【書評】
「進歩の著しい肺癌診療において,押さえておきたいポイントを網羅」
間質性肺炎における肺癌の合併率は10~20%とされているが,肺癌に対する抗がん薬治療,手術治療,放射線治療のいずれも間質性肺炎の急性増悪を惹起するリスクがあり,治療の大きな妨げとなっている.抗癌薬開発臨床試験において間質性肺炎合併肺癌のほとんどが登録から除外されており,間質性肺炎の併存により使用を禁忌とされる抗癌薬もあることから,間質性肺炎合併肺癌の治療の選択肢は限られている.
このような状況下で本書は2017年に初版が刊行された.当初,肺癌診療ガイドラインを補足する目的で企画されたが,エビデンスとなる無作為化比較対象試験が乏しいためステートメントとして発刊された.米国のガイドラインには間質性肺炎合併肺癌に関する記載がほぼない状況であったが,このステートメントを踏まえて,間質性肺炎と肺癌の両者を診療している臨床医の多い本邦からエビデンスが発信されることが期待された.
さて,初版から今回の改訂までの間,間質性肺炎における発癌機序の研究が進展し,肺癌治療と間質性肺炎の急性増悪の関連がさらに探求され,リスク因子層別化に関わる研究がなされた.本書では第Ⅰ~Ⅲ章に間質性肺炎と肺癌の分類,分子生物学的にみた間質性肺炎および肺癌,間質性肺炎合併肺癌の疫学と診断が配置され,アルゴリズムやフローチャートを含む豊富な図表によりこの領域の知識が整理されている.本書の根幹となるのは第Ⅳ章「間質性肺炎合併肺癌の治療」であり,細胞傷害性抗癌薬,分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬,放射線治療,外科治療について適応と選択が詳述されている.それぞれについて「今後明らかにすべきポイント」が示された点も特筆すべきであろう.第Ⅴ章では間質性肺炎急性増悪の予防,診断と増悪予測因子,対応が記載され,第Ⅵ章では特定の間質性肺炎として気腫合併肺線維症(CPFE)とInterstitial lung abnormalities(ILA)が取り上げられている.二つのコラム(抗癌薬による薬剤性肺炎の人種差,アスベストと肺癌)も大変興味深い内容で,臨床医として十分に把握しておきたいところである.
第Ⅳ章の治療総論に記載されている通り,間質性肺炎合併肺癌では治療介入により致命的な急性増悪を起こしうるため,症例ごとにリスクとベネフィットを慎重に判断する必要がある.本書は治療方針を決める際に押さえておきたいポイントを網羅しており,進歩の著しい肺癌診療において必須の一冊と思われる.「肺癌診療ガイドライン2024年版」および「特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)」とともに本書を役立てていただきたい.
臨床雑誌内科136巻5号(2025年11月号)より転載
評者●稲瀬直彦(国家公務員共済組合連合会平塚共済病院 院長)