研究叢書
研究叢書556 日本近代文学における「語り」と「語法」
著:揚妻 祐樹
内容紹介
明治20年代以降の文章を、文章の動態である〈語り〉と 静態である〈語法〉との両面から論じる。二葉亭四迷や尾崎紅葉などの小説家たちが如何なる表現世界を切り開き、言語の創造者となったのかを考察。
目次
序 章 研究の観点と全体の概要
Ⅰ 言語論としての文章論
Ⅱ 「語り」と「語法」
Ⅲ 本書の概要
第1編 文章とは何かについて、及び本書の研究対象と研究方法
第1章 文章論序説(一)
―言語表現における「成り下がり」について―
Ⅰ はじめに―なぜ、時枝批判なのか?―
Ⅱ 「成り下がる」ということ
Ⅲ 〈言語表出―素材〉の可変性と文法カテゴリー
Ⅳ 時枝誠記の言語理論とフッサール現象学
Ⅴ 結び
第2章 文章論序説(二)
―文化としての言語(コセリウに寄せて)―
Ⅰ はじめに―言語表出論、言語習得、そして「文化」―
Ⅱ 言語における伝統・文化
Ⅲ 結び
第3章 文章論序説(三)
―本書の言語観・研究対象・研究方針―
Ⅰ 本書における言語観・研究対象・研究方針
Ⅱ 先行研究の紹介と批判
第4章 序論補説 「語り」と文法
―文章研究のために―
Ⅰ はじめに―「語り」から文法を見ること―
Ⅱ 三人称の「語り」と文法
Ⅲ 結び
第2編 尾崎紅葉の語りと語法
第5章 尾崎紅葉の文章観
―〈隠形〉と〈顕形〉の狭間で―
Ⅰ 尾崎紅葉の文体の彷徨
Ⅱ 「読者評判記」と『二人比丘尼色懺悔』
Ⅲ 写実主義と地の文・会話文
Ⅳ 地の文における紅葉の彷徨
Ⅴ 結びと残された課題
第6章 尾崎紅葉『多情多恨』の語りと語法(一)
―語りの性格―
Ⅰ はじめに
Ⅱ 語り手とリズム
Ⅲ 『多情多恨』
Ⅳ 結び
第7章 尾崎紅葉『多情多恨』の語りと語法(二)
―ノデアルの文体―
Ⅰ 本章の目的
Ⅱ 田山花袋の紅葉批判と『蒲団』
Ⅲ ノダ類について
Ⅳ 『多情多恨』および『蒲団』におけるノデアル
Ⅴ 結び
第8章 肉声の語り
―尾崎紅葉『伽羅枕』における「地」「心話」「発話」の処理―
Ⅰ はじめに
Ⅱ 『伽羅枕』における「地」「心話」「発話」の処理
Ⅲ 語りの機構と「地」「心話」「発話」間の諸相
Ⅳ 「地」「心話」「発話」の処理の意味するもの
Ⅴ 結び―雅俗折衷体が意味するもの―
第9章 尾崎紅葉『金色夜叉』の語り
―演劇的な語り―
Ⅰ 紅葉作品における『金色夜叉』の特殊性
Ⅱ 『金色夜叉』の語りと語法の観察
Ⅲ 結び―一人話芸から演劇へ―
第10章 尾崎紅葉『金色夜叉』における不可能表現の特徴
―漢文訓読系の語法と和文系の語法―
Ⅰ はじめに―『金色夜叉』の文体的特徴と語法―
Ⅱ 『金色夜叉』における不可能表現
Ⅲ 紅葉以外の文語体小説における「能ワズ」「得+動詞+否定」
Ⅳ 『金色夜叉』における「能ワズ」「得+動詞+否定」
Ⅴ 結び
第3編 偶然確定条件
第11章 条件表現から見た「語り口」の問題
―三遊亭円朝の人情話速記本を資料として―
Ⅰ 円朝の速記本の条件表現を考察する意味について
Ⅱ 条件表現の分類
Ⅲ 『牡丹』『塩原』『累』における条件表現
Ⅳ 結び
第12章 文体面から見た偶然確定条件の諸相
―落語SPレコード・『夢酔独言』・尾崎紅葉の言文一致体小説を中心に―
Ⅰ はじめに
Ⅱ 明治後期~大正期落語SPレコード資料の偶然確定条件
Ⅲ 講談・落語の速記本
Ⅳ 江戸語・東京語の偶然確定条件―『夢酔独言』を中心に―
Ⅴ 尾崎紅葉の言文一致体小説における偶然確定条件
Ⅵ 結び
第13章 偶然確定条件から見た二葉亭四迷の文章
Ⅰ はじめに―文体から見た偶然確定条件―
Ⅱ 二葉亭四迷の小説観・文章観
Ⅲ 作品の語りについて
Ⅳ 偶然確定条件の出現状況
Ⅴ 結び
第4編 その他の語りと語法、及び文章観について
第14章 語りと語彙
―二葉亭四迷訳『あひゞき』初訳・改訳間の自立語対照―
Ⅰ はじめに―『あひゞき』初訳、改訳の語りと語彙―
Ⅱ 初訳と改訳の語彙比較
Ⅲ 結び
第15章 時代小説におけるノデアッタ・ノダッタ
Ⅰ はじめに―〈物語的過去〉のノデアッタ・ノダッタ―
Ⅱ ノデアッタ・ノダッタの用法
Ⅲ 『富士に立つ影』のノデアッタ・ノダッタ
Ⅳ 結び―大衆小説の語り―
第16章 『普通文章論』に見る幸田露伴の文章観
Ⅰ はじめに
Ⅱ 『普通文章論』の内容
Ⅲ 結び
第5編 結論
第17章 全体のまとめ
Ⅰ 本書の要点
Ⅱ 音読を意識した文章の語りと語法
Ⅲ 本研究の展開の可能性―表記と文章構成法―
第18章 補説 語りと時間表現
Ⅰ はじめに
Ⅱ 発話時をどう理解するか
Ⅲ 語りから見た時間表現の諸相
Ⅳ 結び
参考文献/索引(人名・事項)/初出一覧/あとがき