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菓子変敗の科学 - 微生物的原因とその制御

著:内藤茂三

紙版

内容紹介

本書「まえがき」より
 日本では長い間,菓子といえば果物であり,江戸時代には,果物は水菓子と呼ばれていた.すなわち,菓子と同じように,甘味のある嗜好品として用いられていた.つまり菓子の祖先は果物である.
 菓子の代名詞は砂糖であるが,菓子の歴史の中で砂糖の普及は比較的新しく,これに対して原始古代のころから作られていたのが飴である.砂糖についての信仰や民俗が少ないのに対し飴にかかわるものは全国的に分布する.飴とは,主に穀物や芋などのでん粉と麦芽を原料とする麦芽飴である.菓子の初めが木の実や果物であったことから,甘いものが菓子であるとされた.
 人々が生を受けてから土に戻るまで,種々の行事があるが,必ず菓子が配されている.出生の祝い,初節句,誕生祝い,七五三の祝い,入学・卒業祝い,成人祝い,就職祝い,結婚祝い,快気祝い,賀の祝いなどがあり,これらには餅や饅頭などの引き菓子が使われている.季節の移ろいを告げる菓子,人と人の交流を拡大する菓子,社会儀礼での菓子,喜びや悲しみに心通わせる菓子,団結の和を拡げる菓子,恋を囁く菓子,泣く子をあやす菓子などが生活の中に溶け込んでいる.これだけ多くの祝事に使われ愛されている菓子に微生物変敗があれば広くその影響が及ぶ可能性がある.
 菓子の微生物による変敗の難易は菓子自体の水分,糖濃度によって基本的には規制されるが,原料,製造工程からの微生物の汚染の多少,熱処理の程度,保存料使用の有無,さらには菓子保存中の温度,湿度と外部からの二次汚染の様相によって変化する.このことは菓子の微生物による変敗は人間が関与していることを示している.菓子変敗は特に湿度に大きく関係し,カビ,酵母,細菌が増殖する.ことに菓子の保存中の湿度条件は保存性に重要な関連をもち,吸湿により外気の水分が菓子の表面に凝縮すると,まず表面にカビが生育し,さらに酵母,細菌の侵害がおきる.
 微生物による菓子変敗は一定の規則に従って生成するので,原因解明および標準対策の設定は菓子業界全体に貢献すると考えられる.色々な菓子や様々な条件の下で効果的であることが立証されている方法は,基本的な関係に従って収集し分類されるならば,同一または異なった条件の下での他の食品や,様々な条件において効果的であると立証された方法と比較することができる.したがって,この基本的原理は,合理的な思考の方向および健全な判断の形成を示すものとなる.菓子もこのような,昔の身土不二の形態から,現代の欧風型に変化してきている.
 菓子変敗と防止対策についてできるだけ多くの事柄を紹介するように努めたが,行き届かない点や不十分な点も多く残っていると思う.また,著者が間違って理解している点があるかもしれない.この点については読者の方々からのご意見やご批判を頂きたいと思っている.
 本書が菓子変敗の機構に注意を喚起し,この分野で研究する端緒になれば著者の望外の喜びになるであろうと信じている.

目次

目   次
第1 章 洋菓子の微生物変敗と防止
1.1 洋菓子の微生物
1.2 洋生菓子の微生物変敗と制御
 1.2.1 洋生菓子の種類と水分
 1.2.2 洋生菓子の微生物
 1.2.3 洋生菓子原材料の微生物変敗
 1.2.4 洋生菓子製造工程の微生物
 1.2.5 洋生菓子の微生物変敗
1.3 洋半生菓子の微生物変敗と制御
 1.3.1 洋半生菓子の種類と水分
 1.3.2 洋半生菓子の微生物
 1.3.3 洋半生菓子原材料による微生物変敗
 1.3.4 洋半生菓子製造工程の微生物
 1.3.5 洋半生菓子の微生物変敗と制御
1.4 洋乾菓子の微生物変敗と制御
 1.4.1 洋乾菓子の種類と水分
 1.4.2 洋乾菓子の微生物
 1.4.3 洋乾菓子原材料による微生物変敗
 1.4.4 洋乾菓子製造工程の微生物
 1.4.5 洋乾菓子の微生物変敗
1.5 洋菓子の微生物制御
 1.5.1 洋菓子とエタノール
 1.5.2 洋菓子の微生物変敗防止とエタノール
 1.5.3 洋生菓子の微生物制御
 1.5.4 洋半生菓子の微生物制御
 1.5.5 洋乾菓子の吸湿性と微生物制御
 
