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デリダで読む『千夜一夜』

文学と範例性

著:青柳 悦子

紙版

内容紹介

ワードマップ『現代文学理論』『文学理論のプラクティス』などにおいて、難解な現代文学理論を鮮やかに料理した著者ですが、本書のもとになった博士論文の審査会では、「デリダがこんなにわかっていいのかしら?」と驚嘆され、本になれば「定番のデリダ再入門になるであろう」と言われたそうです。本書は、単独性と一般性の結節点である範例性(「例」に由来する)という単純なキイ概念を手がかりにデリダ思想の本質を解き明かし、さらにその分析手法が西洋文学だけでなく、東洋の『千夜一夜物語』の読みにも有効であることを示したものです。デリダ再入門としてだけでなく、アラビアンナイト論としても抜群の面白さです。著者はつくば大学教授。

目次

序章
第一節 本書の目的と問題設定
第二節 先行研究と本書の位置づけ

第Ⅰ部 ジャック・デリダにおける「範例性」の概念と「文学」
はじめに 〝デリダの思想”と「文学」と「範例性」
第一章 「範例性」概念の展開
第一節 「例」の問題性
第二節 「模範的な」あり方の特権性と「法」
1 『弔鐘』――神という最良にして唯一無二の例
2 「パレルゴン」――判断の補助車としての「例」
3 「予断――法の前に」――特殊例と一般例の決定不可能性
第三節 特個性と普遍性の接合に向けて
1 『ユリシーズ グラモフォン』――過剰記憶と自己例証機能
2 「文学と呼ばれるこの奇妙な制度」――文学の「範例性」
第四節 「範例性」の構造
1 『パッション』――アポリアのメカニズムとしての「範例性」
2 『滞留』――生の原理としての「範例性」

第二章 「自己」の「範例性」
第一節 「無」の「究極例」の究極的な価値――『シニェポンジュ』
1 反=詩としてのポンジュ
2 「物」と特個性の力――外部へ向けて
3 「スポンジタオル」と「無」の例
4 「非=絶対」詩
第二節 「一」の反復可能性――『シボレート』
1 「日付」システムにおける「一」の強化と超脱
2 単数的かつ複数的な存在の可能性
3 出来事の「非=場」
4 自己への非=回帰
第三節 自己例証化の陥穽――『他の岬』における自己選別批判
1 岬=頂点と自己選別
2 〈範例主義的な〉論理
3 「特個性の詩学」?
第四節 特個的な自己をいかに語るか――『他者の一言語使用』
1 自己を語る困難――自分という例を前にして
2 自己の通約不可能性
3 デリダと西欧中心主義
第三章 虚構文学の「範例性」
第一節 「秘密の文学」――自他の反射的結合の場としての虚構文学
1 文学と「言おうとしない」こと
2 カフカ「父への手紙」にみる自律性と他律性の凝着――鏡像反射的同一化
3 赦しの懇請――自他の無限反射
4 文学における自律性と他律性の結合
5 不可能な系譜――文学におけるつながりなきつながり
第二節 「死を与える」――人間存在の「範例性」と「文学」
1 近現代社会における特個性の回復――出発点として
2 自己の特個性から、他者への開かれへ
3 他者の特個性から、普遍性への開かれへ
4 そのつど新たなやり直し
5 非主体性の場における主体性
第三節 虚構=文学の「範例性」――「タイプライターのリボン」まで
1 嘘と盗みの開く文学の可能性――初期アルトー論から『滞留』へ
2 偽証文学としてのルソーの「範例性」――「タイプライターのリボン」
3 出来事とマシンの両立
4 生の哲学としての「範例性」の思考
第Ⅰ部のまとめ 「範例性」議論の位置づけとデリダの「文学」観

第Ⅱ部 現代的テクストとしての『千夜一夜』――文学における「範例性」のモデルとして
はじめに 『千夜一夜』と文学研究
第四章 『千夜一夜』の生成過程と本質的可変性
第一節 作品の生成過程
1 「起源」の不在
2 反復される「完成」
第二節 編纂というテクスト生産活動
1 第二次の文学の場としての『千夜一夜』
2 印刷本の登場と(不可能な)正典化
3 収集編纂にみる反オリジナリティの原理
第三節 移動する作品

第五章 『千夜一夜』の越境性――離接的テクストとして
第一節 テクストの離接的構造
1 作品の「境界」の消失
2 入れ子構造と異世界への接続
3 教訓性の無効化
第二節 物語テクストのハイブリッド化
1 転調による物語展開
2 通時性のテクスト化と離接の構造
3 語る主体の範例化
第三節 ジャンルの越境
1 文化的位階の越境
2 口誦性と書記性の越境的な混淆
3 多元的喚起力――さまざまな芸術ジャンルへのアダプテーション

第六章 『千夜一夜』の汎=反復性――テクスト構成原理としての「範例性」
第一節 反復に対するこれまでの評価――否定的評価の伝統
第二節 表現の反復
1 夜の切れ目における反復――象徴的用法
2 ストック・デスクリプション――特個化と類例化
3 人物の反復
第三節 内容における反復
1 頻繁に使われるモチーフ
2 対の物語
3 パロディ的連関をなす小話群
4 『千夜一夜』の構成原理としての反復性
5 『千夜一夜』の外部との反復性

第七章 『千夜一夜』における範例的主体像――「非=知」と受動性
第一節 海のシンドバードにみる『千夜一夜』の主人公像
1 人喰い巨人の共通モチーフ
2 知のヒーローとしてのオデュッセウス
3 痴愚の代表シンドバード
第二節 『千夜一夜』における無能力者の系譜――その歴史的変化
1 古層の物語――寝取られ亭主たちの無力
2 増殖する無能な主人公たち

3 女性と知――無能主人公の脇役として
4 さまざまな民衆文学にみる主人公たち
第三節 非実体論的存在観――『千夜一夜』とイスラームの認識論
1 『千夜一夜』とイスラーム
2 イスラームにおける非連続的世界観
3 因果論の否定――ガザーリー
4 スーフィーズムにおける存在顕現の哲学
5 非実体論から肯定の思想へ
第Ⅱ部のまとめ 『千夜一夜』と「範例性」

終章 デリダと『千夜一夜』
あとがき 
註 
資料 
1 『千夜一夜』収録話タイトル一覧 
2 『千夜一夜』生成過程略年表 
文献一覧 
事項索引 
固有名詞索引

ISBN:9784788511590
出版社:新曜社
判型:A5
ページ数:616ページ
定価:6400円(本体)
発行年月日:2009年05月
発売日:2009年05月29日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:QDH
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:QDX
国際分類コード【Thema(シーマ)】 3:1DDF
国際分類コード【Thema(シーマ)】 4:1DDN