マニエリスムからバロックへの激動期に、高い完成度と芸術性を誇る優美な画風によって敬虔な信仰心の表明をおこなったフェデリコ・バロッチ。一五六〇年代には神の恩寵としての「慈愛の薔薇」を、一五七〇年代以降はその恩寵を願い求めるための「祈りへの誘ない」を、一五八〇年代以降は恩寵の受け手としての「素朴な観衆」を、一五九〇年代以降は恩寵の源たる神を直接めざす「法悦の視線」を、バロッチは集中的に描いている。 本書は、一六世紀に誕生したカップチーノ修道会への画家の帰依の感情を出発点として、バロッチの精神の行程を、主要作品の図像上の意味解釈によって再構成し、対抗宗教改革期の時代精神の中に位置づけた渾身の力作であり、わが国の研究者が生んだ世界的水準の研究成果である。