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電気通信事業法は、現在までの約30回にわたる改正の中で、内容を大きく変更し、拡充してきている。本書は同法の成立過程において、政策的諸課題の解決をどのように試みたかを明らかにするため、制定に直接に携わった官僚にインタビューを行い、同法の法体系理念と、その後の法運用までの実務的道程を歴史学的営為として後世に示す。

巻頭言　　吉良裕臣
はじめに　　林 秀弥・武智健二

第一章　解題――電電改革関連法案の立案過程　　林 秀弥
第一節　電電改革関連法案の基本思想
　（１）概要
　（２）臨調答申と「橋本私案」
　　　臨調答申の骨子／「橋本私案」／「橋本私案」の了承
第二節　日本電信電話株式会社法案の骨子
　（１）基本方針
　（２）主要事項
　（３）会社法とは別法案で措置するとされた主要事項
第三節　電気通信事業法案の骨子
　（１）基本方針
　（２）主要事項
　（３）第一種電気通信事業
　（４）第二種電気通信事業
　（５）安全性・信頼性の確保
　（６）公正競争の確保
　（７）その他
第四節　その他、別法案で措置する主要事項
第五節　通産省との闘い
　（１）臨調答申と電気通信事業法案骨子の違い
　（２）各省説明の開始
　（３）通産省の批判と郵政省の反論
　（４）通産省の主張の背景
　（５）郵政省が主張した第二種電気通信事業に対する規律の必要性
　（６）通産省が主張した約款による間接規制論
　（７）情報処理と通信の違い
第六節　まとめ
第七節　橋本私案と郵政省案の対比
第八節　閣議決定まで
第九節　最終案
第十節　電電三法の成立
第十一節　インタビューの導入として

第二章　基本用語解説　　武智健二

第三章　谷公士氏に聞く
第一節　法制局審査の開始
　（１）電電三法案の法制局審査の開始
　　　文書課長会議／三法案の審査開始
　（２）NTTと事業法：NTTと新規参入第一種事業者との競争の展開は予測困難
　　　第一種事業の競争観／NTTとNCCとの関係
　（３）NTTの分離・分割は？
　　　分割の問題点
　（４）指定電気通信設備の制度による非対称規制の実現
　　　平成九年の指定電気通信設備制度導入の経緯／非対称規制における「設備」指定の有効性
　（５）参考とした法令は何か
　（６）これまでのところを整理すると
　　　事業展開予測の困難性／公衆電気通信法との異同
第二節　政府内調整と法制局審査
　（１）独禁法適用除外の条文が最後で落ちた
　　　公正取引委員会との折衝／道路運送法の立法例を参照／独禁法適用除外規定が落ちた経緯
　（２）NTT法の大蔵大臣の株主権行使のルールに疑問
　（３）最終段階で特別第二種事業の外資規制が落ちた
　　　通産省以外のその他の省庁との関係
　（４）通産省との第二種事業、VANをめぐる論争は自民党の政治裁定で決着した
　　　VAN規制問題／通産省との迫真のやりとり／自民党政調正副会長会議でのやりとり／
　　　自民党政調と法制局とのやりとり／特別第二種は自由に近い「許可」／
　　　特別第二種の「自由に近い許可制」は「登録制」
第三節　その他の法制局審査上の論点
　　　公衆電気通信法における公法的事項と私法的事項の整理
　（１）電気通信事業法の審査で法制上特別に重要な論点はなかった
　（２）法制上のいくつかの問題
　　　設備の変更許可と実態／事業法と会社法との関係／国際通信と無線通信は検討の射程外だった／基本概念の踏襲
　（３）電気通信事業法における国の立場は何か
　　　国の役割は提供主体から調整役へ移行／事業規制と営業の自由
　（４）行政には、長期的視野が必要
　　　利用者利益の保護が政策の重要目的／設備投資の重要性
第四節　通信政策に対する回顧と展望
　（１）事業法施行後の評価
　　　予測の困難性
　（２）公正競争と指定電気通信設備の制度
　　　支配的「事業者」を指定することの難しさ
　（３）後世に遺す注文
　　　インターネットはブラックボックス／インターネットの放送への影響
　（４）行政官の資質は、実態把握と時間的・空間的な問題意識
　（５）インターネットにどう対処するか
　（６）現在の通信市場の競争状況の評価

