まえがき
解説:不器用だけど大事な本 美馬達哉
序 章
1.本研究の目的
2.自閉症小史
3.用語について
4.先行研究
5.本研究の構成
第1章 医学的な自閉症論――早期幼児自閉症から自閉症スペクトラム障害へ
自閉者児の親として自閉症を研究した人
1.ウィングの研究
1-1 典型的でない自閉症の示唆
1-2 アスペルガー症候群の提唱
1-3 アスペルガー症候群から自閉症連続体へ
1-4 自閉症スペクトラムの拡大
2.親のためのガイドブック
2-1 親たちの知恵を集め自閉症児を育てる
2-2 自閉症児の親とスペクトラム概念
3.考察――ある人たちを語るための「余地」を生み出すこと
小 括
第2章 心理学分野の自閉症スペクトラム障害研究における障害観の変化と揺らぎ
心理学から見た自閉症、アスペルガー症候群、自閉症スペクトラム障害
1.「心の理論」欠損説の誕生――自閉症の心理学的「発見」と逸脱の可視化
1-1 「心の理論」欠損説の誕生
2-2 「心の理論」の特異的発達遅滞説
2.マインド・ブラインドネス説――逸脱の強調
2-1 自閉症の予兆の発見
2-2 マインド・ブラインドネスとしての自閉症
2-3 マインドリーダーとしての健常者
3.極端な男性型の脳説――心理学的理論におけるスペクトラム化と脱逸脱化
3-1 「男性脳」と「女性脳」へのまなざし
3-2 考案された4つのアンケートと極端な男性性の脳としてのASD
3-3 ある数学者の話に見る個性としてのASD
4.考察――バロン=コーエンの論じた認知能力と障害観、その揺らぎ
小 括
第3章 「自閉症」研究における認知と社会性の多義性
医学・心理学分野の自閉症論を架橋する
1.分析対象
2.カナーの自閉症概念――生来的な感情的接触不可能説
2-1 カナーによる自閉症の基本的特徴
2-2 カナーによる認知の障害
2-3 カナーによる社会性の障害
3.バロン=コーエンの自閉症概念――心の理論の欠損説
3-1 心の理論と誤信念課題
3-2 バロン=コーエンによる認知の障害
3-3 バロン=コーエンにとっての社会性の障害
4.考察――自閉症論の異同
4-1 認知という言葉の用法
4-2 各研究者の対照群の違い
4-3 非自閉症者はどのように健康か
小 括
第4章 自閉症者の語りの「プロトタイプ」の創出
自閉症者が語る主体となるとき
1.グランディンの自閉症論――「回復」したASD者としての自伝
1-1 扱いにくい身体としてのASDと締めつけ機や投薬による個人的対処
1-2 母親の手厚い支援による才能開発
1-3 障害を受容することと障害を統御すること
2.さらなるASDの科学的理解と内面的成長
2-1 精神薬による対処と認知的差異を理解すること
2-2 連続体としての自閉症
2-3 「天才」と「異常」の連続性への言及
4.考察――自閉症者から見たASDとはなんだろうか
3-1 「感覚処理連続体」としてのASD
3-2 生まれつきの神経的差異としての自閉症と生物学的介入の肯定
小 括
第5章 ASD者によるセルフ・アドボカシーグループの結成と社会運動
社会へ問いかけ、自閉的なまま仲間とつながり集うこと
1.シンクレアの自閉症論
1-1 非ASD者とのコミュニケーションと「共感」への疑義
1-2 ASD者であることを嘆くな,の姿勢
1-3 ASDは病気ではない――治療と教育について
2.ASD者のための組織論
2-1 ASD者のためのネットーワークを作る――ANIの立ち上げ
2-2 ASD者のための安全なウェブフォーラムをつくる――定型発達者からの離脱と再協力
2-3 現実世界でASD者たちが集まる空間を創る――オートリートの開催
2-4 本当の「自閉的空間」で育まれるASD者としての「強さ」
3.考察――強く健やかな自閉的在り方を提案すること
3-1 ありのまま自閉的でいる権利と既存の共感・コミュニケーションへの指摘
3-2 ASD者のコミュニケーション・自閉的な社会的空間の提唱
小 括
第6章 神経多様性とは何か
普通の脳は存在しない――神経多様性の展望と課題
1. ブルーメの神経多様性論――理想的な媒体・比喩としてのインターネットで交流する人々
2. シンガーの神経多様性論
2-1 神経多様性の提唱
2-2 ASDを起点とした家族関係の変化と自己の再定義
2-3 コンピューターの登場と神経多様性の進展の意義
2-4 自閉症スペクトラム障害の新しさとシンガーのあいまいさへのこだわり
3.ASDの親との関係
3-1 FAAASへの寄稿――ASDの親をもつこと
3-2 ASDの「ダークサイド」の告発
3-3 改めて述べられたこと
3-4 すべての人のための神経多様性の提唱
4. 考察――神経多様性はどこが新しいのか
4-1 積極的にあいまいさに留まる術としての神経多様性
4-2 抑圧者と被抑圧者の関係を超越していくこと
小 括
結びにかえて
本研究の意義と今後の課題
あとがき
[参考文献]