イントロダクション――分断と対立の根底にある問題群[辻内琢也]
はじめに
1 核の平和利用というレトリック
2 「安全・安心神話」の持つ権力性
3 原発事故避難者数の推移からみた分断の進行
4 作り出された分断と対立の現状
5 分断と対立を生む構造を理解するために
6 新たな人類学の試み
第1章 慢性状態の急性増悪――原発事故被害者に対する構造的暴力の解明[辻内琢也]
はじめに
1 精神的ストレスの六年間の推移と先行研究との比較
2 原発避難いじめ調査と構造的暴力
3 地震と津波そして原発事故
4 始まる避難先での生活
5 南相馬市の被災状況と避難区域の指定
6 不合理な避難・帰還区域の設定と賠償金の格差が生み出した暴力
7 不合理な放射線基準に抗する
8 慢性状態の急性増悪(acute-on-chronic)
9 原発避難いじめの構造に抗する
おわりに
第2章 突然の追放、突然の富、そして妬みと差別――福島県飯舘村長泥・強制避難者の苦難[トム・ギル]
はじめに――福島市郊外のバーベキュー
1 放射能の恐怖のなかで暮らす
2 賠償金が次第に入る
3 賠償金による人びとの分断
4 亡命生活
5 ふるさとに対する感情の複雑さ
6 戻っても戻らなくても人間関係を保つ
7 放射能差別と妬み差別
8 高齢者の寂しさ
おわりに
第3章 閉ざされたドア――東京・高層マンションにおける避難者コミュニティの苦闘[楊雪]
はじめに
1 仮設住宅と仮設住宅で生み出された社会関係
2 東雲住宅における避難者受け入れ
3 「東雲の会」の設立
4 「東雲サロン」――「見守り」それに「ゴミ拾い」
5 理想的な避難者と単身男性自主避難者
6 きずな
7 自治会ではない「東雲の会」の立ち位置
8 東雲サロンが生み出した社会関係
9 「閉ざされたドア」
おわりに
第4章 日常の苦境、模索する希望――「強制避難」単身女性たちの暮らし[堀川直子]
はじめに
1 避難者と賠償金
2 双葉町から関東圏へ――集団避難の暮らしは「かごの鳥」
3 浪江町から東京都内へ――帰る場所はあるのか、ないのか
4 常葉町から東京都内へ――避難者であり支援者でもある
5 避難状態と強制避難者たちの生き方
おわりに
第5章 福島から自主避難した母親たちのディレンマ――家族と社会を尊重しながら、どう放射能から子どもを守るか[アレキサンドル・スクリャール]
はじめに
1 本章の目的と調査方法
2 放射線モニタリングと汚染対策のズレに関する議論
3 山形における福島からの避難状況
4 福島と山形で起こっていたこと
5 山形で福島のものをどう扱うか
6 福島との行き来のはざまで揺れる気持ち
7 ネオリベラリズム社会のなかの「良妻」と「賢母」の葛藤
おわりに
第6章 草の根からの「市民」と、国や東電が構築する「市民」――ゆらぐ「市民性」に対峙する市民放射能測定所[木村あや]
はじめに――「市民」としての計測
1 一般の住民による放射能測定
2 避難者との関係性
3 測定所の貢献
4 「市民」とは
5 「市民」としての測定
6 避難者の市民性
7 市民性のゆらぎと葛藤
おわりに
第7章 住宅支援打ち切りへの抗議――自主避難者による抗議運動の成否を分けた六つの要因[レシュケ綾香]
はじめに
1 当事者、被害当事者としての自主避難者
2 運動はどのように出現したのか
3 運動はいかにして当事者運動に移行し、発展を続けたのか
4 なぜこの当事者運動は限定的な成功しか収めることができなかったのか
おわりに
第8章 自主避難者が帰るとき――放射線防護対策と社会的適切性の狭間で[マリー・ヴァイソープト]
はじめに
1 目に見えないものに形を与える――科学と社会的言説に基づく実践
2 混乱、恐れ、苛立ち――長い道のり
3 安全性の再定義――リスク認識と放射線防護
4 沈黙の苦痛――社会的適切性に直面して
5 境界のせめぎあい――個人とコミュニティの間の不安定なバランス
6 「安全・安心・復興・絆」言説下の行為主体性
おわりに
第9章 「大熊町の私」から「私の中の大熊町」へ――ふるさとの構造的な喪失と希望の物語の生成[日髙友郎、鈴木祐子、照井稔宏]
はじめに――除染作業が引き起こした「ふるさとの喪失」
1 福島県大熊町の来歴、インタビュー協力者、研究の視点
2 ふるさとの「構造的」な喪失
3 希望の物語を生成する――誰がどのように、どのような物語を?
おわりに――ふるさと喪失者のライフ〈生〉を記述するエスノグラフィー
第10章 分断と対立を乗り越えるために――当時小学生だった若者たちとの対話から[平田修三、金智慧、辻内琢也]
はじめに
1 糸口としての「対話」
2 当時小学生だった若者たちとの対話を開始する
3 子どもの苦悩とたくましさ
4 被災当事者としての活動・社会発信
5 今回の対話やシンポジウムの意義
6 語ることの困難さに向き合いながら、なお「対話」を試み拡げていく
おわりに
エピローグ――苦難と希望の人類学[辻内琢也]
1 苦悩(suffering)あるいは苦難(calvary/tribulation)の人類学
2 希望の人類学に向けて
おわりに