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本を読む、乱世を生きる

福田和也コレクション 1

著:福田 和也

紙版

内容紹介

社会、国、人間関係、自分の将来に
不安や絶望を感じている読者へーーー。
学び闘い抜く人間の「叡智」がここにある。

文藝評論家・福田和也の名エッセイ・批評を初選集!!
◆第一部「なぜ本を読むのか」
◆第二部「批評とは何か」
◆第三部「乱世を生きる」
総頁832頁の【完全保存版】

◎中瀬ゆかり氏(新潮社出版部部長)
「刃物のような批評眼、圧死するほどの知の埋蔵量。
彼の登場は文壇的“事件”であり、圧倒的“天才”かつ“天災”であった。
これほどの『知の怪物』に伴走できたことは編集者人生の誉れである。」

◆時代に屈しない感性と才覚をいかにして身に付けるか◆

本を読むのは、人生を作ること。
生きることを、世界を、さまざまな人々を、出来事を、風景を、しっかりと味わい、その意味と感触を把握し、刻み込むためには、最高の訓練だ。
本はただ味わいを作りだすだけではない。
読書は、時間を作りだす。(中略)
書物には時間は組み込まれていない。ただ、紙に印刷された文字があるだけだ。
書物の「上演時間」は、人によって千差万別である。
しかもそれは、まったく作品自体によっては決定されない。
ただ読者によって、つまりは読み、理解し、想起するという精神の働きだけによって決定される。
このことの恐ろしさ、面白さを理解できるだろうか。
(「本は、人生を作る」より)

人にたいする好奇心は、麗しい人類愛にくらべれば、遥かに俗っぽいものでしかありません。
けれども好奇心は、人間の悪徳や醜悪さに負けません。悪や醜さは好奇心にとっては、意気を阻喪(そそう)するものではなく、むしろ美味なものです。
好奇心は、人間にたいする絶望的な真実にも、耐えることが出来ます。それは美しくはないかもしませんが、人間という卑小で俗にまみれた存在を、最終的に肯定する力をもっているのです。
さらに云うならば、人間にたいする好奇心は、人間だけで成り立っている世間、世の中にたいする興味であり、そこで積極的に生きるための、大きな支えになるのです。
人にたいして好奇心をもつことは、本書のもっとも大きなテーマである、果敢に現世を生きることの、核になりうるのです。それは、生きること自体への興味を深めてくれます。
(「悪の対話術」より)

カバー装画◎大竹伸朗/装幀◎鈴木一誌

目次

まえがき

第一部 なぜ本を読むのか

第一章 ろくでなしの歌

本は、人生を作る

フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
獄舎で、強盗たちの間に四年暮らして、
ぼくはついに人間を
見分けることができたのです。
『白痴』

川端康成
銀平は自分が死にたいほどの、
また少女を殺したいほどの、
かなしみが胸にせまった。
『みずうみ』

オノレ・ド・バルザック
俺は二つだけ情熱をもって居る。
女と名誉だ。
『谷間の百合』

志賀直哉
「危いからよせ。もう帰れ!」
「赤ちゃんのお乳があるから……」
「よせ!」
『暗夜行路』

深沢七郎
私が呪った女体のちからは地獄の
業火だったのだ。
業、業、業。
そう知ったとき、私の怨念の火は去っていった。
『秘戯』

D・H・ロレンス
おめえがここから糞をしたり小便をしたり
するのがいいんだ。
糞も小便も出来ないような女に用はない
『完訳 チャタレイ夫人の恋人』

第二章 贅沢な読書

贅沢な読書とは?
ヘミングウェイ 幸福な時間——『移動祝祭日』
読みたくなる古典——咲き合う美の連鎖
『古事記』/『万葉集』/『伊勢物語』/松尾芭蕉『笈の小文』

第三章 悪の読書術

社交的な読書とは何か
何を読んだらいいかわからない症候群/たくさん読むのは面倒だ
本と「社交」すべし
村上春樹を社交的に語る法
『カフカ』で見せた力技/記号にならない厄介さ/自分をどう演出するか
ヴェルレーヌと三島由紀夫、宮本輝と沢木耕太郎
……作家の顔を考える
容貌の重要性/ヴェルレーヌの苦悩、三島の変貌/宮本輝と沢木耕太郎の違い
フェミ本の意外な効用
あなたにも偏見がある/上野千鶴子と小倉千加子の奮闘
斎藤美奈子を上手に利用する
自分を作る読書を
「鑑賞」に潜在するスノビズム/「自分がどう見られるか」を意識せよ
かけがえのない本を見つけるには

第二部 批評とは何か

第四章 人間の叡智と愚かさ

批評私観——石組みの下の哄笑
甘美な人生
色川武大 数え切れない事と、やり切れない事と
柄谷行人氏と日本の批評
大江健三郎氏と魂の問題、あるいは如何にして二十一世紀に小説を読みうるのか
芥川龍之介の「笑い」——憎悪の様式としてのディレッタンティスム
ロラン・バルト、プルースト、小林秀雄 生きている文章、死んでいる文章——テクスト論とヒューマニズム

