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共立叢書 現代数学の潮流

相転移と臨界現象の数理

著:田崎 晴明
著:原 隆

紙版

内容紹介

 本書は,数学,物理学,あるいは,それらの関連分野を学んだ人のための,具体的なテーマを題材にした数理物理学の教科書である。数理物理学のもっとも魅力的な問題ともいえる相転移と臨界現象を題材に,物理的なアイディアと数学的な論理が相互作用しあって,物理の難問を数学的に厳密に解決していく様子をお目にかけたい。幸い,登場する数学の多くは大学一,二年レベルの微積分である。
 本書では,統計力学の知識を前提にせず,必要な概念は定義し,関連する物理的な背景も説明することを心がけた。物理に詳しくない数学畑の読者にも,扱われている問題の重要さ・面白さを理解していただければと思う。
 証明の技術的な詳細に深入りしたくない読者は,基本的な結果とアイディアを学びながら読み進めることもできると思う。統計力学を一通り学んだ上で,相転移の厳密な理論の発展を知ろうという物理畑の読者にも,厳密な数理物理の醍醐味を味わっていただければと願っている。
 様々な背景をもつ読者に,もっとも魅力的な問題の一つを通しての数理物理への入門書として読んでもらえることを目指した。この目標がどこまで達成されているか,読者のご意見とご提案を待つ。

 相転移と臨界現象をめぐる数理物理は,読者の主要な興味や研究分野とは無関係に,それを学ぶことが純粋な知的な喜びになるようなテーマであると信じている。そしてこのテーマをめぐる優れた研究は,物理学と数学という二つの学問の営みは決して切り離してはいけないことを具体的に力強く示してくれていると思う。
 本書を通じて,一人でも多くの読者に,物理学と数学の生きた交流の一つの姿を楽しんでいただければ,われわれにとって大きな喜びである。

(まえがきより抜粋)

目次

第1章 相転移と臨界現象
 1. 「自然からの出題」としての相転移
 2. 原子・分子と相転移
 3. 相転移研究の簡単な歴史

第2章 基本的な設定と定義
 1. 統計力学入門
  1.1 平衡状態と統計力学
  1.2 カノニカル分布
 2. Ising 模型の定義
  2.1 ミクロ状態とハミルトニアン
  2.2 有限系の統計力学
  2.3 相関関数
  2.4 基本的な物理量

第3章 相転移と臨界現象入門
 1. Ising 模型での相転移と臨界現象の概観
 2. 簡単に計算できる例
  2.1 相互作用のないモデル
  2.2 1次元 Ising 模型
 3. 平均場近似
  3.1 自己整合方程式の導出
  3.2 自己整合方程式の解
  3.3 平均場近似における相転移
  3.4 平均場近似における臨界現象
 4. ガウス型模型
  4.1 モデルの定義
  4.2 磁化のふるまい
  4.3 二点相関関数のふるまい
 5. Ising 模型における相転移と臨界現象
  5.1 無限体積極限の必要性
  5.2 自発磁化と相図
  5.3 相関関数のふるまい
  5.4 臨界現象

第4章 有限格子上のIsing模型
 1. 相関不等式
  1.1 一般的な Ising 模型
  1.2 いくつかの相関不等式
  1.3 強磁性的単調性
 2. 有限系の基本的な性質
  2.1 自由エネルギーの性質
  2.2 相関関数の性質
 3. Lee-Yang の定理
  3.1 Lee-Yang の定理と分配関数のゼロ点
  3.2 命題 4.22 の証明

第5章 無限体積の極限
 1. 無限系での物理量
  1.1 自由エネルギーの無限体積極限
  1.2 熱力学的な量
  1.3 無限系の相関関数の定義と性質
 2. 自由エネルギーの無限体積極限の存在の証明
  2.1 自由境界条件の場合
  2.2 周期的境界条件とプラス境界条件
 3. 相関関数の無限体積極限
  3.1 相関関数の不変性
  3.2 二点相関関数の単調減少性
  3.3 無限系の相関関数の一意性
 4. Lee-Yang の定理の証明

第6章 高温相
 1. 高温相での厳密な結果
  1.1 摂動的な上界
  1.2 非摂動的な特徴づけ
 2. ランダムループ展開
  2.1 分配関数と相関関数の表現
  2.2 1次元 Ising 模型の相関関数
  2.3 相関関数の上界の証明
 3. 高温相の非摂動的な解析
  3.1 二点相関関数の減衰
  3.2 相関距離と二点相関関数
  3.3 自由エネルギーの微分可能性
  3.4 磁化の微分可能性と無限系での搖動応答関係

第7章 低温相
 1. 低温相の特徴づけ
  1.1 自発磁化と転移点
  1.2 長距離秩序
  1.3 1次元と2次元以上の相違
  1.4 プラス境界条件でのスピンの期待値と定理の証明
 2. コントゥアー展開
  2.1 2次元 Ising 模型のコントゥアー展開
  2.2 2次元 Ising 模型の自己双対性
  2.3 補題 7.8 の証明
  2.4 定理 7.4 の証明

