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絶望死のアメリカ

資本主義がめざすべきもの

著:アン・ケース
著:アンガス・ディートン
訳:松本 裕

紙版

内容紹介

ノーベル経済学賞受賞者の最新作。

「これ以上、時宜にかない、しかも、希望に満ちた本を想像するのは難しい」
ロバート・パットナム(ハーバード大学教授)

「経済が繁栄し、株式市場が急騰するかげで、低学歴者が不可視化され、何十万もの死がもたらされていることを明らかにしている」
アトゥール・ガワンデ(ハーバード大学教授)

「あらゆる市民が読み、議論すべき書だ」
マーヴィン・キング(元イングランド銀行総裁)

「過去半世紀に、さまざまな生き方が、どのようにして擦り切れ、そしてバラバラになってきたか、さらに、アメリカの能力主義がいかに残酷かを書き尽くそうとしている」
ジョシュア・シャフィン(『フィナンシャル・タイムズ』紙)

「本書は2014年夏、モンタナの山小屋で生まれた。私たちは毎年8月になると、ヴァーネイ橋が架かるマディソン川が近くに流れる集落で、マディソン山脈を眺めながら過ごすことにしている。私たちは幸福と自殺の関係について調査すると決めていた。不幸せな場所——自分の人生がまったくうまくいっていないと感じている人々が暮らす郡、都市、国——ではやはり自殺が多いのかどうかを調べることにしていたのだ。この1年間におけるモンタナ州マディソン郡の自殺率は、私たちが1年の残り11カ月を過ごすニュージャージー州マーサー郡のそれよりも4倍高かった。私たちはその事実に興味を覚えた。というのも、モンタナで私たちはおおむね楽しく過ごしていたし、モンタナに住む人々も幸せに暮らしているように見えたからだ。
調査の過程で、中年の白人アメリカ人の自殺率が急速に増えていることがわかった。…驚いたことに、中年の白人の間で増えていたのは自殺率だけではなかった。すべての死因による死亡率が増えていたのだ。…もっとも増加率の高い死因は三つに絞られた。自殺、薬物の過剰摂取、そしてアルコール性肝疾患だ。私たちは、これらを「絶望死」と呼ぶことにした。…絶望死が増えているのは、ほとんどが大学の学位を持たない人々の間でだった」(はじめに)

「私たちが望むのは、死のエピデミックの純然たる恐ろしさ、そしてレントシーキングと上向きの再分配が生み出した極端な不平等に向き合うことで、これまで長く考えられてきた数々の構想が実行に移されることだ。その時はとっくに訪れている」(最終章)

アメリカ労働者階級を死に追いやりつつある資本主義の欠陥を冷静に分析し、資本主義の力を取り戻す筋道を提示する。

目次

序文
はじめに──午後の死

第I部 序章としての過去
第1章 嵐の前の静けさ
生と死を記録する/死亡率の変わりゆく側面/生物学と生活習慣

第2章 バラバラになる
アメリカの例外論。過去との決別。置き去りにされる下層民──さまざまな事実/死亡率の地理学/持ちこされる問題──年齢とコホート効果

第3章 絶望死
だが、ほかにも何かが起こっているはずだ/中年期にだけではない──若いアメリカ人の絶望死

第II部 戦場を解剖する
第4章 高学歴者(と低学歴者)の生と死
教育が人生に与える影響/教育と能力主義/死と教育/誕生という運命

第5章 黒人と白人の死
黒人と白人の死亡率──さまざまな事実/絶望死の今般エピデミックにおける黒人と白人/アフリカ系アメリカ人の絶望

第6章 生者の健康
生者の健康を測る/生者の状態──健康についての自己申告/生者の状態──ほかの指標/働く能力/まとめ

第7章 悲惨で謎めいた痛み
アメリカの痛み/痛みについてのさまざまな事実/痛みが増加する原因と結果

第8章 自殺、薬物、アルコール
自殺/ドラッグとアルコール

第9章 オピオイド
オピオイド/どうしてこんなことになったのか?/エピデミックと絶望死/企業の力と個人の幸福

第III部 経済はどう関係してくるのか?
第10章 迷い道──貧困、所得、大不況
貧困/不平等/所得と大不況/ヨーロッパにおける不景気、緊縮、死亡率/死と産業空洞化/大不況リターンズ

