本書は、最近の国際政治・経済および国際機構の課題を精選し、2人の著者の異なった手法で、記述した論文集である。
第1部で著者は、自らの数年にわたる大学での講義題材から現代の学生・社会人が最も緊急に必要とすると信ずる数項目を、国際政治・経済および国際機構の視点に絞って選択し、オルタナティブの提示を試みている。各課題は、それ自体一個の研究題材になるほどの内容を有するが、著者は入門書と研究書としての双方の機能を備えるように集約して簡潔に記述し、類書にはない利便性を生み出すように工夫している。
第1部の国際社会の現代の課題では、第1章で、今日の安全保障の諸体系の問題を論じ、各国のトランス・アーマメント、非同盟、内的強靭性、外的有用性を促進していくことによって国連による集団的安全保障体制を構築することの必要性を論じた。第2章では、核保有国の核兵器配備状況、各国の軍事費、軍備管理・軍縮・不拡散の取組み、日本の非核三原則、北朝鮮の核開発問題、イランの核開発問題を考察し、打開策を論じている。第3章では、世界で最も憂慮されている主要な地域紛争を考察。第二次世界大戦から現在まで継続しているもの、紛争の深い原因が内蔵され東西冷戦の終焉とともに顕在化したものなど、その形態や時期も様々であるが、大きく区分して、大国が背後から介入して生じた性格のもの、経済格差などの経済問題や一党独裁制などの政治問題などを人為的な民族主義的キャンペーンで民族問題にすり替えたために引き起こされてきたもの、植民地支配の負の遺産による部族紛争の特質を論じている。
第4章では、紛争激化に伴い人道上の罪悪となる暴力・残虐行為が多発し、国際的紛争・戦争においては、ますますその事例が多く広汎に見られ、これらの問題を解決するために、国際社会はどのように対応してきたか、将来的な課題は何か、実例を検証する。他方、人権を抑圧する国の政権に対して人権外交の名を掲げて外国から干渉や圧力を加える事例も多いが、この方法の正当性や有効な成果について論じている。
第5章では、「ケインズの双子」と呼ばれているIMFと世界銀行が、1980年代以降、ケインジアンとは正反対の新古典派によって支配され、ブレトンウッズ体制の弊害が言われてから久しいが、その原因、実情、今後の対策について考察している。第6章では、貿易に関して国際的な取組みの枠組みとしてのGATT/WTOが、先進国と弱い立場にある途上国との合意を得られておらず、法規制や基準を定めることによって、公正な貿易、安全管理、環境保護、労働者などの人権擁護などを行う国際機関にWTOが再編されることの必要性を論じている。
第7章は、地域経済統合の代表的な例を各々の生成・発展の過程、実情、対等で公平な地域統合のための課題などについて分析し、解明したものである。
第8章では、米国発の世界金融・経済危機の原因から経過、現状の分析を行い、その対策を論じ、国際的な秩序の再建までを展望している。
第9章では、20…