銭形平次と聞けば、大川橋蔵演じるテレビドラマを思い出す人は多いだろう。1966年から1984年まで全888回放送された当番組で、大川は「テレビの1時間番組世界最長出演」としてギネスブックに認定された。▼一方、野村胡堂の原作のほうも、26年かけて383編が書き継がれた超人気シリーズ。胡堂によって創作された銭形平次は、日本人に最も愛された時代小説ヒーローの1人といえる。▼神田明神下の長屋に恋女房のお静と暮らし、子分のガラッ八を連れ、得意の投げ銭で事件を解決する正義の味方。テレビでは人情親分のイメージが強いが、じつは原作『銭形平次捕物控』には、伝奇色や怪奇色の強い「意外な作品」もある。本書では、平次が将軍暗殺を目論む邪教教団に戦いを挑む「金色の処女」を始め、その異色の活躍が楽しめる9作品を収録。原作ならではのテンポのいい語り口で、「奇譚」というべき摩訶不思議なエピソードが楽しめる。▼文庫オリジナル。