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ヴェーバー理論の研究と「精神構造」としての天皇制

精神療法の臨床研究からみた「支配の正当性」

著:長山 恵一

紙版

内容紹介

長年の精神療法の臨床研究が辿りついた知の沃野。既存の社会諸科学との鋭利な格闘を通して天皇制の謎=本質に迫る瞠目の論考。

目次

[第1部]ヴェーバー社会学の認識論・方法論・支配の〔正当性/正当化〕論の整理・検証
第1章 ヴェーバーの支配の〔正当性/正当化〕論の概説――諸家の議論の整理を通して
Ⅰ はじめに
Ⅱ 『経済と社会』(新稿)を中心とした支配の正当性Legitimit■tにかかわる議論
Ⅲ 『経済と社会』(旧稿)を中心とした支配の正当性論について
1.ヴェーバー支配論における〔自己正当化・自己義認Selbstrechtfertigung〕の重視――慣習律・諒解にかかわる行為論的社会学
2.『経済と社会』旧稿に隠された、もうひとつの正当性の系譜――品位感情・威信感情・共属意識(方法論的個人主義を超える集合論的なモーメント)

第2章 ヴェーバーの行為論的社会学の方法論の整理・検証
Ⅰ 「個人の行為論」の系列
1.「習俗」「慣習律」「法(慣習法)」そして「利害にかかわる目的合理的行為」――行為の構築性にかかわる系列
2.社会秩序の革新(=脱構築)にかかわる行為論の系列――「直観」「暗示」「感情移入」
Ⅱ 「関係論・コミュニケーション論」の系列
1.ヴェーバーの行為論的社会学の方法論的基礎となる「ゲマインシャフト行為」とその枠外に位置づけられる集団的行動
2.「ゲゼルシャフト行為」「ゲゼルシャフト関係」
3.諒 解
Ⅲ 「社会組織論」の系列――「目的結社」「アンシュタルト」と「団体」
Ⅳ ヴェーバーの行為論的社会学に隠されている方法論的な二重構造(二相性)

第3章 ヴェーバーの社会科学的認識論の整理・検証
Ⅰ ヴェーバーの社会科学的認識論で抑止・排斥された脱構築の経験相と認識論における二項対立
Ⅱ 脱構築、差延、同一性の存在論的二重性にかかわる哲学・思想的な系譜
Ⅲ 精神療法における自己超越的な脱構築の経験(自己洞察体験)の実際
1.精神臨床にかかわる方法論的な三領域(三次元)
2.自己洞察にかかわる自己超越的な脱構築の経験相の特質と治療者・患者『関係』――「すむ(澄む=住む)-あきらむ(諦らむ=明らむ)」体験

第4章 支配の[正当性/正当化(Legitimit■t/Legitimieren)]の二相性
Ⅰ ヴェーバーの支配の正当性Legitimit■tと支配の正当化Legitimieren・Legitimationにかかわる諸家の議論の整理・検証
1.旧稿におけるLegalit■tと新稿におけるLegalit■tの意味の違い
2.Legitimit■tの意味([支配者/被支配者大衆]の関係や授与にかかわる支配のLegitimit■t)
3.【Legitimieren(正当化する)・Legitimierung、Legitimation、Rechtfertigung(正当化)、Selbstrechtfertigung(自己正当化・自己義認・自己弁護)】と【Legitim(正当)・Legitimit■t(正当性)】の違い
4.「支配」以外の現象にかかわる『Legitimit■tの原初的形態』と「支配のLegitimit■t」、および「支配」以外の現象にかかわる『Legitimationの原初的形態』と「支配のLegitimation」 
5.人間を内側(内面)から支えている(義務づけている)のはLegitimit■tか、あるいはLegitimieren・Legitimationの方か?
6.「正しさ」という体験事象について
7.ヴェーバーの「第四の正当性観念(講演「国家社会学の諸問題」)」について――「反権威主義的に解釈がえされたカリスマ(『支配の諸類型』)」との関係、および『社会学の基礎概念』における「秩序の正当性」の四つの類型化との関連について
8.支配にかかわる旧稿と新稿の用語法の違い――新稿はLegitimit■tの方から支配の二相性を記述し、旧稿はLegitimierenや自己義認(自己正当化)からこの二相性を描写しようとしている
Ⅱ [支配の正当性/支配の正当化(Legitimit■t/Legitimieren)]の二相性について――松井の「諒解」研究とヴェーバーの「政治ゲマインシャフト」論を中心に
[第2部]ヴェーバー理論における「カリスマ」論の混乱

第5章 ヴェーバー支配論おける「カリスマ的支配」と「カリスマ(カリスマ体験・カリスマ状態)」
Ⅰ ヴェーバー支配論における「カリスマ」と「カリスマ的支配」の混乱について――佐野誠の論考を通して
1.「カリスマ」と「カリスマ的支配」の違い
2.ヴェーバーの「カリスマ的支配」の概念形成について
3.「カリスマ的支配」は何に対する変革力か?
4.「神(超越界・異界・他界・彼岸)と人のかかわり」と「人と人とのかかわり」の位相の違いと相互の関連――脱構築・差延(デリダ)の図式
5.ヴェーバーの支配社会学における「カリスマ」の系譜
Ⅱ ヴェーバー理論の合法性Legalit■tと正当性Legitimit■tについて――水林論文(2007)を通して

