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自然

コレージュ・ド・フランス講義ノート

著:モーリス・メルロ=ポンティ
編:ドミニク・セグラール
他訳:松葉 祥一

紙版

内容紹介

「〈自然〉は原初的なものであり、言いかえれば、構成されていないもの、制度化されていないものである。そこから、〈自然〉の永遠性(永劫回帰)の観念、安定性の観念が生じる。〈自然〉は謎めいた対象であり、まったく対象ではないような対象である。つまり〈自然〉は、われわれの目の前にあるものではまったくない。それは、われわれの土壌であり、目の前にあるものではなく、われわれを支えているものなのである」。

本書は、1956年から1960年にいたる〈自然〉を主題としたメルロ=ポンティのコレージュ・ド・フランス講義を、受講生のノートや著者自身の講義準備草稿をもとに再構成したものである。デカルト、カント、ブランシュヴィック、シェリング、ベルクソン、フッサールなど哲学者の諸考察、さらに自然科学、なかでも20世紀の物理学やフォン・ユクスキュル、ポルトマン、ローレンツなど生物学の成果を援用しつつ、自然と人間のあり方について、著者はさまざまな角度から探究を深めてゆく。
『行動の構造』『知覚の現象学』以後、晩年の野生の存在論、生の存在論にいたる稀有の哲学者の思考の歩みを生々しく伝える、貴重な講義ノート。

目次

凡例
編者序文

  〈自然〉の概念 1956-1957



第一部 〈自然〉概念の変遷の研究

第一章 アリストテレスとストア派における〈自然〉概念の目的論的諸要素

第二章 外的諸部分からなり、純粋な対象として、人間や存在自体に対して外的な、まったく外的な存在の観念としての〈自然〉
  A この概念の起原
  B デカルトにおける第一の〈自然〉の観念
  C デカルトの第二の着想
  結論

第三章 人間主義の〈自然〉概念
  A カントの諸観念
   1 コペルニクス的転回の二重の意味
    A 人間学的意味
    B 絶対としての主体
   2 判断力批判
  B ブランシュヴィックの諸観念
   1 空間の観念
   2 時間の観念
   3 因果性の概念

第四章 ロマン主義の〈自然〉概念
  A シェリングの諸観念
   1 〈世界〉の原理の観念
   2 所産
   3 シェリング哲学の対象――主観‐客観的なもの
   4 哲学の方法――直観の直観
   5 芸術と哲学
   6 シェリングの円環
   7 貢献の価値(シェリングとヘーゲル)
  B ベルクソンの諸観念
   1 シェリングとベルクソン
   2 事物の自存性としての〈自然〉
   3 〈生〉としての〈自然〉
   4 ベルクソンにおける〈自然〉概念の存在論的下部構造――存在の観念と無の観念
     無秩序の観念 無の観念 存在の観念 可能態の観念
   ベルクソンとサルトルに関するノート
  C フッサールの諸観念
   1 諸事物の定位における身体の役割
     われ能う〔Ich kann〕の器官として  「刺激反応体」「感覚能力」「主観‐客観」としての身体  原器‐事物、「方向づけの原点」としての身体
   2 〈他人〉の役割
   3 起源の諸対象――地球の経験

第二部 現代科学と〈自然〉の観念

序論 科学と哲学
  A 哲学史によって措定された〈自然〉観念の諸問題
  B 科学と哲学

第一章 古典物理学と現代物理学
  A ラプラスの概念
  B 量子力学
  C 量子力学の哲学的意味

第二章 空間観念と時間観念
  A 空間観念
  B 時間

第三章 ホワイトヘッドにおける〈自然〉の観念

  〈自然〉の概念 1957-1958 動物性、人間の身体、文化への移行

総序 デカルトの〈自然〉の諸概念、およびそれらとユダヤ‐キリスト教的存在論との関係についてのノート
  A 対象の存在論
  B 現実存在するものの存在論
  C この二つの考え方の関係
  D デカルトの思考の揺れが、いかにユダヤ‐キリスト教思想の要請に結びついているか
   1 自然主義の概念
   2 人間主義
   3 有神論