第8章 臨界現象
 1. 厳密な結果の概観
 2. 証明
  2.1 磁化率の発散
  2.2 転移点での二点相関関数

第9章 転移点の一意性
 1. 本章の主要な結果
 2. 証明のアイディア
 3. 微分不等式に関する命題
 4. 偏微分不等式と偏微分方程式の比較
 5. 命題 9.3 の証明
  5.1 特性曲線を求める
  5.2 $\beta > \beta_c, \hat{h} = +0$での解析
  5.3 $\beta = \beta_c, \hat{h} > 0$での解析

第10章 臨界指数についての不等式と等式
 1. 個々の臨界指数についての不等式
 2. 複数の臨界指数のあいだの不等式
  2.1 スケーリング不等式
  2.2 ハイパースケーリング不等式
 3. 高次元での臨界指数
  3.1 $d > 4$での「バブル」のふるまい
  3.2 $d > 4$での比熱の有界性
  3.3 $d \geq 4$での等式$\gamma = 1$

第11章 無限系の平衡状態と対称性の自発的破れ
 1. 無限系の平衡状態
  1.1 無限系の状態
  1.2 DLR 条件
  1.3 無限系の平衡状態の一意性と非一意性
 2. 平衡状態の分解と分類
  2.1 プラス状態とマイナス状態への分解
  2.2 平衡状態の分類

第12章 関連するモデル
 1. 様々なスピン系
  1.1 $\varphi^4$モデル
  1.2 $N$ベクトルモデル
  1.3 量子スピン系
 2. 様々な確率幾何的なモデル
  2.1 単純ランダムウォーク
  2.2 自己回避ランダムウォーク
  2.3 格子樹
  2.4 パーコレーション
 3. 場の量子論
  3.1 場の量子論とは何か?
  3.2 グリーン関数と経路積分
  3.3 ユークリッド化とスピン系
  3.4 スピン系から場の量子論へ
  3.5 連続極限と臨界現象,場の量子論の自明性

付録A 相関不等式の証明
 1. 記法とスピン系の定義
 2. 複変数の方法
  2.1 Griffiths 第一不等式
  2.2 Griffiths 第二不等式
  2.3 Lebowitz 不等式
  2.4 Griffiths-Hurst-Sherman(GHS) 不等式
  2.5 Messager-Miracle-Sole(MMS) 不等式
  2.6 FKG 不等式
 3. ランダムカレント表示
  3.1 ランダムカレント表示の導出
  3.2 源泉の移し替え
  3.3 ガウス型不等式
  3.4 $\langle \sigma^A; \sigma^B \rangle _\Lambda$に関する不等式
  3.5 Simon-Lieb 不等式
  3.6 Aizenman 不等式と Aizenman-Graham 不等式
  3.7 Aizenman-Barski-Fernandez 不等式

付録B 鏡映正値性とその帰結
 1. 鏡映正値性の一般論
  1.1 一般の$N$成分スピン系
  1.2 鏡映正値性
  1.3 チェスボード評価
 2. ガウス型の上界
  2.1 基本的な不等式
  2.2 有限系での上界
  2.3 無限体積の極限での上界
  2.4 低温での長距離秩序
  2.5 Ising 模型の二点相関関数の上界
 3. スペクトル表示
  3.1 Hilbert 空間の構成
  3.2 並進の作用素の表現
  3.3 スペクトル表示
  3.4 スペクトル表示の応用

付録C ガウス型模型の漸近評価
 1.「おおらかな議論」とその落とし穴
 2. 臨界点$(\mu = 0)$での結果
 3. $\mu > 0$での結果

付録D クラスター展開
 1. 自由エネルギーの高温展開
 2. クラスター展開の一般論
  2.1 抽象的なポリマー系
  2.2 Dobrushin の条件
  2.3 クラスター展開
  2.4 相関関数の扱い
  2.5 自由エネルギーの無限体積極限
  2.6 定理 D.6 の証明
  2.7 定理 D.10 の証明
 3. 高温,磁場ゼロでの Ising 模型
 4. 低温,磁場ゼロでの Ising 模型
 5. 磁場が大きい領域での Ising 模型
  5.1 ポリマー系への変換
  5.2 Kotecky-Preiss の条件
  5.3 相関関数の解析
 6. 高温領域での Ising 模型

付録E Lebowitz-Penroseの定理
 1. 磁場がある際の連結$n$点関数の減衰
 2. 定理 5.4 の証明
  2.1 補題 E.4 の証明
  2.2 補題 E.5 の証明
  2.3 補題 E.6 の証明
  2.4 補題 E.7 の証明

付録F 数学に関するメモ
 1. 増加関数列と左連続性
 2. 凸関数の性質
 3. 一変数複素関数
 4. 多変数複素関数論のまとめ
 5. 対数関数とべき乗関数について

参考文献

索引

ISBN:9784320111080
出版社:共立出版
判型:A5
ページ数:424ページ
定価:3800円(本体)
発行年月日:2015年06月
発売日:2015年06月11日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:PHM