専門家の政治予測
どれだけ当たるか? どうしたら当てられるか?
著:フィリップ・E・テトロック
訳:桃井緑美子
訳:吉田周平
内容紹介
「内容でも、議論のスタイルでも、画期的な研究だ」
ダニエル・カーネマン(『ファスト & スロー』『ノイズ』)
本文より――「ずいぶん前から疑問に思っていたのは、安全保障についてでも、貿易についてでも、福祉政策についてでも、なぜこうも多くの政治的意見の対立がいつまでも解消しないのかということである。うまくいくと自信ありげに言いきったことがうまくいかなかったことを示す数々のエビデンスを前にしながら、まちがいを認める政治オブザーバーがめったにいないことにうんざりしていたのだ。…かつて流行した意見を支持した右から左までの全員がばつの悪い思いをする理由をデータはたっぷり示していた。予測の下手さでは保守派もリベラル派と変わらない。…私は愚直な心理学者でなければしないであろうミッションに着手した。さまざまな合理的な意見のもち主全員が同意せざるをえない判断の評価基準を見極め、それによって的確な政治予測に「具体性をあたえる」ことだ。本書はよくも悪くもその結果である」
「専門家の未来予測は、チンパンジーのダーツ投げより当たらない」ことを明らかにした、(ただしそれだけではない)、あまりにも有名な研究をついに邦訳。国家間紛争から経済成長まで、世界のさまざまな事象の確率を専門家に評価させた研究で見えてきた、当てられる専門家とは? ベストセラー『超予測力』の著者が、メディアや政府にチヤホヤされる専門家がいかにいい加減かを明らかにする。
さらに、得られた知見が、民主主義的議論に果たしうる役割も考察し、党派的な議論を解決する、新たな文化的ツールへの道筋も示す。
本書の発見
・総じて自信過剰が見受けられた。専門家は実際以上に自分には将来のことがよくわかると考えていた。
・専門家の成績は全体としてダーツを投げるチンパンジーを上まわったが、僅差の勝利だった。
・歴史を動かす大きい力を大局的に把握する「ハリネズミ」型の専門家は、手元のデータに忠実で、考え方の違う相手にも長所を見出せる、控えめな「キツネ」型の専門家よりも成績が悪かった。
・好奇心、柔軟さ、意見の違いへの並はずれた寛容さが、予測の正確度と予測結果の脆さの自覚の両方に関連していた。
・ハリネズミはつねに最悪の予測者だったわけではなく、キツネもつねに最高の予測者だったわけではなかった。
目次
謝辞
序文
2017年版への序文
問題だらけの確率
「一意性」の問題
予測と説明
解決できる問題は重要でない
真面目な人はトーナメントのルールでプレーすることに同意しない
序文の締めくくりに
1 量で表わせないものを量で表わす
ここに(社会科学における)ドラゴンひそむ
正体不明の構成概念をとらえる
正しく理解しているか
(五つの難題──競争の場は公平か/「正答」するが、そのかわり「誤警報」も多くないか/正答と誤警報に等しく重みづけしているか/予測という主観確率を採点することの難しさ/予測と現実の照合の難しさ)
正しく考えているか
各章のプレビュー
2 ラディカルな懐疑主義者からの自尊心をくじかれる異議申し立て
ラディカルな懐疑主義
ラディカルな懐疑主義者のタイプ
(経路依存性理論派/複雑性理論派/ゲーム理論派/確率論派)
心理学的懐疑主義者
(単純さを好む/曖昧さや食い違いを嫌う/世界は制御できると思いたがる/ランダム性に対する理解の耐えられない軽さ)
懐疑主義者の主張はテストに耐えうるか
本プロジェクトの調査方法の概略
懐疑主義の主張のエビデンス
見かけだおし説に関するエビデンス
専門知識の限界利益逓減説に関するエビデンス
15分間の名声説に関するエビデンス
おおぼらふき説に関するエビデンス
誘惑説に関するエビデンス
抜きがたい幻想説に関するエビデンス
妥協点の模索──懐疑的改善説
3 知識の限界を知る:キツネは較正でも識別でもハリネズミよりスコアが高い
的確な予測判断を定量的にとらえる
経歴、職歴などとの相関性
信念体系の内容との相関性
(左派と右派/制度主義と現実主義/悲観主義と楽観主義)
認知スタイルとの相関性
