父といっしょに
車に乗った
言葉を交わさない
夏の光の午後だった
(「運転手の心得」)
「だが、決して大きな声は出さない。サワサワと身をくねらせ葉と葉、枝と枝をこすり合わせて、未完の言語で会話するのである。家族は血だけでつながりあっているのではない。何年経っても朽ちないように根を張り、太い幹に支えられ、毎年葉を繁らせ、枝を伸ばし続け、つながろうと努力しているのだ」(「沈黙の家族」)。
どこにでもいる小さな家族、でも私だけの家族。父母を見送っていま、書かねばならなかったものへ――。やわらかな声でこころの底にわけいっていく、詩30篇。
装画=辻憲