日本史研究叢刊
日本史研究叢刊44 『吾妻鏡』の合戦叙述と〈歴史〉構築
著:藪本 勝治
内容紹介
鎌倉幕府の歴史を記す『吾妻鏡』は、単なる事実の記録ではない。巧妙に織りなされた文脈を読み解き、その構想と方法を明らかにする。
目次
序章 『吾妻鏡』と〈歴史〉の構築
一 「北条氏の為に曲筆す」――近世〜明治期の研究史
二 歴史叙述としての再把握――近現代の研究史
三 合戦叙述による〈歴史〉構築――本書の企図
四 本書の概要
Ⅰ 頼朝と忠臣たちの関東草創
第一章 令旨到来――冒頭部の構成とレトリック
一 引用の織物と読者――冒頭部解釈の課題
二 『平家物語』との関連――冒頭部本文の組成
三 『吾妻鏡』のレトリック――言葉の配置と演出効果
第二章 関東草創――頼朝の貴種流離譚と忠臣たち
はじめに――『吾妻鏡』と貴種流離譚
一 「世になし源氏の流人」――真名本『曽我物語』
二 「貴種再興之秋」――『吾妻鏡』の頼朝挙兵
三 「須以司馬為父」――千葉氏による頼朝歓待の物語
四 「独残留伊豆山」――北条政子と伊豆山の枠物語
おわりに――歴史叙述としての『吾妻鏡』
補説1 「貴種流離譚」とは何か――利己と歓待の文学史
はじめに――『義経記』の相貌
一 「貴種流離譚」――折口信夫
二 「流され王」――柳田国男
三 「〈常民型〉の貴種流離譚」――被来訪者という視座
四 《異人歓待》――利己的な語り手たち
おわりに
第三章 野木宮合戦――北関東支配の起源
はじめに
一 諸文献の野木宮合戦と先行研究
二 『吾妻鏡』の〈歴史〉構築
三 小山/足利の物語
おわりに
第四章 奥州合戦――奥州支配の起源
はじめに
一 軍記物語の構造と反逆鎮圧の論理
二 阿津賀志山合戦における忠臣の活躍
三 軍記物語の類型表現
四 秩序の回復と王権強化の象徴的表現
五 神仏の加護と北条氏の助力
おわりに
Ⅱ 北条得宗家による政道継承
第五章 和田合戦――実朝と泰時の政道継承
はじめに
一 泰時・頼家・実朝
二 合戦の発端と戦闘の叙述
三 実朝と泰時の位置付け
おわりに
第六章 実朝暗殺――『吾妻鏡』の編集方法と成立背景
はじめに
一 実朝像の変容
二 実朝暗殺の予兆記事群
三 北条義時の生還と後日談
四 〈大倉薬師堂縁起〉と『覚園寺縁起』
五 北条貞時の「徳政」と『吾妻鏡』編纂
おわりに
第七章 承久の乱――盟主泰時の誕生
はじめに――〈歴史〉を構築する『吾妻鏡』
一 承久の乱記事群の枠組み
二 〈英雄〉泰時の出陣
三 〈明君〉泰時の渡河
四 〈盟主〉泰時の誕生
おわりに
補説2 承久の乱はいかに語られてきたか――過去像の変容と更新
はじめに
一 現在における承久の乱の評価
二 鎌倉時代前期――政治史的定位の困難
三 鎌倉時代後期――冥慮の論理による〈歴史〉構築
四 南北朝期以降――後醍醐天皇による討幕の参照枠
五 近世・近代――徳川幕府打倒の参照枠
六 戦後――階級闘争史観の投影
第八章 宝治合戦――家々の〈歴史〉の交差点
はじめに
一 反逆者としての三浦氏
二 冥加の招来
三 忠臣としての安達氏
四 摂家将軍の位置付け
五 時頼の絶対性の物語
おわりに
終章 『吾妻鏡』後半の歴史叙述
はじめに――『吾妻鏡』の全体像と後半部分
一 理想的執権の事績――泰時時代の徳政とレガシー
二 後鳥羽院の怨霊と寛元の政変――時頼時代における危機の朧化①
三 建長の政変――時頼時代における危機の朧化②
四 隆弁と時宗誕生――得宗家正統の絶対性
おわりに――宗尊親王の帰洛と『吾妻鏡』の擱筆
初出一覧
あとがき
『吾妻鏡』記事索引