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習慣と脳の科学

どうしても変えられないのはどうしてか

著:ラッセル・A・ポルドラック
監:神谷之康
訳:児島修

紙版

内容紹介

「本書は、悪い習慣を直すための「簡単なコツ」を紹介したりするものではない。むしろ、他の本で紹介されている習慣を変えるための魔法のような解決策のほとんどが、本物の科学の前では意味をなさなくなることを明らかにしていく。……行動を変えやすくするための、科学的な裏付けのあるアイデアも得られるはずだ」(本文より)

過食やスマートフォンの使いすぎから、飲酒や喫煙、果ては依存性のある薬物の使用まで、一度習慣づいた行動をやめたくてもやめられずにいる人は多い。一方私たちは、交通ルールや道具の使い方、毎日のルーチンなどが習慣になっているおかげで、いちいち立ち止まって考えずに行動できている。本書では、こうした習慣のありようを最新の科学的知見に基づいて定義づけ、その詳細に立ち入っていく。
全二部構成の第I部では、習慣的行動の性質やその形成メカニズムを脳神経科学や心理学に基づいて解説する。第II部では、習慣を変えるための裏付けある方法や、応用の見込みのある研究成果を紹介する。
著者は、再現性と透明性の高い科学研究を目指す、オープンサイエンス運動をリードする認知神経科学者である。科学界における「再現性の危機」の先を見据えた研究を通して綴られる、習慣の実像。

目次

謝辞

第I部 習慣の機械――なぜ人は習慣から抜け出せないのか

第1章 習慣とは何か?
習慣の詩人/習慣の動物園/習慣と目標/なぜ人間は習慣を持つのか?/行動を理解する/習慣と行動変容を理解するためのロードマップ

第2章 脳が習慣を生み出すメカニズム
習慣と意識的記憶/意識的な記憶のシステム/トカゲの脳と習慣の関係/大脳基底核とは何か?/ドーパミンは複雑なもの/ドーパミンと脳の可塑性/ドーパミンは何をしているのか/快感についてはどうか?/線条体での行動選択
ボックス2・1 興奮性ニューロンと抑制性ニューロン/ボックス2・2 光で脳を制御する/ボックス2・3 カルシウムイメージング――ニューロンを「光らせる」

第3章 一度習慣化すれば、いつまでも続く
古い習慣は死なない/無意識的行動への移行/一つになる――ひとまとまりの行動としての習慣/トリガー警告――合図はいかにして習慣を引き起こすのか/よそ見はできない――報酬をもたらす刺激は注意を引く/習慣を強固なものにするメカニズム
ボックス3・1 DREADD

第4章 「私」を巡る闘い
脳内競争?/人間における記憶システムの相互作用/目標指向行動と習慣の区別を定式化する/モデルベース強化学習とモデルフリー強化学習/目標は習慣化できるか?

第5章 自制心――人間の最大の力?
脳の前部には何がある?/なぜ前頭前野は特別なのか?/情報を心に保持する/強いストレスを感じているときに生物学的に起きていること/一番辛いのは「待つこと」/今? それとも後?/一つの脳に二つの心?/衝動をコントロールする/自分を止める/意志力の盛衰
ボックス5・1 拡散強調画像を用いた白質の画像化/ボックス5・2 ゲノムワイド関連解析/ボックス5・3 脳への刺激/ボックス5・4 なぜ小規模な研究が問題になりうるのか

第6章 依存症――習慣が悪さするとき
麻薬の中毒的な魅力/「麻薬を使うと脳はこうなる。質問は?」/衝動から習慣への移行/ストレスと依存症/依存症は本当に習慣なのか?/「私のドラッグは食べ物」/デジタル依存症?/なぜ薬物依存症になる人とならない人がいるのか?
ボックス6・1 遺伝子調節とエピジェネティクス/ボックス6・2 陽電子放出断層撮影(PET)


第II部 習慣を変えるには――行動変容の科学

第7章 新しい行動変容の科学に向けて
公衆衛生問題としての行動変容/行動変容の新しい科学/行動変容のための新しいアプローチ/介入の標的

第8章 成功に向けた計画――行動変容がうまくいくための鍵
選択構造/損失回避とフレーミング/意思決定をするのではなく、ルールをつくる/トリガー警告――習慣への介入/習慣を逆転させる/マインドフルネス――誇大広告か、それとも効果的な手法か?/自制心は鍛えられるのか?/抑制の訓練/変化を想定する/まとめ
ボックス8・1 メタアナリシスによる研究結果の統合的な分析

第9章 習慣をハックする――行動変容のための新たなツール
悪い習慣は消せるのか?/「喫煙者だったことを忘れた」/オプトジェネティクスはヒトに用いられるか?/神経化学的「ゴルディロックスゾーン」――実行機能を改善する薬/個別化された行動変容に向けて

第10章 エピローグ
まとめ/個人の変容から社会の変容へ

監訳者解説
索引
原注

著者略歴

著:ラッセル・A・ポルドラック
(Russell A. Poldrack)
スタンフォード大学心理学部教授。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校にてPh.D.を取得。2014年より現職。人間の脳が、意思決定や実行機能調節、学習や記憶をどのように行っているのかを理解することを目標としている。計算神経科学に基づいたツールの開発や、よりよいデータの解釈に寄与するリソースの提供を通して、研究実践の改革に取り組んでいる。著書にThe New Mind Readers What Neuroimaging Can and Cannot Reveal about Our Thoughts(Princeton University Press, 2018)がある。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。
監:神谷之康
(かみたに・ゆきやす)
京都大学 大学院情報学研究科・教授、ATR情報研究所・客員室長(ATRフェロー)。専門は脳情報学。奈良県生まれ。東京大学教養学部卒業。カリフォルニア工科大学でPh.D.取得。機械学習を用いて脳信号を解読する「ブレイン・デコーディング」法を開発し、ヒトの脳活動パターンから視覚イメージや夢を解読することに成功した。SCIENTIFIC AMERICAN誌「科学技術に貢献した50人」(2005)、塚原仲晃賞(2013)、日本学術振興会賞(2014)、大阪科学賞(2015)。サーペンタイン・ギャラリー(ロンドン)でのピエール・ユイグの展示 「UUmwelt」(2018)への映像提供など、アーティストとのコラボレーションも行う。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。
訳:児島修
(こじま・おさむ)
英日翻訳者。1970年生。立命館大学文学部卒(心理学専攻)。主な訳書に『サイコロジー・オブ・マネー』(2021)『DIE WITH ZERO』(2020、以上ダイヤモンド社)、『ハーバードの心理学講義』(2016、大和書房)など。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

ISBN:9784622095880
出版社:みすず書房
判型:4-6
ページ数:296ページ
定価:3600円(本体)
発行年月日:2023年02月
発売日:2023年02月14日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:VSP