第6章 ヴェーバーの宗教社会学における「カリスマ体験(観照=神秘論)」の位置づけ――二種類の『禁欲』(カルヴァン派的な禁欲と伝統的な禁欲)の意味論の違いと〔(伝統的な)禁欲/観照〕論にみられるヴェーバー宗教社会学の理論的混乱とジレンマ
Ⅰ 近代組織(近代社会)を生み出した『禁欲』――カルヴァン派にみられる『禁欲』の特異性:『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の原理的な問題
Ⅱ ヴェーバーの〔禁欲/観照〕論の混乱――「プロテスタンティズム的な禁欲」と「伝統的な禁欲」の原理的な違いを「禁欲」「観照」の場所的な違い(現世内、現世外)の問題として論じようとしている
Ⅲ ヴェーバーの宗教社会学における「カリスマ体験(カリスマ状態)」の位置づけ

第7章 「カリスマ体験(カリスマ状態)」の理論的な不備とヴェーバーの人間学の構造的特質――「方法論的合理主義」「価値自由」「価値討議」と精神科学的『診断学』の方法論的な共通性と精神療法的ダイナミズムの欠落
Ⅰ ヴェーバーの方法論的合理主義――文化・歴史的事象に対する診断学的方法(ヴェーバー理論における「合理性」「合理化」の意味)と精神病理学的診断学(ヤスパース)・精神療法的診断学(フロイト、アンナ・フロイトの防衛機制論)との方法論的な類似性
Ⅱ 行為の合理性と行為者間の関係性(の対称/非対称)および「諒解」概念――ヴェーバー理論における〔目的合理性/価値合理性〕〔目的合理性/整合合理性〕と「諒解」概念の関連について
Ⅲ 「価値自由」「価値討議」の原理的方法論的な問題――対人的なコミュニケーションの原理的な理解とヴェーバーの「諒解」概念の特異性(諒解A+諒解B、そして諒解Cの欠落)、および洞察志向的精神療法の臨床経験からみえてくるもの
Ⅳ ヴェーバーの人間学に欠けているもの:「観照」の実現に不可欠な「伝統的な禁欲」の役割と機能、精神療法実践における「事実」と「価値」のダイナミズム――受肉化・合理化の二様態(「内的受肉化・合理化」と「外的受肉化・合理化」)との関連から

[第3部]精神構造としての天皇制
第8章 「精神構造としての天皇制」――赤坂憲雄の天皇制論の整理・検証を通して
Ⅰ 赤坂憲雄の天皇制論の概略と古代天皇制について
Ⅱ 赤坂憲雄の天皇制論の問題の所在
Ⅲ 赤坂憲雄の象徴天皇制論について(その1)――二重王権としての非農業民の支配共同体
Ⅳ 赤坂憲雄の象徴天皇制論について(その2)――非農業民の支配共同体のコスモロジーと被支配者大衆である農業民のコスモロジーを「接合」する原理とは何か?

第9章 「精神構造としての天皇制」を論ずるための枠組みについて
Ⅰ ヴェーバー理論の検証からみえてきた天皇制(支配)を論じるためのポイント――支配のX軸のモーメント、支配のY軸のモーメント、支配のZ軸のモーメント
Ⅱ 支配にかかわる三つのモーメント(X軸、Y軸、Z軸)から従来の天皇制論を概観する
Ⅲ 「精神構造としての天皇制」を論じる際のいくつかのポイント
1. 今・現在の「われわれ(私たち)」がどのような個人的・社会的経験をもとに暗黙のうちに天皇制を支えているのかという「理由」「からくり」を行為・コミュニケーション論的に明らかにする必要性
2. 人間存在や経験にかかわる二相性を抜きに支配や天皇制の本質は理解できない――私的(私秘的)経験(=自我同一性=根源的な自己存在感)と公的・社会的モーメント(=社会的価値規範・自己同一性)の二相は不可分一体となって「ひとつ」のゲシュタルトを形成している
3. 現代の天皇(制)において「私」と「公」が結び付く「呪術(ワザ)」の一事例

