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環境地下水学

著:藤縄 克之

紙版

内容紹介

 解決の糸口の見えない地球温暖化、自然環境を蝕む化学物質、量的・質的に劣化する淡水資源等々、人類を脅かす環境問題はますます混迷の度合い深めている。いま科学に切実に要求されているものがあるとすれば、それは山積する社会問題に的確な処方箋を書くことではなかろうか。本書は、地下水に関わる様々な環境問題に対応することを念頭に、今までになかった全く新しい切り口で地下水学を整理し、解説したものである。
 第1章の序論では、様々な地下水学問題、水文循環・水文地質、地下水収支計算法などが述べられている。第2章の人間活動と地下水環境では、温暖化による地下水環境の悪化、世界と日本の地下水資源、関連法令が解説されている。第3章の堆積物間隙の流体と流れの原理では、流体の性質、エネルギーとポテンシャルなど土壌水や地下水の流れに関わる基本原理が解説されている。第4章の流れの数学モデルでは、飽和・不飽和帯における水、疎水性液体、空気の流れに対する数学モデルが解説されている。第5章の地下水流動の解析的表現とその応用では、地下水調査の基本となる井戸水理学と海岸地下水について述べている。第6章の地下水の化学では、土壌・地下水中で生じる様々な化学反応を初歩から解説している。第7章の地下水中の物質移動では、移流・分散・反応・分解を伴う様々な形態の物質移動をモデル化している。第8章の土壌・地下水の汚染と対策では、汚染物質と汚染源およびその移動形態と調査・修復方法について解説している。第9章の土壌・地下水中の熱移動では、地中の温度環境と熱移動の原理および地中熱利用法について解説している。第10章の地下水の数値解析では、差分法と有限要素法による地下水流動と物質・熱移動の数値解法について解説している。最後に、付録では、エクセルの利用法、ベクトル解析・微分方程式・特殊関数・数学の公式、単位とその換算を要約している。
 環境科学は、勝れて総合的であることにその特徴がある。本書では、数学、物理学、化学、地学等の基礎が総動員されているが、付録を付けると共に初歩から説き起こしたので、内容の割には読みやすいのでは無いかと思う。また、地下水に関わる関連法令などについても整理してあるので、実務者にも役立つものと思う。是非、工学系、理学系、農学系の大学生、大学院生、研究者、民間や官公庁の技術者の方々にご利用頂きたい。

目次

第1章 序論
1.1 地下水学から環境地下水学へ
  1.1.1 地下水資源の活用と随伴する地下水問題
  1.1.2 量的問題から質的問題へ
1.2 地下水の基礎知識
  1.2.1 水文循環
  1.2.2 水文地質
  1.2.3 河川と地下水
1.3 地下水の収支
1.4 地下水賦存量の計算

第2章 人間活動と地下水環境
2.1 地球上の水の分布
2.2 地球温暖化と地下水問題
  2.2.1 温暖化による自然環境の変化
  2.2.2 温暖化の予測結果
  2.2.3 温暖化が地下水環境に及ぼす影響
2.3 世界の地下水利用状況
  2.3.1 世界の水資源情勢
2.4 日本の地下水利用と水資源
  2.4.1 日本の地下水利用状況
  2.4.2 ダム,湖沼,地下水の貯水量
2.5 地下水問題と関連する法令
  2.5.1 地下水の利用と保全に係わる法律
  2.5.2 地下水の水質に係わる法律と基準

