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スペイン内戦と国際旅団

ユダヤ人兵士の回想

著:シグムント・ステイン
訳:辻 由美

紙版

内容紹介

ポーランドで育ち、早くから共産主義運動にコミットしたステインにとって、1936年8月のモスクワ粛清裁判は背筋の凍る衝撃だった。ソヴィエト権力の中枢にいたジノヴィエフやカーメネフがスターリンによって粛清されたのだ。
スペイン内戦が勃発したのはそんな時だ。「ファシズムと解放勢力の戦い……世界はふたつの陣営に分かれようとしている。古くて反動的な者はフランコ将軍側につき、夢と自由を担う者は、危機にあるスペイン共和国と隊列を組むだろう」。彼はスターリンに対する「疑念の叫びを戦場で叩きつぶすため」に、国際旅団の志願兵となった。
世界中から、理想を同じくする何千という若者が、聖なるオーラを漂わせて集結した。迎えたバルセロナ市民も熱狂した。若いオーウェルもヘミングウェイもいた。
しかし日を追うごとに、「国際旅団」がスターリン主義のプロパガンダにもってこいの神話にされたことが見えてくる。「私はベールをはぎとり、国際旅団をその現実の姿で描きだすつもりだ。……革命という語に託されたイメージは共産党の最悪のウソのひとつであり、類をみないほどの事実の歪曲であることをしめすためだ」。この回想記は、筆致を抑えて書かれた稀有な参戦記だ。ステインが属したユダヤ人部隊には武器も食糧も支給されず、肉弾戦を強いられた。部隊は壊滅し、彼自身は奇跡的に生還した。

目次

はじめに
地図

1 スペインへの出発
2 モスクワ裁判
3 共産党幹部とのスペインに関する議論
4 パリ! ポーランド部隊に編入される
5 なんという驚き――バルセロナ号にロシア人招待客
6 無政府主義者たちとの出会い
7 アルバセテ――国際旅団司令部
8 検閲の邪悪な役割、不吉な悪夢
9 国際旅団のユダヤ人
10 アルバセテの殺し屋
11 酒宴と乱痴気騒ぎ
12 ヴィクトル・アルテルがアルバセテに来る
13 危いところで抹殺を免れる
14 わが友、ヴィリニュスのレシェク・パサッキの死
15 ロシアの支援とは
16 スペイン共和国はフランコに対してどんな防衛手段をもっていたか?
17 博物館からきた鉄砲と大砲
18 血にまみれた五月の日々
19 ラ・パシオナリア、スペイン革命の母
20 ムルシアの病院に入院
21 ウッチの御者とブエノスアイレスの医師
22 看護師カルメン
23 二度目のバルセロナ
24 パリ近郊のスペイン病院
26 謎の将軍ゴメスとは何者か?
27 ボトヴィン中隊の壊滅

シグムント・ステインの一生(オデット・ステイン)
あとがき(ジャン=ジャック・マリ)
イディッシュ語原典への謝辞
仏訳者による謝辞
日本語訳者謝辞

著者略歴

著:シグムント・ステイン
(Sygmunt Stein)1899-1968。ポーランド系ユダヤ人。レンベルク(現リヴィウ)近郊の村で育つ。ガリツィア東部(現ウクライナ)で共産主義組織「ユダヤ労働者党」を指揮。1934年、ポーランドで共産主義・社会主義運動への弾圧とユダヤ人住民の虐殺が起こり、チェコスロバキアに亡命。プラハで共産党の組織「ゲゼルド」を指揮する。
1936年晩夏、モスクワ粛清裁判のニュースに強い衝撃をうけ、翌年2月、スペイン内戦に義勇兵として参加。1938年はじめ、ポーランド部隊のボトヴィン中隊に編入され、部隊はフランコ軍に殲滅されるが、奇跡的に生還する。同年パリへ戻り、回想録を執筆。しかし第二次大戦の勃発で原稿を紛失。パリにドイツ軍が侵攻すると、一時スイスに亡命。戦後、ふたたびフランスへ戻り、1950年代半ば、失われた回想録を書きなおす。1961年、イディッシュ語版『スペイン戦争――一兵士の回想』が刊行され、2012年、フランス語版が刊行された。
訳:辻 由美
翻訳家・作家。著書『翻訳史のプロムナード』(みすず書房、1993)『世界の翻訳家たち 異文化接触の最前線を語る』(新評論、1995、日本エッセイスト・クラブ賞)『図書館で遊ぼう』(講談社現代新書、1999)『火の女シャトレ侯爵夫人 18世紀フランス、希代の科学者の生涯』(新評論、2004)『読書教育』(みすず書房、2008)ほか。訳書 ジャコブ『内なる肖像 一生物学者のオデュッセイア』(みすず書房、1989)ポンタリス『彼女たち』(みすず書房、2008)チェン『ティエンイの物語』(みすず書房、2011)ドゥヴィル『ペスト&コレラ』(みすず書房、2014)ロワ『ジハードと死』(新評論、2019)ほか。

ISBN:9784622090076
出版社:みすず書房
判型:4-6
ページ数:344ページ
定価:4000円(本体)
発行年月日:2021年07月
発売日:2021年07月26日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:DNP