出版社を探す

運送業の未払い残業代問題はオール歩合給で解決しなさい

著:向井 蘭
著:西川 幸孝

紙版

内容紹介

2020年3月の国際自動車最高裁判決後、トラック運送業で割増賃金支払いをめぐるトラブルが増え、2022年4月からの賃金の消滅時効延長によりさらに増えると見込まれています。
加えて同一労働同一賃金への対応も必要とされ、これらの問題に対応するにはより生産性の高い働き方をするドライバーに報いることができるオール歩合給制度の導入が有効と考えられます。
本書では、制度変更に同意を得るための説明の工夫や、新制度および経過措置の設計の仕方や運用のポイントを、具体的な例を交えてわかりやすく解説。

目次

第1章 オール歩合給制度導入の必要性
Ⅰ 弁護士による未払い残業代請求は運送業が多くを占める
Ⅰ-1 サービスエリアにある法律事務所の広告
Ⅰ-2なぜ弁護士による未払い残業代請求は運送業が多くを占めるのか?
Ⅱ なぜ運送業の労働時間は長く、労働時間に応じて賃金を支払おうとしないのか
Ⅱ-1 全産業平均労働者に比べて長い労働時間
Ⅱ-2 中小企業が圧倒的多数という業界の特殊性
Ⅲ 消滅時効3年への延長により倒産する運送会社も出てくる
Ⅳ 国際自動車事件最高裁判決の衝撃
Ⅳ-1 きっかけは北海道のタクシー乗務員勝訴の裁判例
Ⅳ-2 国際自動車の賃金の仕組み
Ⅳ-3 国際自動車事件も下級審においては乗務員勝訴の流れが続いていた
Ⅳ-4 まさかの平成29年最高裁判決
Ⅳ-5 差戻し後の東京高裁平成30年2月15日判決では、会社勝訴の結論
Ⅳ-6 決定的な最高裁判決
Ⅴ これまでの残業代支払いに関する取組みは限界
Ⅴ-1 歩合給を割増賃金として支払う方式は、もう通用しない
Ⅴ-2 国際自動車事件の影響は、既に他の裁判例に表れている
Ⅴ-3 実質オール歩合給の基本給・割増賃金振分け方式もリスクが高い
 (1)実質オール歩合給の基本給・割増賃金振分け方式の有効性が争われた裁判例
 (2)裁判所は、制度の有効性を否定
 (3)オール歩合給制そのものは否定されていない
Ⅴ-4 定額残業代制度も無効と判断されるおそれが強い
Ⅵ 解決策はオール歩合給制度しかない
Ⅵ-1 オール歩合給制度により劇的に減る割増賃金
Ⅵ-2 オール歩合給制度で未払い残業代が争われるとどうなるか
Ⅵ-3 「オール歩合給制度が違法」は都市伝説
Ⅶ 日本版「同一労働同一賃金」対応としても有用
Ⅶ-1 運送業では均衡・均等待遇が争われる可能性が高い
(1)日本版「同一労働同一賃金」とは
(2)未だ事例がない均等待遇違反
(3)フルタイム有期雇用運転手との間で均等待遇違反が問題となる可能性
(4)定年後再雇用者との間で均等待遇違反が問題となる可能性
(5)均衡待遇違反も引き続き問題となり得る
Ⅶ-2 運送業の日本版「同一労働同一賃金」問題は定年延長+オール歩合給制度の導入により解決可能
(1)定年後再雇用をそもそもなくす
(2)期間雇用もオール歩合給制度に統一する
Ⅶ-3 定年延長+オール歩合給制度導入と労働条件不利益変更問題
(1)定年延長+オール歩合給制度導入でも不利益変更に当たる可能性あり
(2)参考になる最高裁判例
(3)第四銀行事件とは
(4)第四銀行事件最高裁判決の内容
(5)定年延長+オール歩合給制度の導入による労働条件不利益変更へのあてはめ

