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最後の猿まわし

著:馬宏傑
訳:永野智子

紙版

内容紹介

河南省南陽市新野県は、猿まわし発祥の地といわれ、中国で最も多くの猿まわし師が住む地域でもある。写真記者の著者は2001年に街で猿まわしの一座と出会い、それをきっかけに、彼らの生活を取材しはじめる。
猿まわし師たちは初夏の麦刈りと秋の収穫の時期を除き、1年のほとんどを猿を連れ、各地を渡り歩いて過ごす。痩せた土地に住む人々は、先祖代々、農閑期に猿まわしをして現金収入を得ることで生計を立ててきたのだ。
しかし、2002年に鮑湾村の猿まわし師・楊林貴の不法乗車による興行の旅に同行した著者は、“文明化”の名の下に社会から蔑まれ、排斥にあう彼らの厳しい境遇を目の当たりにする。経済発展に伴い都市部の治安・衛生管理が強化され、また文化的娯楽が多様化したことで、彼らは居場所を失いつつあった。特に近年、鞭やナイフを使い猿と諍いをする彼らの出し物は、虐待的だと非難されるようになっていた。しかし、猿まわし師たちは生活において何よりも猿を重んじ、一生にわたる縁を結んでいるのだった。著者は言う。
「中国は広大な国だ。地域間の貧富の差はいまだに大きく、私たちの誰もが、自分の住んでいる地域の暮らしをもって別の地域の人々の生活を理解することはできない。とりわけ貧困地域では、法律や倫理に反さない方法を見つけて生き延び、自活するということは非常に難しい。」
猿まわしで生きる最後の世代を20年にわたって追い、中国で社会的反響を呼んだノンフィクション。
カラー写真23点を含む、100点以上の写真を収録。

目次

序 最下層で生きる人々への関心

◆猿まわしを探して
猿まわし師に近づく
新野県と猿まわし
時代のなかの猿まわし
不法乗車の血と涙

◆猿まわし、江湖をゆく
四川行
楊林貴との出会い / 旅の準備 / 出発 / 不法乗車 / 長い道のり / 成都の街頭で猿をまわす / 猿まわし師の憂い / 帰郷
広東行
SARSの襲来 / 歳末の広東 / 予想外の来客 / 正月一日、財神を拝む / 往時の猿まわし
東北行
内モンゴルへ / ハイラルでの再会 / 満州里 / 不法乗車の終焉
猿まわしの家に生まれて
最後の猿まわし

◆猿まわしの群像
戈洪興との再会
飼育人、黄愛青
雲南に張首先を訪ねる
謎の猿まわし師
女性猿まわし師、党有嬌
道具職人、汪広亭
民間の習俗と「野生動物保護法」
飼育繁殖業への移行
喬梅亭の人生
罪に問われた猿まわし師たち

後記 楊林貴との再会――日本語版へのあとがきに代えて

著者略歴

著:馬宏傑
(マー・ホンジエ Ma Hongjie)
1963年、中国河南省洛陽市生まれ。写真記者。1983年より撮影を始める。武漢大学新聞撮影学科で学んだのち、河南経済日報社、河南法制報社などを経て、2004年より中国国家地理雑誌社に勤務。『中国国家地理』(Chinese National Geography)の制作に携わる。急速な社会の変容を背景に、中国民間の生活誌や下層社会の生のありようを主題として撮影を重ね、雑誌『読庫』などに寄稿。著書に、障碍者男性の嫁探しを取材した『西部招妻』、中国各地の家を訪ね家財道具を写した『中国人的家当』などがある。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。
訳:永野智子
(ながの・ともこ)
翻訳者。1989年生まれ。広島市立大学国際学部卒業。厦門大学外文学院日本語学科通訳・翻訳専門修士課程修了。通訳・翻訳修士(MTI)。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

ISBN:9784622095873
出版社:みすず書房
判型:4-6変
ページ数:368ページ
定価:3800円(本体)
発行年月日:2023年02月
発売日:2023年02月03日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:ATX