美術館を訪れると、何十年、何百年も前の芸術作品が、色褪せぬ美しい姿を私たちに見せ、感動を与えてくれます。
けれども、非常に長い時間を過ごし、歴史上のさまざまな困難に見舞われた経験もある美術品を、今私たちは、どうしてこれほどきれいな状態で見ることができるのでしょう?
本書は、美術品の劣化を防ぎ、汚れを取り除き、傷を補修して次世代に継承する「保存修復」の仕事を、愛らしいイラストと豊富な写真とともに紹介する、これまでにないビジュアルブックです。
泥棒に盗まれ、ひどい環境に置かれてボロボロになってしまった名画「フーゴ」。さいわい、美術館には戻って来たけれど、自分を修復してくれるはずの保存修復士は忙しく、フーゴをあちこち検査しては展示の準備に出かけてしまい、なかなか直してくれません。果たして「フーゴ」は、もとの姿に戻れるのでしょうか……?
ストーリー仕立てで子どもから大人まで楽しく読め、さらに美術ファンなら思わずニヤリとしてしまうようなパロディも満載。展示の裏側を知れば、美術鑑賞がもっと楽しくなること間違いありません。
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保存修復士は、さまざまな道具と方法を使って美術品をよく検査し、製作された時代や使われている素材を分析します。そのためには美術の技法や歴史にかんする知識だけでなく、科学的な技術にも精通していなければなりません。
また、現代アートでは、作品を構成するすべてに作者の意図がある場合が多く、保存修復士は芸術家の声にも耳を傾け、何をどこまで修復するのか決めなくてはなりません。
そして保存修復士は、日々行われている展覧会のサポートもしなくてはなりません。他館から借りた作品が無事に届いたか、作品を傷めないような展示になっているか、細やかにチェックしなければならないからです。
保存修復はいくつもの行程を経てじっくり進めなければならず、いっぽう修復士は大忙し。時には、修復を待つ絵画から、「いつになったら直してくれるの?」と文句を言われることも・・・?
そのようななかでも、美術品が守られ続けているのは、保存修復士だけでなく、さらに多くの人々が、「人類の記憶」を継承していくために力を尽くしてくれているからです。
学芸員、照明デザイナー、梱包や運送の専門業者、美術館設備のエンジニア、清掃スタッフたちも、みな美術品を守ることに貢献しています。
それに美術品の保存修復は、単に「モノ」を残していくことではありません。かりに作品そのものが失われたとしても、その作品の素晴らしさや価値を理解し、議論し、語り継ぐ人たちは、みな保存修復に協力しているといえます。
本書を読んで、今までと違う視点で美術品を見つめ、芸術をいっそう楽しんでくれたなら、すでにあなたも美術品を守る仲間のひとりなのです!