出版書誌データベース

私たちの心をゆさぶる歌声で稀有な世界を紡いできた英国の伝説的ミュージシャン、ロバート・ワイアット。
カンタベリー・ミュージックを代表するバンド「ソフト・マシーン」でデビュー、1960-70年代のロックシーンにボヘミアンとジャズの展望をもたらした。不慮の事故を経て、歌手および作曲家として再出発を果たす。以来、寡作ながらすぐれたソロアルバムを発表し、「シップビルディング」「アット・ラスト・アイ・アム・フリー」「フリー・ウィル・アンド・テスタメント」などの名曲をものしてきた。
一方で、ブライアン・イーノ、エルヴィス・コステロ、坂本龍一、ポール・ウェラー、ビョーク、クレイマー、ホット・チップなど、ベテランから若手までさまざまなアーティストと協同し、すぐれた作品群をうみだしている。
本書は、多くの人々に影響を与え、時代や国をこえて愛されるロバート・ワイアットの音楽と人生が、膨大な取材と本人の協力のもと丹念に描かれる。多くのミュージシャン、関係者の証言より見えてくる60年代から半世紀の英国音楽シーンの歩みも興味深く、政治と音楽のかかわりも見逃せない。さらには豊富な写真とディスコグラフィ、巻末資料を付した、初にして決定版の公認評伝である。

「本書は、彼の寛大で知的な性格を見事にとらえた評伝であり、ポピュラー音楽の優れた教科書だ」
――ブライアン・イーノ

「アヴァンギャルドな政治的音楽では冗談好きと論争好きは両立しないし、心からあふれる思いと胸を引き裂かれる思いも両立しない。もしそう考えているなら、きみの人生にはロバート・ワイアットが必要だ」
――『NME』誌

＊カバー写真：澁谷征司
＊装画：アルフリーダ・ベンジ　
＊装丁：仁木順平

日本版序文
序文　ジョナサン・コー

【SIDE ONE　二足歩行のドラマー】
第１章　これは最初のヴァース　ジョージとオナー、ロンドンとケント
第２章　メモリーズ　デイアとザ・ワイルド・フラワーズ
第３章　不思議の国のクラレンス　ミスター・ヘッドとザ・ソフト・マシーン
第４章　ニューヨーク暮らしは気楽なものさ　ヘンドリクスとのツアー　ソフツ、アメリカで瓦解
第５章　ZYXWVUTSRQPONMLKJIHGFEDCBA　『ヴォリューム・トゥー』とパタフィジカル・イントロダクション
第６章　ジレンマの中で　「ムーン・イン・ジューン」と逆さまのジャズ・ロック
第７章　少なくとも歌うだけじゃ撃たれはしないさ　『ジ・エンド・オブ・アン・イアー』とザ・ホール・ワールドでのアルバイト
第８章　僕はドラムでも叩こうか　マッチング・モール――そしてロバートはアルフィーと出会う
第９章　社会主義陣営のために闘う　『リトル・レッド・レコード』とマッチング・モールの終わり
第10章　フォリー・バローリー　ヴェネチアと落下事故

【SIDE TWO　機械じかけ】
第11章　そのたびに違って　『ロック・ボトム』とアルフィーとの結婚
第12章　僕は信じてる　ドルリー・レイン、「トップ・オブ・ザ・ポップス」そしてヘンリー・カウ
第13章　沈黙　ゲスト参加のレコードとＣＰＧＢ
第14章　外国なまり　ラフ・トレードのシングル
第15章　命がけの飛びこみ　「シップビルディング」と『ワーク・イン・プログレス』
第16章　自己の時代　『オールド・ロトゥンハット』、外国語としての英語
第17章　ＣＰジービーズ　『ドンデスタン』、ラウスからのパタフィジカルな絵ハガキ
第18章　われらがディスコテークの冬　『シュリープ』ととても長い冬の後の雪どけ
第19章　スピーチレス　ロンドン・サウスバンクでの天国のひととき
第20章　希望だってまだすごくいい気分さ　『クックーランド』、フィッティーズからの短い歌
第21章　きみのその目つき　『コミックオペラ』と禁酒
第22章　調子はどう？　ロバートがきちんとわかった８小節

【FLOTSAM&JETSAM　フロットサム＆ジェットサム】
ディスコグラフィ
ワイアット・オンライン
註と出典
写真クレジット
謝辞

索引
訳者あとがき

著：マーカス・オデア
マーカス・オデア
キングストン大学デザイン・美術・創作活動知識交換研究所所長。ブライトンのバンド、パッセンジャーのセッション・ミュージシャンとしてキャリアをスタートし、グラスカットのメンバーとして4枚のアルバムをリリース、ポンピドゥー・センターやロイヤル・アルバート・ホールで演奏した。『ガーディアン』『インディペンデント』『フィナンシャル・タイムズ』に寄稿し、BBCにも出演する。著書に、Distributed Creativity: How Blockchain Will Transform the Creative Economy（Palgrave, 2018）がある。妻と子供たちとともにイギリス在住。

訳：須川宗純
須川宗純
編集者・翻訳家・自由研究家。アメリカンコミックス史、香港歌謡史・映画史、インド映画音楽史などを対象とする。訳書に、スコット・マクラウド『マンガの描き方』（国書刊行会、2023年）、ベンジャミン・ピケット『ヘンリー・カウ　世界とは問題である』（月曜社、2023年）、バリー・マイルズ『フランク・ザッパ』（Ｐヴァイン、2022年）。
編集を担当した書籍に、相倉久人『相倉久人のジャズ史夜話　80の物語と160の逸話』（アルテス・パブリッシング）、柴田聡子『さばーく』（試聴室）、『間章著作集』全３巻（月曜社）、大友良英『MUSICS』（岩波書店）、菊地成孔＋大谷能生『憂鬱と官能を教えた学校』（河出書房新社）、ピーター・オチオグロッソ＋フランク・ザッパ『フランク・ザッパ自伝』（河出書房新社）など。