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越境する認知科学 9

顔を聞き、声を見る

私たちの多感覚コミュニケーション

編:日本認知科学会
著:田中 章浩

紙版

内容紹介

多感覚知覚の興味深い現象から、マスク着用の影響まで
コミュニケーションのしくみを心理学的に解明!

私たち人間のコミュニケーションは、感覚器官をフル活用した高度な営みである。
視覚・聴覚・触覚などの感覚はそれぞれが単独で機能しているだけではなく、それらの間にはさまざまな相互作用も生じていることは明らかである。

例えば、地下鉄のホームなどの騒がしい場所で会話をするとき、つい相手の口元の動きも注視していることはないだろうか。これは、聞こえにくい相手の声を視覚から得た情報で補おうとしているのである。

つまり、私たちはこのとき、「声を見て」いるのだ。

本書では、そのような感覚を超えたダイナミックな五感の働きを「多感覚コミュニケーション」と位置づけ、それを支える多感覚知覚のしくみや、多感覚知覚を土台としたコミュニケーションに関する心理学的研究を多数紹介する。多くの方に興味をもっていただくために、脳、発達・文化・進化、ロボットvs. 人間、視覚・聴覚・触覚の比較といった多面的な視点からアプローチすることを心がけた。

さらには、コロナ禍で日常化したマスク着用とオンライン上でのコミュニケーションに着目し、それらによって生じる五感のバランスの変化、それらがもたらしうる問題点についても言及する。

目次

第1章 知覚の多感覚性

1.1 心の入口としての知覚
1.2 知覚の多感覚性
1.3 多感覚知覚研究の歴史
 1.3.1 多感覚知覚研究の萌芽
 1.3.2 マガーク効果
 1.3.3 腹話術効果
 1.3.4 人間は視覚優位な動物か
 1.3.5 本当に多感覚知覚は存在するのか
 1.3.6 多感覚知覚研究の盛り上がり
1.4 多感覚知覚研究の最前線
 1.4.1 多感覚研究コミュニティの形成
 1.4.2 研究テーマの変遷
 1.4.3 多感覚知覚研究の応用
1.5 用語の整理
 1.5.1 マルチモーダル、クロスモーダル、そして多感覚
 1.5.2 五感
    ――人間の感覚は五種類か
1.6 日常の多感覚知覚
  ――マルチセンソリー・ヒューマン

第2章 多感覚知覚

2.1 多感覚統合の原理
2.2 声はどこから聞こえるのか
  ――感覚間の空間的バインディング
 2.2.1 腹話術効果と腹話術
 2.2.2 腹話術効果の特性
 2.2.3 即時的効果と残効
2.3 「同時」とはいつのことか
  ――感覚間の時間的バインディング
 2.3.1 光の旅,音の旅
 2.3.2 統合の時間窓
 2.3.3 時差順応
 2.3.4 時空間相互作用
2.4 人は見た目が9 割?
  ――多感覚統合の優位性
2.5 視聴覚を超えて
  ――五感の多感覚相互作用
 2.5.1 ラバーハンド錯覚
 2.5.2 運動=感覚間のタイミング知覚
 2.5.3 自己の多感覚知覚

第3章 多感覚コミュニケーション

3.1 コミュニケーションの多感覚性
3.2 視聴覚音声知覚
 3.2.1 読唇
 3.2.2 マガーク効果に関する知見
 3.2.3 声であることの意識は必要か
    ――サインウェーブスピーチとマガーク効果
 3.2.4 顔であることの意識は必要か
    ――ルビンの壺とマガーク効果
 3.2.5 意識と注意の必要性
 3.2.6 「読唇術」は可能か
3.3 感情の多感覚コミュニケーション
 3.3.1 非言語情報による感情のコミュニケーション
 3.3.2 視聴覚感情知覚
 3.3.3 注意による違い、感情による違い
 3.3.4 「地味」な研究の重要性
 3.3.5 実験上の工夫
 3.3.6 笑いながら怒る人は実在するか