第四章　内海善雄氏に聞く
第一節　電気通信事業法制定前史
　（１）電気通信政策懇談会からすべての議論が始まった
　　　今と当時とでは世の中が全然違う／電電公社の独占を守ることが大事／昭和四十年代半ばの通信行政
　（２）VAN法案では、政治裁定で一敗地にまみれた
　　　通産省の反対と田中裁定／「協議」と「相談調整」／浅尾次官の苦労／省内の意見の食い違い
　（３）中小企業VAN省令で巻き返す
　　　四面楚歌の郵政省／マスコミ対策／逓信省大先輩対策／マスコミ対策の効果／電電公社の立ち位置
第二節　電気通信事業法立案段階その一：第二種電気通信事業
　（１）臨調答申は突然に出てきた
　（２）VAN法案のVANと第二種電気通信事業との違いは？
　　　メッセージ交換の扱い
　（３）VANと第一種・第二種の事業区分
　　　公衆電気通信法の改正プラス新規参入法のアイデア／　一種／二種の事業区分で不毛の議論を回避
第三節　電気通信事業法立案段階その二：事業法全体、特に競争政策
　（１）事業法の競争イメージと法律の形式
　（２）NTT分割問題と見直し条項の意味
　　　土光臨調のフォーカスはあくまで国鉄／見直し規定は、民営化そのものに対する懸念／電電公社の研究開発力
　（３）競争政策と国際的な視点
　　　国際競争という視点の欠落／外資規制
　（４）競争導入と独禁当局との関係
　（５）通産省との所管争いは「協議」で決着した
　　　「共管」「専管」
第四節　通信政策に対する回顧と展望
　（１）電気通信事業行政は細かすぎるのでないか
　（２）行政には、第一に情報把握のツールが不可欠
　（３）通信自由化の総括五項目
　（４）日本産業がグローバル競争に勝てるための行政が必要
　（５）行政需要がどこにあるかの見極めが肝心
　（６）省庁間の所管争いは、霞が関の活力の源泉でもあった

第五章　小山森也氏に聞く
第一節　電電三法を巡る全体構図
　（１）昭和二十七年の郵政省への通信・放送一元化は看板倒れ
　　　昭和二十八年の入省当時／入ってみると大違い
　（２）独占の電電公社がすべてを取り仕切っていた
　　　ポケットベルは試行サービス／農協電話
　（３）電電公社は「三公社五現業」から離れたかった
　　　電電は民営化賛成／臨調答申／分割は見送り
　（４）KDD事件が引き金となって電気通信政策局が設置された
　　　地方貯金局を削減して電気通信政策局を実現／公衆電気通信法の評価
第二節　電電三法案の立案・政府内調整・国会審議
　（１）アメリカが噛んできた
　（２）臨調答申への対応
　（３）法律ができても、新規参入者が出てこないのではないかと困った
　　　京セラの稲盛氏が手を挙げた／新規参入には設備の接続・共用が必要
　（４）民営NTTも新規参入事業者も電気通信事業法一本で対応した
　（５）通産省との折衝には、通信主管庁の立場を守るとの姿勢で臨んだ
　　　通産省との厳しいやり取り／外資規制問題
　（６）国会対応は、電気通信政策局のための郵政省設置法改正の方が苦労が大きかった
　　　難題だった電気通信政策局の新設
第三節　米国との交渉
　（１）アメリカと激しくやり合った
　　　相手はUSTRと国務省
　（２）日米交渉のバックにはロン・ヤス関係があった
　　　相手に効いた夕食会での発言
　（３）郵政対電電の構図からKDD事件を経て電気通信政策局へ
　　　郵政と電電はいつも対立状態にあった／KDD事件の余波
　（４）米国とのMOSS協議では電気通信がトップランナー
　　　次官自ら交渉に臨む／NTTグループの在り方／VAN戦争
　（５）日米交渉の総括
第四節　通信政策に対する回顧と展望
　（１）電電三法への流れを回顧して
　（２）電気通事業法の一番の苦労は新規参入の実現
　　　電電のブランド力
　（３）電気通信事業法は社会の変化に対応すべきだ
　　　通信の「手段と目的」論議／後進へのアドバイス

インタビュー後記　　武智健二
おわりに　　林 秀弥

資料編
一　関係法令
二　関係文書
三　語り手三氏の経歴
四　年表
五　参考文献

人名索引
事項索引

著：林　秀弥
林　秀弥（はやし しゅうや）　2002年, 京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得認定退学。京都大学博士（法学）。現在, 名古屋大学大学院法学研究科教授。主著：『情報法概説』（弘文堂, 2015, 共著） 『リーガルクエスト 経済法〔第2版〕』（有斐閣, 2015, 共著） 『クラウド産業論：流動化するプラットフォーム・ビジネスにおける競争と規制』（勁草書房, 2014, 共編著） 『企業結合規制：独占禁止法による競争評価の理論』（商事法務, 2011）

著：武智　健二
武智　健二（たけち けんじ）　1973年, 京都大学法学部卒業。同年に郵政省に入省。1990年より内閣法制局参事官, 2004年より総務省情報通信政策局長, 総務省自治行政局長を歴任。（財）電気通信端末機器審査協会理事長, イー・アクセス（株）執行役員副社長を経て, 現在, 日本テレビ放送網株式会社メディア戦略局シニアアドバイザー。著書：『法令で読み解く 新放送制度』（第一法規株式会社, 2013）