動物性
  A 現代生物学の諸傾向
   1 行動の観念
    A 円の知覚  B 運動の知覚  C 絵画の生成  D 生物の因果性の知覚
   2 情報とコミュニケーションの諸観念
    生物の諸モデル  言語の問題
  B 動物行動の研究
   1 J・フォン・ユクスキュルの記述
    A 下等動物の環境世界――動物‐機械  B 形成力のある下等動物  C 高等動物の環境世界  D ユクスキュルによる環境世界観念の哲学的解釈
   2 E・S・ラッセルによる「有機的活動の方向指向性」
   3 外部回路における生理学としての有機体の行動
    A 擬態の現象(アルドゥアン)。生物と魔術  B ポルトマンの動物の形態の研究  C ローレンツにおける本能の研究――本能から象徴機能への移行

  〈自然〉の概念 1959-1960 自然とロゴス――人間の身体

自然に関する研究の再開
哲学におけるこれらの研究の位置
これらの研究における人間の身体の位置
  序論
   1 哲学におけるこれらの研究の位置――哲学と〈自然〉の認識
   2 自然に関するわれわれの研究における人間の身体の位置
  [第一草案]
  [第二草案]
  [第三草案]
   人間の身体
  [第四草案]
   〈二つの予備的研究〉
   (A)個体発生 ドリーシュの分析 (B)系統発生
  [第五草案]
   1 ダーウィン主義の再興と変貌
   2 観念論
  [第六草案]
   1 形態学の記述
   2 哲学、ダッケのカント的立場
   3 統計的進化
   4 議論と結論
  [第七草案]
   4 人間と進化 人間の身体
  [第八草案]
   人間の身体

補遺

〈自然〉の概念 1956-57年(月曜・木曜講義)
  A われわれの〈自然〉概念の諸要素
  B 現代科学と新たな〈自然〉概念の指標の数々

〈自然〉の概念(つづき)――動物性、人間の身体、文化への移行 1957-58年(水曜・木曜講義)

〈自然〉とロゴス――人間の身体 1959-60年(木曜講義)

  編者注
  訳注
  訳者あとがき
  人名・作品名索引

著者略歴

著:モーリス・メルロ=ポンティ
1908-1961。フランスに生まれる。1926年、エコール・ノルマル・シュペリュール入学、在学中サルトル、ボーヴォワール、レヴィ=ストロースらと知りあう。1930年、哲学教授資格試験に合格。その前年にフッサールのソルボンヌ講演を、1935-1939年には高等研究院におけるコジェーヴのヘーゲル講義を聴講。ルーヴァンのフッサール文庫に赴き、遺稿を閲覧したのは1939年。第2次大戦中は従軍・レジスタンス活動を経験した。1945年、学位論文として同年刊の『知覚の現象学』および『行動の構造』(1942)を提出。1946年、サルトルらとともに『レ・タン・モデルヌ』創刊。1948年、リヨン大学教授、1949年、パリ大学文学部教授を経て1952年、コレージュ・ド・フランス教授に就任。1961年没。著書『ヒューマニズムとテロル』(1947)『意味と無意味』(1948)『弁証法の冒険』(1955)『シーニュ』(1960)ほか。没後『見えるものと見えないもの』(1964)『世界の散文』(1969)、コレージュ・ド・フランス講義録などが刊行されている。
他訳:松葉 祥一
1955年大阪生まれ。同志社大学文学研究科哲学・倫理学専攻博士課程満期退学。パリ第8大学博士課程中退。前神戸市看護大学教授。著書『哲学的なものと政治的なもの』(青土社、2010)、『来るべき民主主義』(共著、藤原書店、2003)ほか。訳書 バリバール『市民権の哲学』(青土社、2000)、デリダ『友愛のポリティクス』(共訳、 みすず書房、2003)、ランシエール『不和あるいは了解なき了解』(共訳、インスクリプト、2004)、メルロ=ポンティ『コレージュ・ド・フランス講義草稿 1959-1961』(共訳、みすず書房、2019)ほか。

ISBN:9784622088912
出版社:みすず書房
判型:A5
ページ数:528ページ
定価:8400円(本体)
発行年月日:2020年05月
発売日:2020年05月03日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:QDH
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:QDX
国際分類コード【Thema(シーマ)】 3:1DDF
国際分類コード【Thema(シーマ)】 4:1DDN