第2章 オール歩合給制度導入のために何をすればよいか
Ⅰ 労働条件の不利益変更問題への対応
Ⅰ-1 ほとんどの場合、オール歩合給制度導入は労働条件の不利益変更に当たる(賃金減額の可能性のみで不利益変更に該当する)
Ⅰ-2労働条件の不利益変更には原則として労働者個人の同意が必要
Ⅰ-3 同意書
Ⅱ 労働者から同意を得るための説明のしかた
Ⅱ-1 具体的な必要性を説明しなければならない
Ⅱ-2 労働生産性向上・労働時間短縮を図る必要性から説明する
Ⅱ-3 人材確保を目的とした定年延長の必要性から説明する
Ⅱ-4 運送業の日本版「同一労働同一賃金」問題対応の必要性から説明する
Ⅲ 労働者の不安・不満対策としての経過措置の実施
Ⅲ-1 人間には、少しでも損を減らせる可能性があれば、そちらを選ぶ傾向がある
Ⅲ-2 損失回避策=経過措置を講じることで労働者が同意しやすくなる
Ⅳ 経過措置の設計と留意点
Ⅳ-1 経過措置は何年がよいのか?
Ⅳ-2 経過措置の設計上の留意点
Ⅳ-3 現実的な経過措置の設計例~3カ月精算方式
Ⅴ オール歩合給制度導入に同意が得られない場合の対応
Ⅴ-1 同意が得られない場合は労働契約法10条が適用される
Ⅴ-2 変更前後で賃金原資を変えないことが重要
 (1)変更後の労働強化によるものではないか
 (2)急激かつ大幅な労働条件の低下になり不測の損害を被らせるものではないか
 (3)新計算方法を採用した理由
 (4)労働組合等との交渉経緯
Ⅵ オール歩合給制度の導入パターン
Ⅵ-1 全員導入パターン
Ⅵ-2 既得権保護パターン
Ⅵ-3 希望者のみ移行パターン
Ⅶ 配車係の権力濫用問題対策を講じる
Ⅶ-1 権力濫用問題を防ぐポイントは性弱説
Ⅶ-2 予防措置
(1)みなし運賃を設定する
(2)配車係を複数担当制にする
(3)配車係を任期制にする
(4)情報開示を徹底する
(5)運転手と定期面談を行う
Ⅶ-3 事後措置
(1)配車係の面談
(2)配置転換
(3)気を付けるべき未払い残業代請求

第3章 オール歩合給制について
Ⅰ オール歩合給制とは
Ⅰ-1 特徴
Ⅰ-2 よくある誤解
Ⅰ-3 適用職種
Ⅱ 歩合給制の歴史
Ⅱ-1 欧米における発展の経緯
Ⅱ-2 テーラーの取組みとそれ以降の展開
Ⅱ-3 日本における出来高払制の経緯
Ⅱ-4 近年の出来高払制の適用状況
(1)昭和30年代
(2)昭和40年代以降
Ⅱ-5 出来高払制まとめ
Ⅲ トラックドライバーの賃金構成
Ⅳ 歩合給制に対する批判
Ⅴ 歩合指標は自由に設定できるのか
Ⅴ-1 自由度の高さゆえに疑問を感じてしまう経営者が多い
Ⅴ-2 歩合指標の設定に関するルール
Ⅵ 未払い残業代リスクを回避する効果は
Ⅶ 労使にとっての歩合給制のメリット
Ⅵ-1 経営者にとってのメリット
(1)売上、利益や運搬量などの出来高に応じた支払いができる
(2)特別な割増賃金の計算方式が適用される
Ⅵ-2 労働者にとってのメリット
(1)やればやっただけ収入が増える
(2)生産性の低い労働者の割を食わずに済む
(3)自己効力感を強く得られる