第4章 多感覚コミュニケーションの文化間比較

4.1 知覚に文化差はあるか
 4.1.1 文化と認知
 4.1.2 文化と知覚
 4.1.3 言語と知覚
 4.1.4 視覚の文化差
 4.1.5 聴覚の文化差(1)
 4.1.6 聴覚の文化差(2)
 4.1.7 感情のコミュニケーションに関する知覚の文化差
4.2 多感覚コミュニケーションの文化間比較
 4.2.1 最初の日蘭比較実験
 4.2.2 現象の頑健性
 4.2.3 人工 vs. 自然な不一致
 4.2.4 高次感情の文化差
 4.2.5 統合原理
4.3 なぜ日本人は声を重視するのか
 4.3.1 表現の文化差による説明
 4.3.2 知覚の文化差による説明
 4.3.3 文化心理学の枠組みからの説明
 4.3.4 言語による説明
 4.3.5 学生による回答
 4.3.6 まとめ

第5章 多感覚コミュニケーション研究の展開

5.1 多感覚コミュニケーションの神経基盤
 5.1.1 多感覚ニューロン
 5.1.2 視聴覚音声知覚の神経基盤
 5.1.3 視聴覚感情知覚の神経基盤
 5.1.4 顔と声による視聴覚情報処理の全体像のモデル化に向けて
 5.1.5 視聴覚感情知覚の文化差を生み出す神経基盤
5.2 多感覚コミュニケーションの発達
 5.2.1 乳児期における視聴覚感情知覚
 5.2.2 児童期における視聴覚感情知覚とその文化差
 5.2.3 養育者との多感覚コミュニケーション
 5.2.4 ウチとヨソをわけるもの
 5.2.5 多感覚コミュニケーションにおける感情と音韻の関係
 5.2.6 まとめ
5.3 多感覚コミュニケーションの比較認知科学
 5.3.1 感情の適応的意義
 5.3.2 同種他個体における感情知覚
 5.3.3 異種他個体における感情知覚
 5.3.4 まとめ
5.4 多感覚コミュニケーションとロボット
 5.4.1 人間はロボットをどう認識するのだろうか
 5.4.2 人間はロボットの感情を多感覚的に知覚するか
 5.4.3 ロボットの感情を読み取ることでロボットに対する行動は変化するか
 5.4.4 まとめ
5.5 触覚による感情コミュニケーション
 5.5.1 触れることによって他者に感情は伝わるのだろうか
 5.5.2 視覚・聴覚・触覚による感情表現の比較
 5.5.3 視覚・聴覚・触覚による感情知覚の比較

第6章 多感覚コミュニケーション研究とコロナ禍

6.1 多感覚コミュニケーションとコロナ禍(1)
  ――オンラインでの多感覚コミュニケーション
 6.1.1 オンラインでの多感覚コミュニケーションで伝わる情報,伝わらない情報
 6.1.2 情報の時空間的構造
 6.1.3 通信技術と多感覚コミュニケーション
 6.1.4 多感覚コミュニケーションの個人差
 6.1.5 まとめ
    ――それでも,対面でコミュニケーションすることの意味とは
6.2 多感覚コミュニケーションとコロナ禍(2)
  ――マスク着用と多感覚コミュニケーション
 6.2.1 マスク着用の文化差
 6.2.2 マスク着用がコミュニケーションに及ぼす影響
6.3 コロナ禍と未来の多感覚コミュニケーション

コラム 非言語的コミュニケーションに関する誤解

コラム ゲーマーと通信遅延

コラム オンラインと相性がよいコミュニケーション形態とは

第7章 マルチセンソリー・ヒューマン

7.1 ここまでのまとめ
 7.1.1 多感覚知覚研究から見えてきたこと
 7.1.2 マルチセンソリー・ヒューマンの特徴
7.2 そもそも「感覚モダリティ」とは何か
7.3 感覚を限定することの意味
7.4 今後の展望
  ――本書で扱えなかったこと
 7.4.1 多様な多感覚知覚との接点
 7.4.2 知覚から認知へ
    ――認知システムの基盤としての多感覚知覚
 7.4.3 応用的展望

引用・参考文献

あとがき

索引

ISBN:9784320094697
出版社:共立出版
判型:4-6
ページ数:268ページ
定価:3200円(本体)
発行年月日:2022年09月
発売日:2022年09月12日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:UB