クリニックや肛門科での診療を一人で担う医師のために,診察から麻酔,注射療法をはじめとする処置と日帰り手術の実際を解説.成書には書かれていない麻酔のかけ方や手順,合併症を起こさないための周術期管理の要点に加え,修練方法や患者対応の勘どころもまとめている.さまざまな修練・経験を積んできた著者のホンネが満載の,肛門疾患診療のために知っておくべきことを学べる実践書である.
【書評】
本書は,当初外科医として修業を始めた著者が,後に麻酔科研修を受け,さらに本格的に外科から肛門科に特化するという過程の中で習得した知識と技能をもとにして,これにご自身が開業独立されてからの経験を加えることで,肛門疾患の診断・治療,および関連する麻酔法についてまとめた一冊である.全体的に平易な日本語を使って書かれていてたいへん読みやすく,各項目は基本事項から説明してくれており,初心者にも理解しやすいテキストになっている.
第Ⅰ章では,肛門周辺の解剖の基礎を解説した後に,この解剖の中で肛門疾患がどのように発生して立体的に把握できるのか,各疾患の基礎知識について提示されている.第Ⅱ章では,各肛門疾患の成因と,これに基づいた診断法が詳しく解説されている.加えて各疾患の分類法や治療アルゴリズムも示されている.第Ⅲ章では,肛門疾患への保存的治療,半手術治療と,本書のトピックの一つである日帰り手術治療についての手技の実際と,安全に行うための注意点などがコンパクトにまとめられている.手技上の細かい必須のテクニックについても言及されている.第Ⅳ章では,日帰り手術に必要な種々の麻酔の種類と,実際に行うための方法と手技,その注意点などについて解説がなされている.これらに引き続いてⅤ章,Ⅵ章では,日帰り手術後のフォローアップの方法と,患者の立場からの疑問点に答えるというかたちで術後の注意点がまとめられている.
本書は全体に,外科,肛門科を少しでも経験した医師であれば理解しやすい内容となっており,しばしば遭遇する病態については網羅されていると思われる.また,時々出てくる治療手技についての動画がQR コードを読み込むことで閲覧できるのも参考になる.これから肛門科診療を行おうとする人が入門の意味で目を通しておくと,開業にまで到達した医師がどうしても必要と考えている点を理解できて有用であろうと考える.これらの基礎知識を理解したうえで,一つひとつの疾患の細かな手術方法について成書をさらに参照すると,著者の意図が理解できるものと思われる.
著者も述べているが,肛門科の治療手技は奥が深く,父子伝承の技法にも似たところがあり,本書はその入り口として多くの技術を伝えてくれている.これからの肛門科の医師,また肛門を扱う外科医にとっても有用な一冊であると思われる.
臨床雑誌外科87巻9号(2025年8月号)より転載
評者●幸田圭史(帝京大学医学部名誉教授)