的確な予測判断を定性的にとらえる
キツネは過去の説明と未来の予測において被覆法則を有益とは考えない
キツネは歴史上の類例を単純にあてはめることに慎重である
キツネは自分の弁論に酔うようなことがない
キツネは自明なことを予測できなかったと過去の人々を厳しく批判しすぎるのを気にする(自分が未来の人に同じように批判されるのは気にしない)
キツネは「政治的熱意を表に出さない」ことが重要だと考えている
キツネは対立する見解を意識して統合しようとする
本章のまとめ
4 レピュテーショナル・ベットを尊重する:キツネはハリネズミよりも優秀なベイジアンである
論理的整合性のテスト
変化を見るプロセス性のテスト──ベイズ更新
レピュテーショナル・ベットの勝敗への反応
信念体系の擁護策
(検証の前提条件は満たされていた/外因性ショックがあった/反事実は紙一重の差で起こらなかった/時期がずれただけ/政治は雲のごとく千変万化でいかんともしがたい/正当なまちがいだった/ありそうにないことも起こるときは起こる)
後知恵効果──仮構と事実
的確な予測判断のプロセス性と対応性の関連づけ
5 反事実仮定を探る:キツネはハリネズミよりも自分の立場を危うくするシナリオにも耳を貸す
反事実仮定による歴史経路変更の妥当性の判断
ソ連の歴史
南アフリカにおける少数派白人支配の終焉
遠い過去の分岐点における歴史の経路変更
(西洋の変貌/第一次世界大戦の勃発/第一次世界大戦と第二次世界大戦の結果/冷戦はなぜ一度も「熱する」ことがなかったのか)
エビデンスと証拠の基準設定におけるダブルスタンダードの査定
本章のまとめ
6 ハリネズミの反撃
ハリネズミはそれほどひどい予測者ではない
(価値調整は必要か/確率加重調整は必要か/難度調整は必要か/論点調整は必要か/ファジィ集合調整は必要か/平均的個人は集団平均よりも巻き返しがずっと難しい理由)
考え方が救いがたいほど硬直しているわけではない
ダブルスタンダードも許される場合がある
歴史は決定論で論じることができる
後知恵バイアスには効用がある
調査者の質問の仕方が悪かった
サンプル集団に、資質のある人、意欲のある人を適切な時期に集めなかった
予測というゲームのとらえ方がそもそも違う
本章のまとめ
7 柔軟にもほどがあるのを認められるくらいに柔軟か
想像する力
未来を予測するときの脱バイアス
カナダの未来のシナリオ実験
日本の未来のシナリオ実験
シナリオ実験のまとめ
起こりえた過去を考えるときの脱バイアス
後知恵バイアス
歴史の偶発的事象に気づかせる
(キューバミサイル危機実験/ヨーロッパの変貌実験)
起こりえた過去を考えるときの「脱バイアス」の考察
本章のまとめ
8 客観性と説明責任の限界を探る
哲学的意見の衝突
(頑固な相対主義者/強硬な新実証主義者/穏健な新実証主義者/話のわかる相対主義者)
政策討論の質を向上させるには
巻末付録
研究方法解説
I 地域予測研究(第2章、第3章)
II ベイズの定理にもとづく信念更新の研究(第4章)
III ダブルスタンダードを調べるための思考転換実験(第5章)
IV 紙一重の反事実仮定の研究(第5章)
V 考えうる未来のアンパック実験(第7章)
VI 反事実仮定のアンパック実験(第7章)
技術解説
A 的確な判断の対応性指標
確率評価スコア
確率評価スコアの分解
確率評価スコアの要素──変動性、較正、識別
正規化識別指数(NDI)
較正と識別──自分の認識と日和見を区別する
自信過剰と平均への回帰──事実と人為的現象の区別
概念的な反論に対応するための確率評価スコアの調整
難度調整された確率評価スコア
価値調整された確率評価スコア
k法
差分重みづけ法
確率評価スコアに対する確率加重調整
論点調整された確率評価スコア
ファジィ集合調整
確率評価スコア調整の要約
B 的確な判断の論理的整合性指標とプロセス性指標
I 加法則の破綻──信念のアンパック効果(第7章)
II 加法性のさらなる破綻──不可能曲線と不可避曲線の解析的枠組み
III 乗法則の破綻──シナリオの効果(第7章)
IV 事象の確率の定義の破綻(第4章)
V 信念更新ルールの破綻
結びの見解
索引
原注