体制の根本的欠陥―憲法九条と自衛隊の矛盾の放置
・自民党「改憲四項目案」の愚
・なぜ自衛隊は「使えない軍隊」なのか
・最低限の憲法九条改正構想
⑵ 国際社会は「自らを助くる者のみを助く」
・「戦うウクライナ」が変えた欧米の支援姿勢
・「平和を愛する諸国民の公正と信義」の実相
⑶ 「日米安保信仰」を超えて
・護符としての日米安保―「いざとなったら米軍が護ってくれるから大丈夫」
・護符の効験の実相
・自主防衛能力確立と日米安保体制対等化の不可分性
◆エピローグ―壊れやすきもの、汝の名は世界