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学力工場の社会学

英国の新自由主義的教育改革による不平等の再生産

著:クリスティ・クルツ
監:仲田 康一
訳:濱元 伸彦

紙版

内容紹介

英国において移民が多く暮らす地域にあり、学力向上の成功例とされる民営化公立学校に密着した学校エスノグラフィ。新自由主義的教育改革と規律主義が結合して、人種・階級問題が複雑化し教育格差が再生産されていく状況を描いた教育社会学研究の労作である。

目次

 日本語版への序文
 謝辞

第一章 新たな言説の形成――アカデミー・向上心・教育市場
 問題のマッピング
 向上心に満ちた空間と、向上心あふれる未来を作る
 研究対象へのアプローチ
 教育の市場化
 失敗の言説、「狂気の左翼」問題の言説
 進歩主義的教育の「危機」
 非民主的な解決
 アカデミーの新制度
 社会移動の奇跡としての教育
 学校における国家の幻想、軍隊主義、規律
 本書の構成

第二章 研究の枠組――人種・階級の歴史的表象・形成と新自由主義的なガバナンスとの交差
 構造の青写真
 インナーシティのネイティヴと、その他者としての白人中産階級
 インナーシティのネイティヴを文明化する
 主体の形成・形成していく主体
 正統な文化
 新自由主義的ガバナンスと「良き人生」の追求
 自己と価値
 人種化された主体を改革する
 分断された闘争
 方法論的アプローチ
  交渉をめぐる倫理/内省的な知識の生産/方法の中でデータを作成する/人種・階級の生成と権力

第三章 ドリームフィールズ校を規律する――「オイルの行き渡った機械」がインナーシティのカオスを打ち破る
 管理統制・透明性・予測可能性――「物事を厳格にし、注意深さを失わないように」
 場と身体の分断
 言葉の鞭
 囲い込みと切り離し――「本当はどこにでも行けるのに」
 不確かな境界と境界領域の取り締まり
 チキン・ショップ・パトロール
 測定と造成
 結論――機械が生産しているものは何か

第四章 矛盾の統合とドリームフィールズ校という「良い帝国」の信念の生産
 自己という教会の説教――「善が悪に打ち勝ちますように」
 帝国を建設し幸福をもたらす者
 ファザー・テレサの普遍的な魅力
 愛の鞭――男子は男子
 中立的な専門職を作る
 差異の標識と同一性の社会的不正義
 ビジネスの身体
 瀬戸際の労働
 独裁的文化
 契約を結ぶ
  「この理念に教化されるまでには時間がかかりました」/利益/バーンアウト

第五章 「インナーシティの子どもたち」と「バッファ・ゾーン」との出会い――ドリームフィールズ校におけるベルトコンベアの不平等な基礎構造のマッピング
 「バッファ・ゾーン」を確立する――快適で緑豊かな地域の(主に白人の)中産階級の子どもたち
 不安定な境界
 特権を持つ者に与えられる特権
 理想的であること
 身体のあてにならなさ――一部分だけを見るということ
 厄介な(黒人の)少年たち
 粘着質の評判――「私はこの学校では悪い生徒です」
 「三つのC」と人種化された分断
 可動性と社会空間
 可動性とダイナミックな自己
 生得的な主体
 話すことのできない構造
 説明を求めて
 結論

第六章 ベルトコンベアを前進し交渉する生徒――向上心、喪失、忍耐そして幻想
 「チャイルド・キャッチャー」
 想像上の未来の中で生きることを学ぶ
 留保と約束
 「小さなロボット」になる
 演じられた従順
 「より白人らしくなる」
 問題のある身体――「LSUに詰め込まれて」
  身を引くこと/機械の中で道を見失う/犯罪者タイプ
 学校と地域の分離がもたらす損害
 意見の孤立化
 結論

第七章 インナーシティのカオスと想像上の他者――中産階級のヘゲモニーの再生産
 誰にとってのオアシスか?
 効率的なビジネス専門職
 懲戒の見せかけ
 似た者同士で固まる
 現実の規律
 模範的な生徒の保護
 「他者」のファンタジーを書き直す
 インナーシティのカオスのレンズを通して
 「調整を行うこと」
 それぞれの家庭を見渡して
 数字が上がって行かない時
 結論

第八章 新自由主義的な学校における不平等の作り直し(リメイキング)
 インナーシティの文化の変容?
 差異の差異化された再生産――人種による不平等と階級による不平等の結び付きの変容
 良い人生の幻想と新自由主義的な主体の困難な接木
 誰の知識? 損失、幻想、そして価値

 参考文献

訳者解説一:イングランドの教育改革における「学力工場」[仲田康一]
 はじめに――原著の紹介
 アカデミー政策
 イングランドの教育改革
 複雑化する人種・階級問題
 ジェントリフィケーションと白人中産住民による植民地化
 おわりに

訳者解説二:『学力工場の社会学』が日本の教育に問いかけるもの[濱元伸彦]
 はじめに
 アカデミー政策 vs エスノグラフィ
 新自由主義と規律主義の結び付き
 新自由主義的な制度の中での「人種」
 英国の『学力工場』から日本は何を学びとるべきか

 監訳者あとがき
 索引

著者略歴

著:クリスティ・クルツ
英国経済社会研究会議から社会学分野で助成を受けた研究により、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジで2014年に博士を取得。本書の原著は、マンチェスター大学出版から刊行され、教育学協会の初の出版賞を受賞するとともに、英国社会学会のフィリップ・アブラム出版賞の最終候補となった。その後、ケンブリッジ大学教育学部のリーヴァーヒューム・トラスト若手研究員等を経て、現在、ベルリン工科大学の研究員として、ブレクジットやなどヨーロッパにおける新たな境界線の引き直しの中での英国人移民の在り方を、ベルリンをフィールドに研究している。
監:仲田 康一
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。所属:現在、大東文化大学/准教授。主な論文に、「NPM改革下におけるコミュニティ・スクールの行方」(『教育学研究』,第87巻第4号,2020年)、「『スタンダード化』時代における教育統制レジーム」(『日本教育行政学会年報』,第44号,2018年)。主な著書に、『コミュニティ・スクールのポリティクス』(単著,勁草書房,2015年・日本教育行政学会賞受賞)。主な訳書に『教えることの再発見』(G. Biesta著,上野正道監訳(分担訳),東京大学出版会,2018年)。
訳:濱元 伸彦
ラトガーズ・ニュージャージー州立大学教育学大学院博士課程修了。所属:現在、関西学院大学/准教授。主な論文に、「大阪市各区の学校選択制の利用状況と地域的背景の関係:都心回帰による児童生徒数の変化に着目して」(『日本教育政策学会年報』,第27号,2020年)、「被災校の子どものヴァルネラビリティに向き合う学習共同体の役割:福島県A中学校の「ふるさと創造学」の実践に着目して」(『関西教育学会紀要』,第19号,2019年)。主な著書に、『新自由主義的な教育改革と学校文化――大阪の改革に関する批判的教育研究』(共編著,明石書店,2018年)。

ISBN:9784750351322
出版社:明石書店
判型:A5
ページ数:400ページ
価格:3800円(本体)
発行年月日:2020年12月
発売日:2020年12月26日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JNB