世界有数の診療実績を誇る大腸・肛門疾患の専門病院である松島病院の,100年にわたる肛門疾患手術のエッセンスを言語化した手術書.肛門部の代表的な疾患に対し,手術写真とその要点を表した手術イラストを用いて「なぜそうするのか?」という治療コンセプトとともに手術手順をわかりやすく解説.確信をもって手術に臨み,判断が分かれる難しい症例にも的確に対応する力を身につけられる一冊.
【書評】
今回,肛門疾患治療の専門病院として長い歴史をもつ松島病院から本書が刊行された.これまで多くの症例を経験し,手術手技の改良を重ねてきた集大成がこの書の中に網羅されている.
まず際立っているのが,美しい手術手技の写真とシェーマである.最近の手術書にはビデオ映像が付属したものも多くみられるが,本書ではまるでビデオをみているがごとく手術の進行を追うことができ,わかりやすい術中写真が掲載されている.そしてその一つひとつに解説付きのシェーマが描かれており,理解をいっそう深めることができるようになっている.さらに,各術式に伴う合併症やその管理にまで解説が及ぶ.また各項目をみると,痔核,裂肛,痔瘻の三大疾患以外にも直腸脱,膿皮症,毛巣洞,尖圭コンジローマといった経験することが比較的少ない疾患の攻略法も詳細に記されている.そしてこれらにはハイボリュームセンターでの長年の経験ならではの解説が並んでいる.近年,若い医師はインターネット上のビデオから手術を勉強することが多くなっていると思われるが,改めて書籍での学びの多さを本書から実感することができるものと思われる.
さらに総論にも多くのページが割かれている.解剖,麻酔,体位や手術器具といった手術に必須の項目が丁寧に説明されている.これらと並んで「手術の考え方」の項目があり,各疾患に関して特に理解しておくべき概念や治療選択が簡潔かつわかりやすく記載されている.手術はそのテクニックも重要であるが,その前に正しく診断し,疾患を深く理解して手術に臨むことがいかに大切であるかということを感じられるところである.
総じてこの書は単なる手術書ではなく,肛門疾患手術の教科書として推奨されるものである.肛門疾患を学びたい若い医師,手術手技を深く理解したい医師にとって必読の書籍であると心から推薦する.
臨床雑誌外科87巻9号(2025年8月号)より転載
評者●山口茂樹(東京女子医科大学消化器・一般外科(消化管外科)教授)