【書評】
ナショナルチームドクターやトレーナーがスポーツ障害の診療の実際を紹介する目的に,前作『ナショナルチームドクター・トレーナーが書いた種目別スポーツ障害の診療』の新版として本書が発刊されました.本書では,TOKYO2020や主要大会のメディカルサポートを実際に担当したドクターやトレーナーが執筆されました.日本では,世界規模のラグビーワールドカップ2019日本大会(RWC2019),2020年東京オリンピック・パラリンピック,ワールドマスターズゲームズ2021関西が3年連続で開催された“奇跡の3年”を迎え,国民のスポーツ熱がますます高まり,さらにはFIFA World Cup Qatar 2022,World Baseball Classic 2023が開催され,日本中を感動の渦に巻き込みました.これら日本チームの躍進には,選手の努力をはじめ,それを支える指導者や医師・トレーナーを含めたスタッフのサポートも必要不可欠です.本書はチームを支えてきたナショナルチームドクターやトレーナーが,選手にとってもっとも適切なメディカルサポートを行った経験をもとに執筆されていますので,地域で活躍されているスポーツドクターやトレーナーがスポーツ疾患に遭遇した際に役立つ実用書となっています.
本書の特徴は,ドクター編とトレーナー編に分かれており,世界規模大会の帯同経験をもとに種目特異性やスポーツ現場での治療法や予防法に重点がおかれていることです.ドクター編では競技特性,傷害マップ,代表的疾患と治療,トレーナー編では予防,現場での評価,応急処置,リコンディショニング,そして再発予防に分類されています.スポーツ診療の実践にあたり,スポーツ傷害の評価とリハビリテーション医療を中心に必要な内容がわかりやすく,医療現場・スポーツ現場での対応の実践が学べる決定版となるべく構成されています.
具体的には,「Ⅰ.種目別対処法」,「Ⅱ.スポーツ障害診療の基礎」の二つの章から構成され,「Ⅰ.種目別対処法」では,競技種目を障がい者スポーツ(パラスポーツ)を含め26種目あり,TOKYO2020で加わったサーフィン,スポーツクライミングや空手,そして相撲も新たに取り上げられています.「Ⅱ.スポーツ障害診療の基礎」では,スポーツ外傷・障害の診療にあたり重要な画像診断,応急処置(暑熱対策),スポーツ脳振盪(現場対応と競技復帰),スポーツ装具,遠征時の対応,女性アスリートの健康管理について,最新の具体的な話題が盛り込まれ執筆されています.
種目特性の理解をより深めるために,それぞれの種目ごとのスポーツ外傷・障害の発生に関して,ルール,環境[競技時間,会場(グラウンド,用具)]を含めた種目特性の観点から解説されています.また,実際の診療に必要不可欠な基礎的知識として,画像診断の中でも現場で有用な超音波を用いた診療に関し,豊富な動画を用いて解説されています.時には生命にかかわる暑熱対策や脳振盪なども,現場のメディカルスタッフには有益な内容になっています.スポーツ装具や遠征の項目では,これまで競技種目や帯同にかかわってこられたスポーツドクターやトレーナーのみならず,今後かかわりたいと思っているメディカルスタッフにも実学的な内容になっています.さらにはすべてのスポーツドクターやトレーナーにとって重要である女性アスリートの健康管理についても,三主徴をはじめ女性運動器の特徴や起こりやすい外傷・障害を取り上げてますので,必要不可欠な知識を修得することができます.
さらに最近の国際大会の最新知識も多数収載され,コラムではそれぞれの競技において,子どもの野球離れやフットサルとサッカーの違い,柔道の「多様性」,チームドクターの役割,協会のスポーツ医科学委員会の役割などを取り上げることで,読者の競技への関心を引き立てています.
私は本書をスポーツ診療に携わる医師,トレーナー,理学療法士のみならず,看護師やスポーツ専門職の方々にとって必須の書としておすすめします.
臨床雑誌整形外科74巻8号(2023年7月号)より転載
評者●宮崎大学整形外科教授/病院長 帖佐悦男
【序文】
前作『ナショナルチームドクター・トレーナーが書いた種目別スポーツ障害の診療』(初版2007年,第2版2014年)は疾患別・関節別にスポーツ障害を解説する従来の書籍の概念を打ち破り,競技種目別・部位別にナショナルチームのドクター・トレーナーが記述することによって,選手へテイラーメード治療を実施しやすいようにとの願いから刊行され,一定の評価を得てきました.本書はその三代目にあたり,執筆者を一新しTOKYO2020をはじめ,主要大会のメディカルサポートを担当してきたドクター・トレーナーが高度の診療技術を駆使して,日頃トップレベル選手へのメディカルサポートを行った経験を基に執筆しました.
本書1つ目の特徴として,種目別に各競技の特性をまずルール解説から始まり,競技時間やグラウンドの状況,用具などを紹介して,それらがなぜ特徴的な傷害や慢性の疲労性障害の原因になるのかを解説しています.各種目をドクター編とトレーナー編に分けて,競技の種目特性に基づきスポーツ外傷・障害の診断から,評価,応急処置,治療とリハビリテーション,再発予防,競技復帰までをまとめました.
ドクター編では,整形外科スポーツドクターが主に障害の発生メカニズムやそれに対する初期治療等を解説しています.その中には多くの画像診断を盛り込み,単純X線像はもとよりCT,三次元CT,MRI,超音波画像を多く取り入れて,障害部位をわかりやすく図示しています.トレーナー編では,理学療法士もしくはATなどの有資格者トレーナーが,初期治療後のリハビリテーションを中心に,競技復帰までの間をどのようなトレーニングを行ったらよいのか解説しています.
2つ目の特徴として,競技種目を26種目,特にTOKYO2020で新しく増えたサーフィン,スポーツクライミングそして空手競技に,国技相撲も加え4種目を追加しました.
3つ目の特徴として,第二部には競技現場で必要なスポーツ医学知識を盛り込みました.超音波を駆使した超音波画像診断については上肢・下肢に分けて解説し,やり方の実際をQRコードから動画視聴できるシステムにしました.また,特にスポーツ医療関係者に必要な現場での応急処置,頭部外傷,海外遠征に際しての実務や,女性アスリートの健康管理という新しい項目を加えました.コラムは各競技の秘話を現場目線で記載していますので,ちょっと一息つかれて下さい.
最後に,自国開催オリンピックにおけるスポーツ医学の発展をレガシーとすべく,本書がスポーツドクターやトレーナー方の一助となることを願います.
2022年11月
編者を代表して
林 光俊