われ知らず、異世界へ――
二度の芥川賞候補から出発し、さらなる問題作の地平を開く、初期作から最近作まで文学的軌跡のベストセレクション。
解説・柴田元幸
「冗談関係のメモリアル」(文學界新人賞)、「ドッグ・ウォーカー」「森への招待」(芥川賞候補作)ほか、全30作品収録。
絡まる人間関係や血縁の綾を志向し、ふと地軸がゆがみ磁場が狂うように異界へと滑り込む初期作品群。また、私小説的な味わいがいつのまにか幻想譚に、ユーモアを湛えてときにグレン・グールドや漱石、さらにはひとならぬ青虫までもが語りだす短篇群。発想の自在さに加え、綿密な観察からくる巧みなディテール表現と該博なる引用を真骨頂とし、なにより映像的な余韻が心に沁みいる。初期作から最近作までを網羅したベスト自選集。
今ここに魅力をあますことなく味わう一冊、豪華函入り愛蔵版。
「中村邦生の小説世界は「陽」「昼」から「月」「夜」への移行を基本としている」
「この作品集が、独自の小説倫理と美学と魅力を有するこの書き手の正当な評価に向かう大きな一歩となることを願う」
(柴田元幸「解説」より)
【目次】
Ⅰ
月光の仕事
残景
泣き塾
夜はめぐる
月の川を渡る
穴に落ちる――〈土龍庵〉にて作家Nが語る
Ⅱ
冗談関係のメモリアル
夜に誘われて
黄昏の果て
もののけ、ようこそ
そうと知れば、音楽会へ行くべきか――夏目金之助が語る
ナツメさん、お席を用意しておきます――グレン・グールドが語る
Ⅲ
ドッグ・ウォーカー
森への招待
ホワイト・ブック
午睡の部屋
もっと音を大きくしてください
亀とカマキリと――Nが語る
あの少年のことなら、よく覚えている――カマキリが語る
Ⅳ
チェーホフの夜
ネヴァ川からどこへ
なつかしい場所など、訪ねてはいけない
シマウマ模様のような
ABCビスケット――石ころが語る
ビョンスおじいちゃんと犬の話
かーやんは、こんな人だった
虫めづる姫君よ、助けをこう――青虫が語る
ソンザ、イノコドクって、どういう意味?――不二家の店頭人形ペコちゃんが語る
悪霊封じ、ひーふーみー、よいむなやー
バス停にて
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〈ブラック・ノート〉より
ブラック・ノートについて/「心中の声」に耳をすます/はやり正月/アヒルの味わい/幽景/赤信号を渡る/ロンドン・バークリー・スクウェア事件/古文書を発掘した
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解説 柴田元幸