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遺伝について家族と話す

遺伝性乳がん卵巣がん症候群のリスク告知

著:李 怡然

紙版

内容紹介

がんが遺伝性かもしれないとわかったとき、患者は家族や身近な人々にどう伝えようとするのか。それとも、伝えないでいるのか。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の当事者へのインタビュー調査から、「リスク告知」の経験や困難を丁寧に描き出し、家族内で行われるコミュニケーションの複雑で多様なあり方に迫るとともに、あるべきサポートのかたちを考える。
ゲノム医療が急速に発展し、誰もが発症リスクを知りうる時代に向けた医療社会学研究。

たとえば、想像してみてほしい。仮にあなたが、がんの診断と同時に、あるいは治療後に遺伝学的検査を受けて、遺伝子の変化があると判明したとしよう。「お子さんも、50%の確率で、同じ遺伝子の変化を受け継ぐかもしれません」「ごきょうだいや親御さん、いとこなども同じ病気になる可能性があります」と医療者から告げられた場合、それをどのように受け止め、行動をとるだろうか。家族の中で、誰に、いつ、どのように話せばいいだろうか、と考え始めるかもしれない。役に立つ情報だから早く伝えてあげようと動くこともあれば、相手を不安にさせてしまうのではと心配し、あるいは伝えようにも、家族・親族との関係性次第で、打ち明け方に悩むかもしれない。患者や家族は、病気の治療とは別の困難さや葛藤に直面し、選択を迫られることになる。
本書が取り上げるのは、まさに、このような遺伝性のがんのリスクを知り、家族内のコミュニケーションに向き合おうとする人々の経験である。(「まえがき」より)


 
●著者紹介
李怡然(り いぜん)
東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター 公共政策研究分野助教。2019 年東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。博士(学際情報学)。専門は医療社会学、生命倫理学。研究テーマは、医療と医学研究をめぐる家族内のコミュニケーション、疾病リスクの予測・予防と市民や社会との関わりについて。
主な著作に、「ゲノム医療時代における「知らないでいる権利」」『保健医療社会学論集』29(1): 72?82, 2018.(共著)、「家族内における遺伝性疾患の「リスク告知」――疾患横断的な展開へ向けて」『保健医療社会学論集』30(1): 65?75, 2019. “Ethical Issues: Overview in Genomic Analysis and Clinical Context,” In: Nakamura, S., Aoki, D., Miki, Y., eds., Hereditary Breast and Ovarian Cancer, Springer, 259?279. 2021.(共著) など。

目次

まえがき
用語集

第Ⅰ部 遺伝性疾患について知る/知らないでいること、伝えること

第1章 家族内での遺伝をめぐるコミュニケーション
1 遺伝性のがんについて家族と情報共有することはなぜ重要視されているのか
2 本書のテーマと問い

第2章 遺伝/ゲノム医療の専門職の規範はどう変わってきたか
1 「知らないでいる権利」を尊重する規範の成立
2 対処可能性に基づく「知る」ことの推奨と規範のゆらぎ
3 日本におけるがんゲノム医療の課題:二次的所見をどう取り扱うか
4 血縁者との情報共有のガイドライン
5 小  括
Column1 遺伝/ゲノム医療に関わる専門職

第3章 患者・家族の「告知」をめぐる先行研究
1 遺伝性疾患の家族内のコミュニケーションに関する研究
2 「告知」という研究枠組み
3 本書における調査課題と対象の設定
Column2 医療者は患者の同意なく血縁者に告知してよいのか

第Ⅱ部 HBOC患者と家族へのインタビュー調査
第4章 調査の対象と概要
1 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とは何か
2 調査の目的
3 調査方法
4 調査結果の章構成

第5章 遺伝学的検査とリスク低減手術にまつわる意思決定
1 調査協力者の属性
2 遺伝学的検査の受検に至るまで
3 検査結果を「知る」ことのインパクト
4 遺伝学的検査を受検しない理由
5 リスク低減手術の意思決定
6 小  括

第6章 親から子へのリスク告知
1 調査協力者の属性
2 遺伝について伝えるステップと役割の認識
3 遺伝について伝える:子の発症前検査への態度に着目して
4 遺伝について伝えない
5 遺伝について伝えられた子の受け止め
6 小  括

第7章 血縁者・親族へのリスク告知
1 調査協力者の属性
2 伝えることへの責任感
3 伝えることに伴うジレンマ
4 小  括

第8章 リスク告知のパターンと多様な価値観
1 遺伝性疾患のリスク告知のモデル
2 告知の意思決定に関わる要素
3 告知の困難さと乗り越える戦略
4 親としての子の結婚・出産への気がかり
5 家族内のピアとして子を支える
6 医療者の告知における関わりの限定と可能性

第9章 ゲノム医療の時代を生きる当事者=私たち
1 臨床の実践や支援への示唆
2 予測・予防が求められる社会の「リスク告知」

あとがき
Abstract
参考文献
索  引

著者略歴

著:李 怡然
東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター 公共政策研究分野助教。2019 年東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。博士(学際情報学)。専門は医療社会学、生命倫理学。研究テーマは、医療と医学研究をめぐる家族内のコミュニケーション、疾病リスクの予測・予防と市民や社会との関わりについて。
主な著作に、「ゲノム医療時代における「知らないでいる権利」」『保健医療社会学論集』29(1): 72?82, 2018.(共著)、「家族内における遺伝性疾患の「リスク告知」――疾患横断的な展開へ向けて」『保健医療社会学論集』30(1): 65?75, 2019. “Ethical Issues: Overview in Genomic Analysis and Clinical Context,” In: Nakamura, S., Aoki, D., Miki, Y., eds., Hereditary Breast and Ovarian Cancer, Springer, 259?279. 2021.(共著) など。

ISBN:9784779517846
出版社:ナカニシヤ出版
判型:A5
ページ数:280ページ
定価:3500円(本体)
発行年月日:2024年03月
発売日:2024年04月05日