641年、初めて歴史にその名を登場したのは父・舒明天皇の葬礼であった。時に16歳の青年は、4年後の645年、蘇我入鹿暗殺の機会を狙う刺客として飛鳥板蓋宮にいた。 歴史の表舞台に颯爽と登場した中大兄皇子こと天智天皇。しかし、律令国家建設のパイオニアたる理想の皇太子、そして後には天皇の理想像として語られることになる<中大兄>とは、『日本書紀』において創くり上げられたものだった。 本書では、従来の<中大兄>像のイメージを一新、「軍事王」天智としての実像を解明する。 目次より●二人の皇太子 ●年十六にして誄す ●韓人、鞍作を斬る ●改新之詔を宣ふ ●天に双つの日無し ●正々世々、君主を怨みじ ●水表の軍政 ●都を近江に ●鼎鳴る ●近江大津宮天皇の誕生。 丹念な『日本書紀』の再検証から<中大兄>像創造の過程を明らかにし、大化改新、白村江を勝ち抜いた英雄―「軍事王」としての天智の実像を描き出す問題作である。