第2 章 和菓子の微生物変敗と防止
2.1 和菓子と微生物
2.2 和菓子の酵母による変敗
 2.2.1 和菓子を変敗させる酵母
 2.2.2 和菓子の酵母による変敗機構
 2.2.3 和菓子を変敗させる酵母の汚染源
 2.2.4 和菓子の酵母による変敗に及ぼす酸素の影響
2.3 和菓子の乳酸菌と酵母による変敗
2.4 和菓子のカビによる変敗
 2.4.1 和菓子のカビによる変敗と環境中の湿度
 2.4.2 低酸素下で生育するカビによる和菓子の変敗
 2.4.3 低水分下で生育するカビによる和菓子の変敗
 2.4.4 エタノールを資化するカビによる和菓子の変敗
 2.4.5 低温性カビによる和菓子の変敗
 2.4.6 好稠性カビによる和菓子の変敗
 2.4.7 好湿性カビによる和菓子の変敗
2.5 和菓子の細菌による変敗
 2.5.1 和菓子の細菌による変敗機構
 2.5.2 和菓子を変敗させる細菌
 2.5.3 水ようかんの細菌による変敗
2.6 和菓子の酵母による変敗
 2.6.1 和菓子の保存技術に伴う膨張現象
 2.6.2 どら焼の保存と包装材料の選択
2.7 和菓子のカビによる変敗と制御
 2.7.1 和菓子を変敗させるカビの特徴
 2.7.2 Cladosporium による和菓子の変敗
 2.7.3 Cladosporium herbarum のオゾン水殺菌
 2.7.4 和菓子に生育するカビの制御
2.8 和菓子の細菌による変敗と制御
 2.8.1 上用饅頭のオゾン処理による変敗と制御
 2.8.2 水ようかんのオゾン処理による細菌の制御
 2.8.3 レトルト粒あんの微生物変敗と制御
 2.8.4 和菓子の脱酸素剤による細菌の変敗と制御
2.9 和菓子の微生物変敗制御
 2.9.1 加熱殺菌
 2.9.2 薬剤殺菌
 2.9.3 オゾン水およびオゾンガス殺菌

第3 章 蒸物菓子の微生物変敗と制御
3.1 蒸物菓子と微生物
3.2 蒸物菓子原材料の微生物
 3.2.1 米粉の種類と微生物
 3.2.2 米粉の製造と微生物
3.3 蒸物菓子の製造工程の微生物
 3.3.1 蒸物菓子の製造工程における汚染微生物
 3.3.2 蒸物菓子製造工程でのBacillus の汚染
 3.3.3 蒸物菓子製造工程での乳酸菌の汚染
 3.3.4 蒸物菓子製造工程での酵母の汚染
 3.3.5 蒸物菓子・餅菓子製造工程でのカビの汚染
 3.3.6 蒸物菓子製造工程でのカビと細菌の汚染
 3.3.7 蒸物菓子製造工程でのカビと酵母の汚染
3.4 蒸物菓子の微生物変敗
 3.4.1 ういろうの微生物変敗
 3.4.2 団子の微生物変敗
 3.4.3 笹団子の微生物変敗
 3.4.4 蒸物饅頭の微生物変敗
 3.4.5 かるかんの微生物変敗
 3.4.6 そぼろ餡棹物菓子の微生物変敗
3.5 蒸物菓子の微生物変敗制御
 3.5.1 保存料による微生物制御
 3.5.2 脱酸素剤による微生物制御
 3.5.3 オゾンによる微生物制御

第4 章 焼物菓子の微生物による変敗と制御
4.1 焼物菓子と微生物
 4.1.1 焼物菓子とカビ
 4.1.2 焼物菓子と酵母
 4.1.3 焼物菓子と細菌(Bacillus)
4.2 焼物菓子の種類と製造工程での微生物汚染
 4.2.1 焼物菓子の種類と微生物汚染防止対策
 4.2.2 焼物菓子製造工程での微生物汚染と変敗
 4.2.3 タルトの製造工程での微生物汚染と変敗
 4.2.4 カステラおよびバウムクーヘンの製造工程での微生物汚染と変敗
 4.2.5 焼甘栗製造工程での微生物汚染と変敗
 4.2.6 マフィンおよびクッキーの製造工程での微生物汚染と変敗
 4.2.7 シホンケーキとティラミスケーキの製造工程での微生物汚染と変敗
 4.2.8 クレープおよびピザの製造工程での微生物汚染と変敗
 4.2.9 フォンダンとフォンダン利用菓子の製造工程での微生物汚染と変敗
4.3 焼物菓子の酵母による変敗
 4.3.1 焼物菓子の変敗酵母
 4.3.2 焼物菓子の酵母による変敗
4.4 焼物菓子のカビによる変敗
 4.4.1 焼物菓子の変敗カビ
 4.4.2 焼物菓子のカビによる変敗
4.5 焼物菓子の細菌による変敗
 4.5.1 焼物菓子の変敗細菌
 4.5.2 焼物菓子の細菌による変敗
4.6 焼物菓子の微生物制御
 4.6.1 脱酸素剤による微生物制御
 4.6.2 脱酸素剤と炭酸ガスによる微生物制御
 4.6.3 脱酸素剤とオゾンによる微生物制御

