恋するサル
類人猿の社会で愛情について考えた
著:黒鳥 英俊
内容紹介
支配しない。理解する。
伝説の飼育員が見た、「男女の愛」「血を超えた親子の愛」「種を超えた愛」。
人間関係に疲れたら、動物園へ出かけよう。
育児放棄された赤ちゃんチンパンジーを、まったく血のつながりがないメスがわが子のように育てる。強い握力を持つゴリラが、小さなダンゴムシをそっとやさしくペットのように扱う。ときには、飼育員に恋もする。飼育員が困っていると率先して助けてくれるオランウータンもいる。上野動物園や、多摩動物園で、長きにわたり大型類人猿(ゴリラ、オランウータン、チンパンジー)を担当してきた伝説の飼育員が目撃した、心あたたまる愛の実話。
飼育員といえば、動物の世話を「してあげる」人たちと思われているが、そうではない。動物に「仕えている」というスタンスで仕事をするのが、彼らと仲良くするコツだ。高度な知能を持つ大型類人猿に対して、私たちは、それでもやはりヒトのほうが賢いと思っている。しかし、彼らのいちばん身近で過ごす飼育員だった私は、彼らのほうがずっと賢いと思うことがよくあった。たとえば、言葉を持たないゴリラを納得させようとすると、その場しのぎのごまかしや嘘、先送りは通用しない。納得するまで、相手としっかり向き合わなければならない。言葉があるせいで誤解し合ったり、揉めたりしてしまう私たちのコミュニケーションに比べると、ゴリラとのコミュニケーションはシンプルだが、心を通わせるという意味においては、ずっと本質的かもしれない。大型類人猿と私たちとでは流れる時間が少し違う。それでも、焦らず、支配しようとせず、理解しようとする。種を超えた生き物どうしが仲良くする秘訣であり、これは違う人間どうしが仲良くする場合のヒントとなるかもしれない。
目次
■はじめに
■第1章 動物園という社会
私たちみな、類人猿/この地球に類人猿は何頭いる?/40年前の動物園、いまの動物園/職人気質の男社会/ワシントン条約が意識を変えた/散らかっていたゴリラの聖地/動物福祉と環境エンリッチメント/動物を退屈させたくないけれど/介護問題と安楽死/上野はタンチョウ、ゴリラはフランクフルト?
■第2章 ゴリラの愛
ほんの小さな「森の巨人」/病んでテレビを見るゴリラ/京都の看板娘とブルブル/ゴリラが好きなゴリラ、ヒトが好きなゴリラ/もどかしい恋にはお酒の力?/気のいいトヨコの受難/ブルブルからのプレゼント/希少種の繁殖を目指す「ズーストック計画」/上野にゴリラが大集合/ハンガーストライキとツナパン/メスの尻に敷かれるオス/思いやりがあるオス/ブルブルの死が教えてくれたこと/子ども時代を社会の一員として過ごす意味/小さきものを愛でる心/1頭をめぐる女の闘い/ゴリラに学ぶ「モテ」のヒント/ゴリラは死を理解するのか/ビジュの忘れ形見/因縁の女2頭の貢献/愛しきゴリラたち、その後/ゴリラv.s.新人飼育員/マッチョなヒトのオス、嫌い/ヒトをからかうのは面白い!? /言葉のすれ違いがない社会で
■第3章 チンパンジーの愛
嘘みたいな人工受精作戦/母性はあるけど扱い方がわからない/引退したチンパンジーたちが住む島/養母に育てられたリーダー/チンパンジーの子殺し/チンパンジー社会に戻すための人口哺育/養母にぴったりなのは誰?/血のつながりを超えた親子/弱虫かあさんの勇気/序列をめぐる駆け引きがある社会で
■第4章 オランウータンの愛
リアルな自然の森につながる飼育施設/多摩のオランウータン史/シンガポールから来た青年オランウータン/引越し作戦①:旧飼育舎から仮住まいへ/退屈しない仮暮らしを/ハーモニカの演奏会/掃除が得意なジプシー/自分なりの工夫をする能力/引越し作戦②:仮住まいから新飼育舎へ/オランウータンたち、スカイウォークを渡る/ジプシー、自力で部屋に帰る/ジプシー、星を眺める/食い道楽なジプシー/貫禄あるボルネオのスカイウォーク/「あっちへ、行ってなさい!」/上野のモリーと10年ぶりの再会/芸術家肌のモリー/閉ざした心を開いたジュリー/母性あふれるやさしいジュリー/ジプシーの死を乗り越えて/動物園と自然をつなぎ、未来へ
■おわりに