脳の神経回路を再建し、麻痺を改善する
脳の回復期後も効果が認められた
日本発の画期的なリハビリテーション治療とは?
近年、脳神経科学の研究は著しく進歩し、脳卒中リハビリテーションの分野でも日本は世界トップレベルの治療環境と保険制度を整えています。しかし、この充実した体制にもかかわらず、脳卒中片麻痺のリハビリテーション治療は十分とはいえません。現在の一般的な治療法では長期間のつらい訓練を経ても、多くの患者が日常生活に支障をきたしたまま過ごさざるを得ない状況が続いています。
この背景には、脳卒中片麻痺に対するリハビリテーション治療において、脳科学の発展を反映した新たな手法の開発や普及が停滞しているという問題があります。1990年代に、「脳の可塑性」という脳が損傷を受けても自らカバーしようとする機能が明らかになりましたが、わが国ではいまだに1950年代に主流だった「脳卒中片麻痺は回復が困難で、発症から6カ月以降は改善しない」という考え方が、根強く残っているのです。
こうしたなか、著者が開発したのが画期的なリハビリテーション治療「促通反復療法(川平法)」です。長年にわたり脳卒中片麻痺患者のリハビリテーション治療の臨床に携わってきた著者は、京都大学霊長類研究所とアメリカ国立衛生研究所で脳の基礎研究に従事して、当時最先端の発見であった「脳の可塑性」の存在を確信しました。そして、この考え方をリハビリテーション治療に応用する道を探り、治療者の操作によって誘発される自動運動の反復により選択的に神経回路を再建・強化して麻痺を改善させる治療法を確立したのです。
促通反復療法では、目標とする運動の神経回路を治療者があらかじめ促通操作で患者の脳に教えることによって、目標の運動が実現・反復できるので試行錯誤を減らすことができます。患者は治療者の指示に従い20~40分麻痺した手足を動かす努力をすればよいのです。
この治療法によって、「発症後数年経過した麻痺が2週間で改善した」「指先の細かな運動が回復した」など、従来の治療では困難とされてきた症例でも著しい効果が得られています。また、ランダム化比較試験などの科学的効果検証により、従来のリハビリテーション治療よりも優れた効果が実証されています。
本書では、促通反復療法の基本的な考え方と具体的な手技、さらに他の治療法との併用による相乗効果についても詳しく解説しています。
医療従事者には実践的な知識として、患者やその家族には麻痺改善の希望の光となる一冊です。