内容紹介
ドイツは統一国家の建設が遅れたため国民意識の醸成も遅れ、ゆえにドイツ人は「遅れてきた国民」と呼ばれてきた。それは、ヨーロッパ諸国の歴史は国民国家の建設に向かって進んでいたという長らく主流の座にある歴史理解に基づいている。しかし、それは本当に適切なのだろうか?
本書はニッパーダイ(「初めにナポレオンがいた」)、ヴェーラー(「初めには何の革命もなかった」)、ヴィンクラー(「初めにあったのは帝国であった」)による三大通史への対抗構想。統一国家なき国民の一体感こそがドイツ史の伝統であり、それは神聖ローマ帝国の連邦主義に発する――ドイツ史研究の最前線を凝縮した小著に、現代ヨーロッパ史に比較政治学の視座から取り組んできた研究者による詳細な訳注と解説を付す。
目次
本書の理解のために――一つの概史として (飯田芳弘)
まえがき
I 国民国家はドイツ史の目的だったのか――ヨーロッパ的視野から現在の国民の物語を見直す
II 帝国と多国家性と連邦主義――中世から一八七一年までのドイツ史の基本型
III ドイツ国民の一体性――一九世紀におけるさまざまな考え方
IV 一八七一年以降の国民と国民国家
V 展望
解題 (飯田芳弘)
訳者あとがき
文献
原注
著者略歴
原案:ディーター・ランゲヴィーシェ
1943年オーストリアのマリアツェル生まれ。ヴュルツブルク大学で博士と教授資格の学位を得た後、ハンブルク大学の近代史担当教授を経て、1985年にテュービンゲン大学の近現代史正教授に就任、2008年まで同職を務めた。Europa zwischen Restauration und Revolution 1815-1849 (1985; 2007), Liberalismus in Deutschland (1988), Nation, Nationalismus, Nationalstaat in Deutschland und Europa (2000), Liberalismus und Sozialismus. Gesellschaftsbilder - Zukunftsvisionen - Bildungskonzeptionen. Ausgewählte Aufsätze (2003), Reich, Nation, Förderation. Deutschland und Europa (2008), Der gewaltsame Lehrer (2019) など。
訳:飯田芳弘
1966年長野県生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学法学部助手、学習院大学法学部専任講師を経て、現在学習院大学法学部教授。この間、テュービンゲン大学歴史学部とベルリン自由大学フリードリヒ・マイネッケ研究所で客員研究員を務めた。専攻はドイツを中心とする近現代ヨーロッパの政治史。著書に『指導者なきドイツ帝国——ヴィルヘルム期ライヒ政治の変容と隘路』、『想像のドイツ帝国——統一の時代における国民形成と連邦国家建設』、『改訂新版 ヨーロッパ政治史』、『忘却する戦後ヨーロッパ——内戦と独裁の過去を前に』などがある。現在は、ビスマルク時代の社会保険組織に関する著作を、既発表論文を拡充する形で執筆中。政治図像学の知見を用いた「「レーニンの首」の記憶と忘却」(『UP』2018年7月号、8月号)など、ヨーロッパ政治史の可能性を広げる試みにも着手している。