第11章 職場で広がる距離
1基のエスカレーターが2基になり、そのうち1基が止まった/成長、所得不平等、賃金/収入と賃金/低下と停滞を誇張しているか?/労働人口への出入り/変化する低学歴層の仕事の質

第12章 家庭に広がる格差
結婚/子育て/コミュニティ/人は自分の人生をどのように評価するのか?/まとめ

第IV部 なぜ資本主義はこれほど多くを見捨てているのか?
第13章 命をむしばむアメリカ医療
医療支出と健康成果/アメリカ人は払った額に対して何を受け取っているのか?/お金はどこへ?/誰が支払う? 高額医療費の帰結/なぜ医療はこんなに難しいのか?/みかじめ料?

第14章 資本主義、移民、ロボット、中国
移民と移住/グローバル化、貿易、イノベーション、ロボット/政策とグローバル化/アメリカのセーフティネット──グローバル化と人種

第15章 企業、消費者、労働者
アメリカ資本主義、今昔/独占と寡占──過剰請求力/市場支配力が蔓延している証拠/市場支配力は修正するべき現代の問題なのか?/労働市場と買い手独占──不当賃金力/厳しくなる職場、衰退する組合/企業の行動/ワシントンでの企業と労働/企業と労働者、まとめ

第16章 どうすればいいのか?
オピオイド/医療/コーポレート・ガバナンス/税制と給付政策/反トラスト/賃金政策/レントシーキング/教育/ほかの富裕国に対する教訓/失敗ではなく未来へ

謝辞/索引/原注

著者略歴

著:アン・ケース
プリンストン大学経済学・公共問題名誉教授。プリンストン大学の開発研究リサーチプログラム所長。専門は医療経済学。2003年に、小児期の経済状態と健康状態の関係についての研究で、国際医療経済学会のケネス・J・アロー賞を受賞。2016年に、中年期の罹患率と死亡率についての研究で、米国科学アカデミー紀要のコザレリ賞を受賞。現在は、アメリカ国家科学賞大統領諮問委員、国家統計大統領諮問委員を務める。
著:アンガス・ディートン
プリンストン大学経済学・国際問題名誉教授。南カリフォルニア大学経済学学長教授。専門は、貧困、不平等、医療、経済開発。イギリス生まれ。米英の市民権を持つ。ケンブリッジ大学とブリストル大学で教鞭を執ったのち、プリンストン大学に移籍。2009年にはアメリカ経済学会の会長を務める。2015年に、「消費、貧困、福祉に関する分析(analysis of consumption, poverty, and welfare)」で、ノーベル経済学賞を受賞。
訳:松本 裕
翻訳家。訳書 ウッドマン『フェアトレードのおかしな真実——僕は本当に良いビジネスを探す旅に出た』(2013、英治出版)ディートン『大脱出——健康、お金、格差の起原』(2014、みすず書房)外山健太郎『テクノロジーは貧困を救わない』(2016、みすず書房)トンプソン『どうしても欲しい!——美術品蒐集家たちの執念とあやまちに関する研究』(河出書房新社、2017)レヴィンソン『例外時代——高度成長はいかに特殊であったのか』(みすず書房、2017)バーチ『ビットコインはチグリス川を漂う——マネーテクノロジーの未来史』(みすず書房、2018)ブラウン『カミングアウト——LGBTの社員とその同僚に贈るメッセージ 』(英治出版、2018)コリンガム『大英帝国は大食らい——イギリスとその帝国による植民地経営は、いかにして世界の食事をつくりあげたか』(河出書房新社、2019)ミュラー『測りすぎ——なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』(みすず書房、2019)コリアー『エクソダス——移民は世界をどう変えつつあるか』(みすず書房、2019)ほか。

ISBN:9784622089636
出版社:みすず書房
判型:4-6
ページ数:352ページ
定価:3600円(本体)
発行年月日:2021年01月
発売日:2021年01月20日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JBF