第5 章 糖蔵菓子の変敗と制御
5.1 糖蔵菓子と微生物
 5.1.1 糖蔵菓子と酵母
 5.1.2 糖蔵菓子とカビ
 5.1.3 糖蔵菓子と細菌
5.2 糖蔵菓子の微生物変敗
 5.2.1 甘納豆の微生物変敗
 5.2.2 小豆かのこ豆の微生物変敗
 5.2.3 泡雪かんの微生物変敗
 5.2.4 マロングラッセの微生物変敗
 5.2.5 大学芋の微生物変敗
 5.2.6 アーモンドフロランタンの微生物変敗
 5.2.7 キャラメルの微生物変敗
 5.2.8 きんつばの微生物変敗
 5.2.9 練りようかんの微生物変敗
5.3 糖蔵菓子の微生物制御
 5.3.1 加熱殺菌による微生物制御
 5.3.2 薬剤殺菌による微生物制御
 5.3.3 オゾン水およびオゾンガス殺菌

第6 章 パンの微生物変敗と制御
6.1 パンの微生物変敗
 6.1.1 パンの微生物変敗要因
 6.1.2 工場微生物移動理論
6.2 パンの微生物変敗に関与する細菌
 6.2.1 パンの変敗と細菌
 6.2.2 パンとロープ現象
 6.2.3 パンの乳酸菌による酸味現象の生成要因
6.3 パンの変敗に関与するカビ
 6.3.1 パン変敗とカビ
 6.3.2 パンのカビによるオレンジ色斑点生成
 6.3.3 パンのカビによる酸敗
6.4 パン変敗に関与する酵母
 6.4.1 パン変敗と酵母
 6.4.2 パンの酢酸エチル臭生成
 6.4.3 パンの酢酸エチル臭生成機構
 6.4.4 パンの酢酸エチル臭の生成に及ぼす酵母菌数の影響
6.5 食パン工場のカビによる変敗
 6.5.1 食パン工場のカビ
 6.5.2 食パンスライス工程中のカビ
 6.5.3 食パン工場の空中浮遊カビ
 6.5.4 食パン製造工程のカビ
6.6 食パンの微生物変敗要因
6.7 パン工場の微生物制御
 6.7.1 パン工場のエタノール殺菌
 6.7.2 パン工場のオゾン殺菌
 6.7.3 パン工場でのオゾンとエチルアルコールの併用殺菌
 6.7.4 パン製造における有機酸の利用
 6.7.5 パンの貯蔵場所による微生物の変化
 6.7.6 パンの脱酸素剤による微生物の変化

第7 章  ゼリー菓子および果汁飲料の微生物変敗と制御
7.1 ゼリーの製造工程と微生物変敗
 7.1.1 ゼリーの種類と微生物
 7.1.2 果実ゼリーの製造工程と微生物汚染
 7.1.3 トマトゼリー製造工程と微生物汚染
 7.1.4 メロンゼリーの製造工程と微生物汚染
7.2 ゼリーの微生物変敗
 7.2.1 ゼリーの原材料の微生物
 7.2.2 ソフトゼリーの黒色変敗に関与する微生物
 7.2.3 乾燥ゼリーの微生物による変敗
7.3 ゼリーの微生物制御
 7.3.1 カビと酵母
 7.3.2 果汁の殺菌
 7.3.3 ゼリー製造工程での微生物汚染と制御
7.4 果汁飲料の製造工程と微生物制御
 7.4.1 果汁飲料と微生物変敗
 7.4.2 果汁飲料の微生物変敗原因菌
 7.4.3 果汁飲料のカビによる変敗
 7.4.4 果汁飲料の耐熱性カビによる変敗
 7.4.5 果汁飲料の耐熱性カビの耐熱性
 7.4.6 果汁飲料の 耐熱性カビの制御
7.5 耐熱性酸性細菌による果汁飲料の変敗と制御
 7.5.1 耐熱性細菌による果汁飲料の変敗
 7.5.2 有芽胞乳酸菌による果汁飲料の変敗
 7.5.3 耐熱性有芽胞菌による果汁飲料の変敗
 7.5.4 耐熱性酸性芽胞形成細菌の耐熱性
 7.5.5 耐熱性酸性芽胞細菌の制御
7.6 飲料変敗微生物の酸化還元電位による制御
 7.6.1 酸化還元電位(ORP)による制御
 7.6.2  果汁飲料変敗微生物の酸化還元電位の調整による制御

