研究叢書 455
対称詞体系の歴史的研究
著:永田 高志
内容紹介
日本語では目上の者に対して「あなたはお元気ですか」のように人称代名詞で言及することができない。本書ではこの体系を上下対称詞と名付けた。しかし、多くの方言では聞き手との上下関係にかかわらず単一の人称代名詞を使う単一対称詞や二つ以上の人称代名詞を段階的に使い分ける段階対称詞の体系が一般的である。上下対称詞が形成される過程を王朝文学、軍記物、捷解新語、散切物等の資料を通じてそれぞれの時代の対称詞の体系を調査した。その結果、公家や武家の公的言語として継承されてきた上下対称詞の体系が明治期からの学校教育等を通じて標準語として全国に確立されたという結論に達した。昭和27年、国語審議会の「これからの敬語」では「『あなた』を基準の形とする」と文部大臣に建議しているが、現在の様子を見ると広まらなかった。また、世界の言語の中で見てみると、周辺の言語でも上下対称詞の体系が存在するのが分かり、系統論的な興味もわく。
目次
序 対称詞体系の歴史的研究
1 対称詞とは
2 日本語の対称詞
3 本書の課題
第1章 王朝文学の対称詞
1 資料および調査法
2 資料の分析
2.1 聞き手との関係から見た対称詞
2.2 語の機能から見た対称詞
3 結論
第2章 軍記物語の対称詞
1 資料および調査法
2 資料の分析
2.1 聞き手との関係から見た対称詞
2・2 語の機能から見た対称詞
3 結論.
第3章 『捷解新語』の対称詞
1 『捷解新語』の資料性
2 『捷解新語』原刊本の対称詞
3 『捷解新語』重刊本の対称詞
4 結論
第4章 近世武家の対称詞
1 はじめに
2 残された資料による検証
2.1 外国語資料による検証
2.2 日本人によって書かれた資料による検証
3 過去の研究を通して見た武家の対称詞
4 御所ことばの対称詞
5 結論
第5章 明治前期東京語の対称詞――散切物を通じて
1 資料および調査法
2 資料の分析
2.1 聞き手との関係から見た対称詞
2.2 語の機能から見た対称詞
3 結論
4 今後の問題点
第6章 『にごりえ』『たけくらべ』に見る対人待遇表現
1 資料および調査法
2 資料の分析
2.1 対称詞と呼称詞
2.2 自称詞
2.3 丁寧語
2.4 断定
2.5 尊敬表現
2.6 謙譲表現
2.7 授受表現
2.8 依頼表現
2.9 命令表現
2.10 終助詞
3 結論
第7章 明治後期・大正期東京語の対称詞
1 資料
2 資料の分析
2.1 聞き手との関係から見た対称詞
2 2 語の機能から見た対称詞
3 結論
資料
第8章 総合雑誌『太陽』に見る対称詞
1 資料および調査法
2 資料の分析
2.1 聞き手との関係から見た対称詞
2.2 語の機能から見た対称詞
3 結論
第9章 国定国語教科書の対称詞
1 資料
2 資料の分析
3 結論
第10章 昭和前期の対称詞
1 はじめに
2 軍隊内の対称詞
2.1 資料
2.2 資料の分析
2.3 結論
3 一般社会の対称詞
3.1 資料
3.2 資料の分析
3.3 結論
第11章 昭和後期における二人称代名詞「あなた」の待遇価
1 はじめに
2 資料
3 「あなた」についての論争の分析
4 「あなた」の待遇価の変遷
第12章 平成の対称詞
1 はじめに
2 資料の分析
2.1 一般的な対称詞
2.2 教育場面での対称詞
2.3 職場内での対称詞
3 結論
第13章 方言の対称詞
1 はじめに
2 全国の対称詞体系の分布
2.1 国立国語研究所「地域言語の敬語に関する調査」昭和27年(1952)
2.2 国立国語研究所「表現法の全国的地域差を明らかにするための調査方法に関する研究」昭和51年(1976)
2.3 国立国語研究所編『各地方言親族語彙の社会言語学的研究(1)』昭和54年(1979)
2.4 平山輝男編『現代日本語方言大辞典』平成4年(1992)
2.5 方言研究ゼミナール編『方言資料叢刊 第7巻 方言の待遇表現』平成9年(1997)
2.6 国立国語研究所の『方言文法全国地図 6』平成18年(2006)
3 地域社会の対称詞体系の分布
3.1 琉球(奄美・沖縄)
3.2 長野県と新潟県の接触地域
3.3 新潟県
3.4 富山県五箇山・真木集落
3.5 愛知県常滑市
3.6 石川県輪島市町野町
4 結論
第14章 世界の言語の中で見た日本語の対称詞
1 系統論的に見た日本語の対称詞
2 上下対称詞の体系をもつ言語
3 ポライトネス理論から見た対称詞
4 日本語の上下対称詞は言語系統的なものか、それともポライトネスによるものなのか。
結語
1 日本語の対称詞の歴史的変遷
2 方言の対称詞
3 世界の言語の中で見た日本語の対称詞
4 日本語の対象詞体系の未来
参考文献
あとがき
索引