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レーモン・クノー 〈与太郎〉的叡智

著:塩塚 秀一郎

紙版

内容紹介

与太郎は、ほんとうに馬鹿なのか?

 馬鹿げた話やデタラメな話を「与太話(噺)」というが、これは古典落語にしばしば登場する〈与太郎〉から来ている。与太郎とは、定職にもつかずブラブラしていつも失敗ばかりの粗忽者、なのになぜかのんきで楽天的なお調子者といったところか。
 フランスにも、この与太郎キャラを描くのが抜群に巧い作家がいる。レーモン・クノー(1903-76)である。代表作は映画化もされたスラップスティック・コメディ『地下鉄のザジ』や、たった1つの出来事を99通りの文体で書き分けた『文体練習』など。実験的文学集団「ウリポ」の中心的メンバーとしても知られ、ガリマールの『プレイヤード百科事典』の監修責任も務めた。
 深刻ぶったり難解ぶったりするのが大好きなフランス現代小説において、しかも第二次世界大戦前後という切実な時代に、知の巨人のようなクノーは『わが友ピエロ』、『ルイユから遠くはなれて』、『人生の日曜日』といった作品で、〈世の中ついでに生きている〉ようなのんきな男たちを次々に創り出した。それはいったいなぜか──。クノー小説における愛すべき〈与太郎〉たちを通し、我々の通念を揺さぶる「知」や「真実」を問う。

目次

はじめに̶̶クノー事始め

第1章 遊園地と礼拝堂 『わが友ピエロ』 —— ピエロの場合
気晴らしの場所/コジェーヴの思想/歴史の終わりと賢者/ピエロの知恵/カーニバル的空間/遊園地の裏面/遊園地と礼拝堂/礼拝堂の前史/遊園地火災の謎/謎としての礼拝堂/王子落馬事故偽装説/ムンヌゼルグと北アフリカ/ピエロの世間知/漫歩の小説/パノラマ的展望/近視という能力/時間と変化/エピローグで語られる変化/あだ名と本名/ピエロによる俯瞰的総括/賢者の余裕

第2章 映画と夢想 『ルイユから遠くはなれて』 —— ジャックの場合
映画という気晴らし/映画との同一化/映画的技法と言語の罠/記録映画/シラミが象徴するもの/夢想のメタファー/夢想の価値/登場人物の問い直し現実と想像の境界/現実から想像への唐突な移行/想像と現実の相互浸透/夢想の減少/映画の端役/ドキュメンタリー映画の撮影/再び、虚実の曖昧化/ジャックの知恵

第3章 千里眼と戦争 『人生の日曜日』 —— ヴァランタンの場合
日曜日としての人生/再び、歴史の終わり/時間をめぐる試み̶̶過去/時間をめぐる試み̶̶現在/時間をめぐる試み̶̶未来/ヴァランタンの変化/「見抜くこと」と戦争/空間偏重と時間の枠外/名前と時間/ナポレオン戦争と対独戦争/予言における〈知〉と〈信〉の対立/聖人への道/庶民の知恵/他愛ないおしゃべり/とりとめのなさ

おわりに
あとがき
レーモン・クノー 作品邦訳リスト

著者略歴

著:塩塚 秀一郎
東京大学大学院人文科学研究科修士課程(仏語仏文学専攻)修了、パリ第三大学博士(文学)。
東京大学大学院人文社会系研究科教授。
著書『ジョルジュ・ペレック 制約と実存』、訳書ペレック『さまざまな空間』『美術愛好家の陳列室』『煙滅』『傭兵隊長』『パリの片隅を実況中継する試み ありふれた物事をめぐる人類学』、クノー『あなたまかせのお話』『リモンの子供たち』(日仏翻訳文学賞受賞)。

ISBN:9784560098981
出版社:白水社
判型:4-6
ページ数:230ページ
定価:2800円(本体)
発行年月日:2022年05月
発売日:2022年05月09日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:FB