第4章 歩合給の法的取扱い
Ⅰ 平均賃金の算定方法
Ⅱ 割増賃金の計算方法
Ⅱ-1 割増賃金の計算方法
Ⅱ-2 計算事例
(1)固定給の場合
(2)出来高払制の場合
(3)固定給と出来高払賃金の組合わせで支払われる場合
Ⅲ 年次有給休暇を取得した場合の賃金
Ⅲ-1 「通常の賃金」を支払う場合の計算方法
Ⅲ-2 固定給と歩合給の組合わせで支払われる場合の計算方法
Ⅲ-3 どの方式を採用するのがよいか
Ⅲ-4 欠勤控除について
Ⅳ 出来高払制の保障給
Ⅳ-1 保障給が関係するケースとは
(1)労働者の責により労働に従事しない場合
(2)使用者の責に帰すべき事由により休業を余儀なくされた場合
(3)業務に就いたものの、歩合給が極端に低くなった場合
Ⅳ-2 保障給の額
 Ⅳ-3 自動車運転者についての特別な扱い
Ⅳ-4 保障給に関連する罰則
Ⅴ 出来高払制の保障給の規定方法
Ⅴ-1 平均賃金を基準とするもの
(1)オール歩合給制の場合の規定例
(2)固定給と歩合給の併用の場合の規定例
Ⅴ-2 過去3カ月間の支給実績との比較によるもの
(1)オール歩合給制の場合の規定例
(2)固定給と歩合給の併用の場合の規定例
Ⅴ-3 過去水準および固定的水準との比較によるもの
(1)オール歩合給制の場合の規定例
(2)固定給と歩合給の併用の場合の規定例
Ⅵ 歩合給と最低賃金
Ⅵ-1 時間あたりの金額が最低賃金額以上かを確認する
Ⅵ-2 確認方法
Ⅶ 社会保険の扱い
Ⅶ-1 資格取得時
  (1)月給・週給など一定の期間によって定められている報酬
  (2)日給・時間給・出来高給・請負給などの報酬
Ⅶ-2 定時決定(健康保険法41条、厚生年金保険法21条)
 (1)対象
 (2)定時決定は行わない人(次のいずれかに該当する人)
Ⅶ-3 随時改定
 (1)対象
 (2)固定的賃金とは
 (3)歩合給における「固定的賃金の変動」
Ⅷ オール歩合給制におけるハローワーク求人票の記入例

第5章 オール歩合給制賃金制度設計にあたって検討すべき事項
Ⅰ オール歩合給制の導入が可能かどうかを検討する
Ⅰ-1 歩合指標に関するハードルを確認する
(1)安定的な歩合指標の設定ができるか?
(2)ドライバー別の歩合指標データを把握できるか?
(3)歩合指標の締めと賃金支払期間がうまく整合するか?
Ⅰ-2 配車管理に関するハードルを確認する
(1)運行管理者が適切な配車管理を行えるか?
(2)歩合ほしさの長時間労働が防げるか?
Ⅰ-3 企業カルチャーと社員気質に関するハードルを確認する
Ⅱ 制度を根付かせるための前提条件を満たしているかを検討する
Ⅱ-1 オール歩合給制は全体の中で成り立つよう設計する
Ⅱ-2 どのような制度となるのがよいか?
Ⅱ-3 ルールに基づいた賃金制度とすること

第6章 オール歩合給制度制度設計の手順と内容
はじめに オール歩合給制導入の賃金制度改革は3つのフェーズで進める
Ⅰ 課題を明確にして解決の方向性を決める
I-1 現在の制度の実態を把握する
(1)職種実態(業務内容、運行パターン等)を把握する
(2)賃金支給実態(労働時間数含む)を把握する
(3)制約条件(人件費限度額、スケジュールその他)を確認する
I-2 現状賃金の分析・評価、課題の確認を行う
(1)世間水準と比較する(外部相当性の確認)
(2)各種偏りの確認(内部公平性の確認)
(3)割増賃金未払い等の有無と程度を確認する
(4)解決すべき課題を明確にする
I-3 改革の方向性を決める
(1)賃金制度改革の大義名分を立てる
(2)実現すべき状態・課題解決イメージを描く
(3)労働時間制および労働時間管理の改革
(4)職種ごとの賃金水準、ターゲット年収を決める
Ⅱ 自社に最適な賃金制度設計を行う
II-4 職種別賃金の基本構造を検討する
(1)職種別の基幹的賃金(基本給等)、補助的賃金(手当類)、歩合給など、賃金の基本構造を検討する
(2)複数職種を貫く共通要素を増やし、職種による差異を手当等で表現する
II-5 歩合給制の詳細を設定する
(1)歩合給制で保つべき5原則
(2)歩合給指標、歩率・単価等を検討する
(3)歩合給シミュレーションを実施する
(4)出来高払制の保障給を設定する
II-6 補助的賃金(手当類)を決定する
(1)現行賃金を評価し、手当の統廃合や新設を行う
(2)職務型手当を設定する
(3)生活補助手当を設定する
II-7 基幹的賃金(基本給等)を決定する
(1)基幹的賃金の構成
(2)勤続給
(3)地域手当
(4)基本給
(5)賞与支給方式等
Ⅲ 新賃金制度を実現可能なかたちで現実に落とし込む
III-8 新賃金制度のシミュレーションを行う
(1)従業員ごとに仮決定した賃金項目に金額を当てはめる
(2)金額の妥当性、全体バランス等を確認し、修正が必要な場合、設定金額等を変更する
III-9 新賃金制度の最終決定を行う
(1)課題は解決されたか、制約条件に抵触しないか、実現すべき状態は達成されたかを確認する
(2)支給ルールを再確認し、規定化する
III-10 激変緩和措置と合意プロセスの設計を行う
 (1)差額補てんの必要性と期間を検討する
 (2)差額補てんのやり方を検討する
 (3)同意を得るためのプロセスを設計する

