私小説のたくらみ
自己を語る機構と普遍性
著:柴田 勝二
紙版
内容紹介
私小説は、私的な小さな世界を描くと同時に、作者自身の経験や心情を描くことで、社会との対峙、他者との葛藤など、人間性に関わる普遍的な問題をも提示する。
芥川龍之介『歯車』、梶井基次郎『檸檬』、志賀直哉『和解』といった私小説の代表作から、森鷗外『舞姫』、三島由紀夫『仮面の告白』、大江健三郎『個人的な体験』など従来は「私小説」として扱われなかった作品も取り上げ、日本近代文学における「私」語りのありようを考察する。
目次
はじめに
序論 「危機」の表象―「私」を語る機構と『歯車』
Ⅰ 造形と告白の間
「弱き心」としての自我―『舞姫』と象徴的秩序
過渡期の〈道徳家〉―『蒲団』における造型と告白
反転する仮面―『仮面の告白』の同性愛と異性愛
Ⅱ 個別のなかの普遍
和解を成就する気分―『和解』と書く機構
〈子〉をつれた表現者―「ロマンティケル」としての葛西善蔵
身体としての果物―『檸檬』における詩とエロス
Ⅲ 〈私〉と現代世界
〈核〉に対峙する弱者―『個人的な体験』『新しい人よ眼ざめよ』における個人と世界
テロリズムと私小説―リービ英雄の表現と『千々にくだけて』
希薄な自己への執着―私小説とポストモダン
あとがき