第8 章 餅菓子の微生物変敗と制御
8.1 餅菓子と微生物変敗制御
 8.1.1 餅菓子と行事食
 8.1.2 餅菓子と微生物
 8.1.3 餅菓子の微生物変敗現象
 8.1.4 餅菓子の微生物変敗制御
8.2 餅菓子の製造工程中の微生物汚染による変敗
 8.2.1 餅菓子の製造工程中の微生物変敗
 8.2.2 餅菓子の製造工程中の微生物
8.3 生切り餅のオゾン処理による微生物制御
 8.3.1 好気性細菌の制御
 8.3.2 嫌気性細菌の制御
 8.3.3 揮発性脂肪酸の変化
8.4 オゾン処理米で製造した生切り餅の微生物制御
 8.4.1 好気性細菌の制御
 8.4.2 嫌気性細菌の制御
 8.4.3 揮発性脂肪酸の変化
8.5 餅の微生物制御
 8.5.1 原料米の洗米による微生物および増殖促進物質の除去
 8.5.2 原料米の微生物制御
 8.5.3 包装餅のBacillus による変敗制御

第9 章 米および小麦粉菓子の微生物変敗と制御
9.1 米および小麦粉菓子の種類と特徴
 9.1.1 米菓の種類と特徴
 9.1.2 小麦粉菓子の種類と特徴
9.2 米菓の微生物変敗
 9.2.1 もち米米菓
 9.2.2 うるち米米菓
 9.2.3 小麦粉煎餅
 9.2.4 油菓子と微生物
 9.2.5 でん粉膨化菓子えび煎餅
 9.2.6 魚煎餅
 9.2.7 柿の種
 9.2.8 ボーロ
 9.2.9 五平餅と微生物
9.3 米菓の微生物変敗防止
 9.3.1 あられ,おかきの微生物変敗防止
 9.3.2 煎餅の微生物変敗防止
 9.3.3 えび煎餅の微生物変敗防止
 9.3.4 柿の種の微生物変敗防止
 9.3.5 ボーロの微生物変敗防止
 9.3.6 五平餅の微生物変敗防止

第10 章 チョコレートの微生物変敗と制御
10.1 カカオ豆の微生物
10.2 カカオ豆の残留農薬
10.3 カカオ豆ハクス(外皮)からの抗酸化物質
10.4 チョコレートの微生物変敗防止
 10.4.1 チョコレートの規格
 10.4.2 チョコレート製品の種類と微生物汚染
 10.4.3 チョコレート生地の製造工程と微生物
 10.4.4 チョコレート菓子のカビによる変敗
 10.4.5 チョコレート菓子の酵母による変敗と防止技術
 10.4.6 チョコレート菓子の細菌による変敗と防止技術
 10.4.7 チョコレート菓子の微生物変敗防止
10.5 チョコレート菓子の変敗防止技術
 10.5.1 チョコレート菓子工場の殺菌 7
 10.5.2 チョコレートの低温保蔵

著者略歴

著:内藤茂三
三重県出身 農学博士,技術士,社会福祉士,調理師
三重大学大学院農学研究科修士課程修了
鈴鹿大学大学院国際学研究科修士課程修了
日本福祉大学大学院社会福祉学研究科修士課程(通信教育)中退
三重大学農学部農芸化学科卒業
日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科卒業
愛知県立大学外国語学部第二部英米学科中退
三重短期大学法経科第二部卒業
名古屋調理師専門学校卒業
あいち医療福祉専門学校中退

愛知県産業技術研究所 食品工業技術センター
愛知学泉短期大学食物栄養学科教授

現在:食品・微生物研究所 所長,食品腐敗変敗防止研究会代表
   地域福祉食文化研究会代表,米飯行事食研究会代表
   オゾンラジカル研究会代表,食品オゾン研究会代表

ISBN:9784782104637
出版社:幸書房
判型:菊判
ページ数:420ページ
定価:6200円(本体)
発行年月日:2022年04月
発売日:2022年04月20日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:MBN