第7章 経営者・管理者に求められる姿勢
Ⅰ プロフェッショナルとしてリスペクトすること
 Ⅰ-1 賃金を動機付け要因としてモチベーション向上の道具として使おうと思っても、あまり有効に機能しない
 Ⅰ-2 業績を認め賞賛するシステムがあれば、それを目指すモチベーションも生まれる
Ⅱ 説明と情報開示を行う姿勢を持つ
 Ⅱ-1  制度導入時、雇用契約締結時の説明
 Ⅱ-2 売上データなどの情報開示を行う
Ⅲ ルールを守り、秩序を保つ
 Ⅲ-1 労働者
 Ⅲ-2 経営者・管理者

第8章 様々な職種へのオール歩合給展開を考える
Ⅰ 産業構造と職務内容が変化し、生産性の違いが賃金に反映されにくくなっている
Ⅱ 実は様々な職種で歩合給の適用を検討する価値アリ
Ⅲ 保険募集人
Ⅲ-1 手数料収入を歩合指標とする歩合給制が適用される
Ⅲ-2 早期解約に伴う手数料収入の戻入に関する問題と対処策
 (1)手数料の戻入問題と労基法16条
 (2)対策
Ⅲ-3 オール歩合給制への移行
Ⅳ 建設工事等の現場管理者
Ⅳ-1 建設工事等の現場管理者への歩合給の適用
Ⅳ-2 付加価値に連動した歩合給制の検討
 (1)歩合指標
 (2)歩合給の構造
 (3)工事ネット金額により発生する不合理の解消方法
Ⅳ-3 オール歩合給制の可能性
Ⅴ 時間請負制(ITエンジニアなど)
Ⅴ-1 時間請負型の歩合給制
Ⅴ-2 時間請負制の評価
 (1)100%分益制
 (2)ハルセー方式
 (3)100%分益制とハルセー方式の比較
Ⅴ-3 時間請負型の歩合給制を活用するメリット
Ⅴ-4 時間請負制と労働法
Ⅴ-5 フリーランスと歩合給制社員
Ⅵ 集団出来高払制(製造職種など)
Ⅵ-1 チーム、集団に適用される歩合給制
 (1)集団出来高払制・集団能率給とは
 (2)生産奨励給
Ⅵ-2 生産奨励給の仕組み
 (1)指標
 (2)配分方法
Ⅵ-3 生産奨励給に実労働時間を反映させ歩合給として扱う方法
 (1)支給金額計算において、各人の実労働時間を反映させれば歩合給として扱える 
 (2)生産奨励給に実労働時間を反映させる方法
Ⅵ-4 生産奨励金を販売奨励金として活用することも可能
 (1)販売奨励金の額
 (2)販売奨励金に対する残業代
 (3)集団出来高払制による販売奨励金を活用するメリット
Ⅵ-5 集団出来高払制のまとめ

 巻末資料
 賃金規程例

ISBN:9784539728987
出版社:日本法令
判型:A5
ページ数:272ページ
定価:2600円(本体)
発行年月日:2022年03月
発売日:2022年03月19日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:KNG
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:TRC