著者が実践の中で感じた心の問題は、急激に押し寄せる機械化・情報化に伴う生の体験の不足が要因と考えられる。生の体験は相当意識的に行わなければ困難だが、そこで力を発揮するのがイメージ体験である。本書はイメージ体験に着目した実践の重要性を提唱、クライエントのみならず治療者自身の体験も考察した事例研究、日本人の「母性」や「風土」について分析した文献研究などを通して、イメージのもつ治療的意義を明らかにする。●目次はじめに序章 今なぜ「イメージ」なのか 第1節 イメージとは何か 第2節 「私」の心理臨床――ブックレビューを通して 第3節 「こころ」の質的変化への対応として第I部 心理臨床実践における「私」の体験第1章 「イメージ」を受けとめることの困難 第1節 マンハッタンでの体験と旅立った「彼」への思い 第2節 「彼」と向き合った「私」の体験 第3節 「イメージ体験」の意味と重要性第2章 「イメージ表現」の重要性 第1節 解離症状を抱えた「アイさん」について 第2節 アイさんが表現したイメージの流れ 第3節 表現されたイメージの意味 第4節 クライエント・治療者間におけるイメージのはたらき第3章 イメージの境界性 第1節 「境界」について 第2節 境界イメージの体験――喪失体験を繰り返した女性の夢 第3節 境界なき世界から境界領域へ 第4節 境界イメージの重要性第4章 境界イメージとしての「母性的風土」 第1節 「グラウンド」と「グラウンドゼロ」 第2節 摂食障害の娘をもつトヨさんの語り 第3節 母親のイメージ体験 第4節 母性的風土を育むこととイメージ体験第5章 発達障害傾向の若者の増加とイメージ体験 第1節 発達障害傾向の若者の増加 第2節 「この世の果てに来てしまった」と訴えたチカさんの物語 第3節 チカさんのイメージ表現 第4節 発達障害傾向の人への心理療法の可能性第II部 情報化社会に求められる日本人のイメージとしての「母性的風土」第6章 「母性社会」と日本の「風土」 第1節 「母性社会」の崩壊 第2節 母性社会を形成する日本の風土第7章 『遠野物語』にみる日本人のイメージ 第1節 柳田国男と『遠野物語』 第2節 『遠野物語』のイメージ 第3節 境界的イメージについて第8章 母性的風土としての茶湯――『本覚坊遺文』を通して 第1節 文化としての茶湯 第2節 『本覚坊遺文』のイメージ 第3節 イメージ体験としての茶湯 第4節 心理臨床実践における母性的風土終章 母性的風土を培うこととイメージ体験の重要性 第1節 「私」の心理臨床実践を振り返って 第2節 日本文化にみる母性的風土と心理臨床 第3節 これからの心理臨床実践に向けておわりに引用文献人名索引事項索引初出一覧謝辞