第10章 実践合理的な「わざの知」のあり様からみた赤坂憲雄の天皇制論の二つのテーゼ
Ⅰ カミ(祭祀)とタマ(葬祭)と祖先神の関係について
Ⅱ 超越的存在そのものの出現(顕現)あるいはそれと遭遇する際の人間側の反応・体験について
1.不定・無限定・不可視なカミの神聖性・畏怖性
2.神意の顕現としての「タタリ」、ヒエロファニー(聖体示現)としての「タタリ」「カミワザ」
3.「タタリ」の非作為性・内発性・突発性・統御不能性――始原的生成の基本特性(「カミ」の顕現の様式)
4.カミの絶対他(者)性――「質差」――と内なる超越的な他者性(社会規範)としての超自我
5.絶対他(者)性との対面―「隔て」―において生起する主体側の反応――規範としての「スメラ-清明心」
6.個人的な不幸や社会的な災厄(「病気」「死」「災害」)の原因としての倫理規範・社会秩序の不正・違犯・乱れ――不幸の因果的説明(因果応報)としての「ケガレ」「モノノケ」「タタリ」
7.「一時的ケガレ/変化する否定性/創造的な清め(関根)」(=力動性をはらんだ〈ケガレ/スメラ〉)と赤坂憲雄の幼童天皇制論
8.精神療法における「自己洞察」という自己超越的な経験相の諸特性と支配の正当性――(すむ-あきらむ)体験
9.神道的な清浄性・清明心とキリスト教の三位一体論、中国的な道教的天地観に共通する元型としての『液体の中の沈澱』
Ⅲ 超越存在が顕れ出る「通路(構造)」にかかわる諸問題――超越存在・神意の顕れ出る通路としての「ワザ」「わざ(技術)」の特性とそれが生み出されるメカニズム(『生き残り』)
1.ワザの原義――「カミワザ」としての「ワザ」
2.「こと」としての「わざ」
3.「わざ」の〔作為性/非作為性(自然・成り行き)〕
4.認知科学からみた「わざの知」の習得にかかわる特性―「徒弟制」―「概念知」との違い
5.「わざの知」の学習と伝承にかかわる位階的人間関係(日常的経験としての支配の原初的形態)が伝統的支配(天皇制的支配)の権威・権力秩序(支配の正当性/支配の正当化)に重なる理由――概念知との比較から
6.赤坂憲雄の天皇制論の第一のテーゼ(わざのコスモロジー)についての整理・検証
7.精神療法におけるカミ(『外部』構造―超越的他性・倫理規範性―)とタマ(死と再生の『内的』体験)の力動的関係――①「外部性・他(者)性」の創造メカニズムとしての『治療構造の生き残り』、②行為主体(経験主体)の『意図せざる結果』としての〔作為(正当化)/非作為・自然な状態(正当性)〕の力動性と治療者の「かかわり方」の質的違い(対象としての治療者と環境としての治療者)
Ⅳ 「わざ」体験における体験者と構造(治療者・指導者・師匠を含む)の二つの「かかわり方」――赤坂憲雄の天皇制論の第一のテーゼと第二のテーゼを『接合』するメカニズム:マツリ(祀り・祭り)・マルロフ(服従)の二種性と『素直(素直A/素直B)』(素直コンプレックス)
1.赤坂憲雄の「天皇土俗説」批判について
2.「わざ」体験における人間の二つの「かかわり」方の違い――日本人の規範意識にかかわる心的拘束原理としての『「すなお」コンプレックス(二つの素直:素直A/素直B)』

第11章 天皇制における支配のX軸、Y軸、Z軸のモーメントの関係――水林彪『天皇制史論』に関連させて
Ⅰ 天皇制における「権威」と「権力」の二相構造(支配のX軸のモーメントにかかわる「権威」「権力」の視座の妥当性と問題点)――天皇制の本質は専ら法史学的問題(つまり法的正当性)であり、呪術宗教的問題ではないとする水林の主張は妥当であるのか?
Ⅱ 『天皇制史論』(水林彪)の全体的な構成と日本の歴史区分にかかわる理解の的確さ、およびその問題点について――支配のZ軸のモーメント(実践合理的な「わざの知」と論理合理的な概念知)にかかわる〈権力〉の内部秩序の二類型(〈人的身分制的統合秩序〉と〈制度的領域国家体制〉)
Ⅲ 水林の『律令天皇制的原型への対抗形態の権威・権力秩序(神仏ないし天(権威)―― 一揆的身分契約的に編成された合議的権力秩序)』の問題――ヴェーバーの諒解(諒解A・諒解B)概念と呉座勇一の一揆研究との関連から
1. ヴェーバーの「諒解(諒解A・諒解B)」概念からみた水林のⅡ型〈神仏ないし天(権威)―― 一揆的身分契約的に編成された合議的権力秩序〉について
2. 呉座勇一の一揆研究(歴史学)からみた、水林のⅡ型〈神仏ないし天(権威)―― 一揆的身分契約的に編成された合議的権力秩序〉の問題点
Ⅳ 社会の大変動期においてZ軸のモーメントで引き起こされる逆Y軸のモーメント(カリスマの賦活化・再活性化)と天皇制の変容と継続

著者略歴

著:長山 恵一
長山 恵一 (ナガヤマ ケイイチ) 法政大学名誉教授

ISBN:9784535587755
出版社:日本評論社
判型:A5
ページ数:832ページ
定価:8500円(本体)
発行年月日:2023年11月
発売日:2023年11月20日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JHB