第五章 絶望の果ての跳躍

桂冠詩人と国家の成熟——または、アウシュヴィッツの後に、国家について語ること
桶谷秀昭と保田與重郎の視線——「明治の精神」と昭和
陽明学と突撃隊——三島由紀夫の『わが友ヒットラー』
福田恆存と江藤淳——絶望の獲得
江藤淳氏の「成熟」
しひて縄墨を引きて咎むべからず——『近世畸人傳』
日本文藝の永遠——その未だ来らぬものと既に訪れたもの

第六章 グロテスクな日本語

作家が全員死んでも困らぬ批評家の立場
文芸時評の敗滅
文芸時評とは何か/なぜ時評でなければならないのか
セリーヌ 「憎悪と汚辱」
すべてはセリーヌから/人工的な言語/セリーヌの狂気/現在の言語空間
小林信彦 「オタク」の情報には普遍性がある——「オヨヨ大統領」シリーズ
田口賢司 清潔な作家、純粋小説の夢--『ラヴリィ』
石川淳とサン・テミリオン--『森鴎外』について
現代日本文学と「すでにそこにあるもの」
アナキズムとは政治よりすぐれて芸術的、文学的運動であった
グロテスクな日本語へ
パンク世代なんて日本にはいない
松下竜一 偏執としての左翼は興味深い——「怒りていう、逃亡には非ず」
山田太一 時代に見通しがない怖さと人間の怖さ——「見えない暗闇」


第三部 乱世を生きる

第七章 危機的存在と独立自尊

福澤諭吉の意志と知性の強さ

第八章 価値ある人生のために

若き友への手紙——N君へ
僕は君の胸中に、「響き」を作りたい
生きるということは、死者たちとの約束のなかにある
意味と目標
社会人としての出発に際して、何を考えなければならないか?
「いかに生きるか」ということが、人生で一番大事なこと
「答えがない」ということが、生き甲斐の核心だ
何のためになら、命を投げ出すことができるか
足元を固めないで走り出してどうするんだ
「生き甲斐」は、自分で作るもの
危機と観察
「組織」や「人」を、なぜよく見なければならないのか?
危機だからこそ露呈する「組織」と「人」の真価
上司の、一見無意味な言葉の「文脈」を探ること
この世の中は、「嫉妬」の感情で満ちている
会社のなかの「困った人たち」には用心しなければならない
自分の頭で考えること。「世論づけ」にならぬこと
「礼儀正しい」ということは、つまり「油断をしない」ということ
野心と認識
その仕事が好きだというだけでは、なぜ不十分なのか?
意義ある人生のために、「三つのこと」を重ねること
「幸運」を当てにせず、正確な「認識」をもつこと
緊張と遊び
「緊張」を楽しむことを学べば、それは「快楽」になるだろう
「美意識」がなければ、「贅沢」を楽しむことはできない
自分の生活自体を、「聖域」として作っていくこと
「仕事」と「遊び」の完全な一致、それが理想の境地
成功・失敗より大切なもの
「文体」は、人によって千差万別
成功も失敗も、それをどう受け止め、生きていったかが大事

第九章 人でなし稼業

人殺す前に大暴れ
不景気下の自爆、浪費のススメ
イジメなんてなくならない
泥船に乗る「根性」
気骨、任侠、志
死ぬ時くらいカッコよく
インターネット小僧にはわからない

第十章 人を斬る覚悟があるか

宮本武蔵 転換期を生きたアウトサイダー——地之巻
なぜ日本人はかくも小粒になったのか
戦後、わが国は人物を育てようとしてきたか/戦死にたいする覚悟がいらなくなった
戦争なんてしないに越した事はない/貧困と病苦にたいする怯えがなくなった
松永安左衛門の強欲/器量を培う道、あるいは素地/殺す者、殺される者の差

あとがきにかえて——われ痛む 故にわれ在り

初出一覧
福田和也 年譜
【解説一】 実録外伝・福田和也  伊藤彰彦(映画史家)
【解題二】 κ405  明石陽介(編集者)

著者略歴

著:福田 和也
1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院修士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部教授。93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、96年『甘美な人生』で平林たい子賞、2002『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、06年『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『昭和天皇』(全七部)、『悪と徳と 岸信介と未完の日本』『大宰相 原敬』『闘う書評』『罰あたりパラダイス』『人でなし稼業』『現代人は救われ得るか』『人間の器量』『死ぬことを学ぶ』『総理の値打ち』『総理の女』等がある。

ISBN:9784584139257
出版社:ベストセラーズ
判型:4-6
ページ数:832ページ
定価:4500円(本体)
発行年月日:2021年03月
発売日:2021年03月03日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:DNL
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:DS
国際分類コード【Thema(シーマ)】 3:1FPJ