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研究叢書 471

栄花物語 新攷

思想・時間・機構

著:渡瀬 茂

紙版

内容紹介

魯の春秋にはじまる編年体史書の歴史は、平安朝において日本的な展開を示し、かな散文に出会うことによって日本語の歴史叙述である栄花物語を生み出した。本書は儒教思想に淵源を持つ編年体の時間と機構が、かな散文の文章による作品として実現するさまを探り、また作品に仏教思想の高潮が深く刻印を与えるさまを確かめた。そこには栄花物語の二つの相貌、すなわち「年代記」と「信仰の書」という、異なった相貌が見いだせるであろう。

目次

第一章 編年的時間
   第一節 編年的時間の思想性と機能性
     中国史書の様相 四時と中国暦法 日本史書の変容   漢文史書の日本的展開
   第二節 日本紀略内部の異質性について
     月日次の記載から見た光仁・桓武・平城紀 
     宇多紀以降の月日次記載 
     宇多紀の天文記事   宇多紀末尾の問題
   第三節 土左日記の時間と栄花物語
     編年的時間と「かくて」 土左日記の「ある人」について 
     屛風歌・土左日記・栄花物語
   第四節 栄花物語の「かくて」の機能
     「かくて」の類の多用   源氏物語の「かくて」 
     叙述と作品世界の二重性   平板さの意義
   第五節 「ゆくさき」と「ゆくすゑ」
     「ゆくさき」と「ゆくすゑ」の用例数 栄花物語の「ゆくすゑ」 未来の欠如  信仰の時間
第二章 物語の全体性と歴史叙述の部分性
   第一節 作品の部分性と全体性
   第二節 固有名詞と歌物語
     巫鈴本大和物語   固有名詞の機能
     大和物語の歴史性と伊勢物語の反歴史性   勢語古注と固有名詞
   第三節 物語の辺境―竹河の時間における全体性の頽落―
     竹河の時間   没落する家族  
     匂宮三帖   物語的全体性の頽落
   第四節 蜻蛉後半の虚無―精神の頽廃と時間の停滞―
     大君   浮舟   薫
   第五節 源氏物語の反歴史性と栄花物語
     河海抄の物語論   物語の全体性と歴史叙述の部分性について
   第六節 栄花物語の続稿
     作品「栄花物語」とは何か   歴史叙述の非完結性  
     栄花物語の増補   模倣としての続篇
第三章 死と信仰
   第一節 死をめぐる叙述について
     死の諸相   愛別離苦   死の集積と信仰
   第二節 死をめぐる叙述について、ふたたび
     時間の把握   「はかなし」の語義  
     「はかなし」の諸相   信仰と時間
   第三節 うたがひの巻の時間について
     編年的時間の逸脱  時間的表現の排除  永遠の時間
   第四節 道長の死の叙述をめぐって
     出家する人々   道長の死   臨終の行儀   
     仏教典籍の言語   権者
   第五節 たまのうてなの尼君たち
     翁と老法師   法成寺造営   叙述の視覚性   
     巡拝する尼君たち   法成寺世界の空間的ひろがり
   第六節 世界の尼・花の尼
     世界   尼   花の尼   信仰の時代
   第七節 奇跡の起こる場所
     時代   戒律と破戒   
     奇跡の物語   革新の始まり・堕落の始まり
第四章 技法と思想
   第一節 系譜記述の問題
     叙述の緯としての人物関係 系譜の潜在と系譜記述の顕在
     系譜記述の方法   
   第二節 はつはなの巻の「むらさきささめき」の一節をめぐって
     紫さゝめき   登場人物としての女房   
     無名の詠者   和歌の機能
   第三節 名の集積・うたの集積
     人の集積   名の集積  衣裳の集積  うたの集積
   第四節 政治的意志の否定
     儒教的政治観   兼家と政治的意志   
     道長と政治的意志   作品の政治倫理
   第五節 花山院出家の叙述における「さとし」について
     栄花物語の「さとし」と源氏物語   
     かな散文作品の「さとし」の個人的性格
     平安中期語としての「恠」と「さとし」   
     「恠」と「物忌」、そして陰陽師
     源氏物語の「さとし」の異質性
第五章 ことばと文体
   第一節 日記文学の文体と栄花物語
     物語の文体  土左日記の文体 かげろふ日記の文体   
     紫式部日記の文体  日記的文体の意義   
   第二節 歴史叙述としての栄花物語の文体
     叙述の諸特質  推量の助動詞と「けり」 含羞の文体
   第三節 正篇における歴史叙述のことば
     「侍り」   知覚・伝達の語句   真実性の表現   
   第四節 中関白家・花山院関係記事の文体的特徴と「けり」
     中関白家叙述と「けり」 はつはなの中関白家 花山院
   第五節 歴史物語の終焉─増鏡における文体の危機について─
     歴史物語の文体史   文体の危機  散文の終焉と和歌
索引
初出一覧
あとがき

著者略歴

著:渡瀬 茂
昭和26年7月に兵庫県尼崎市、いしにえの津の国は神崎の里のわたりに生まれる。戦後転勤族の子弟として関東に移り、東京都立石神井高等学校および東京都立大学人文学部に学ぶ。学習塾、中高等学校、看護学校、短期大学、大学などの教壇に立ち、国語や国文学を教えた。現在は姫路大学(旧近大姫路大学)教育学部に勤務し、「日本語表現法Ⅱ」「国語Ⅰ(国語)」「文学」「比較文化論」を担当。著書:『王朝助動詞機能論 あなたなる場・枠構造・遠近法』(和泉書院 2013)

ISBN:9784757607798
出版社:和泉書院
判型:A5
ページ数:550ページ
定価:11000円(本体)
発行年月日:2016年04月
発売日:2016年04月12日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:FB
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:1FPJ