第3章 堆積物間隙の流体と流れの原理
3.1 流体の物理化学的性質
  3.1.1 水の特性
3.2 多孔体間隙と流体とのかかわり
  3.2.1 間隙の定義
  3.2.2 土粒子と粒径
  3.2.3 流体の表面張力
  3.2.4 毛管上昇
3.3 多孔体間隙における流体の分布特性
  3.3.1 力学的エネルギーとポテンシャル
  3.3.2 土壌水分と吸引圧との関係
  3.3.3 土壌水分ヒステリシス
3.4 多孔間隙中の流体の流れ
  3.4.1 ダルシーの法則
  3.4.2 一般化されたダルシーの式
  3.4.3 ダルシー則の成立範囲
  3.4.4 不飽和流れと水・NAPL・空気多相流れへのダルシー則の適用
3.5 堆積層中の流れの基本的性質
  3.5.1 成層構造をなす地層の平均透水係数
  3.5.2 ポテンシャル流れと非ポテンシャル流れ
  3.5.3 流線と流れ関数
  3.5.4 透水係数の楕円と透水係数テンソルの一般形
  3.5.5 地層境界での流線の屈折

第4章 流れの数学モデル
4.1 圧縮性堆積層中の地下水流動方程式
  4.1.1 有効応力と間隙水圧との関係
  4.1.2 質量保存則と貯留係数の誘導
  4.1.3 被圧地下水の流れ
  4.1.4 不圧地下水の流れ
  4.1.5 不飽和帯の流れ
4.2 気体と疎水性液体の流動方程式
  4.1.1 土壌空気の流れ
  4.1.2 NAPLの流れ
4.3 初期条件と境界条件

第5章 地下水流動の解析的表現とその応用
5.1 室内透水試験と簡易現場透水試験
  5.1.1 定水位・変水位透水試験
  5.1.2 スラグ試験
5.2 定常流の解析解
  5.2.1 被圧帯水層中の1次元流れ
  5.2.2 不圧帯水層中の1次元流れ
  5.2.3 地表から涵養量がある場合の不圧帯水層中の1次元流れ
  5.2.4 被圧帯水層井戸への定常流(チームの式)
  5.2.5 不圧帯水層井戸への定常流
  5.2.6 広域地下水流動のある被圧帯水層井戸における井戸への定常流
  5.2.7 水際にある被圧帯水層井戸への定常流
  5.2.8 不透水境界がある被圧帯水層井戸への定常流
  5.2.9 隣接帯水層から漏水がある被圧帯水層井戸への定常流
5.3 揚水の伴う非定常流の解析解
  5.3.1 被圧帯水層井戸への非定常流(タイスの式)
  5.3.2 水際にある被圧帯水層井戸への非定常流
  5.3.3 不透水境界がある場合の被圧帯水層井戸への非定常流
  5.3.4 被圧帯水層井戸での揚水を途中で停止した場合の非定常流
  5.3.5 隣接帯水層から漏水がある場合の非定常流(ハンタッシュ-ヤコブの式)
  5.3.6 不圧帯水層井戸への非定常流 (ノイマンの式)
5.4 揚水試験から帯水層定数を求める方法
  5.4.1 タイスの標準曲線を用いた図解法
  5.4.2 ノイマンの標準曲線を用いた図解法
  5.4.3 ヤコブの近似式を用いた図解法
5.5 海岸帯水層への塩水侵入
  5.5.1 海岸帯水層におけるガイベン-ヘルツベルグの塩水・淡水境界
  5.5.2 海岸帯水層におけるグローバーの塩水・淡水境界界面
  5.5.3 島嶼の塩水・淡水境界
  5.5.4 潮汐による被圧帯水層中のピエゾ水頭の変動

第6章 地下水の化学
6.1 濃度の表現方法
6.2 化学反応の基礎
  6.2.1 化学反応と平衡
  6.2.2 自由エネルギーと平衡定数
  6.2.3 溶質の溶解とpH
6.3 気体-液体間の物質移動
  6.3.1 気相-水相間の分配
  6.3.2 炭酸反応とアルカリ度
6.4 溶解-沈殿反応
  6.4.1 TDSとEC
  6.4.2 鉱物の溶解と沈殿
  6.4.3 イオン強度効果と共通イオン効果
6.5 酸化と還元
  6.5.1 酸化数
  6.5.2 peとEh
  6.5.3 酸化-還元ダイアグラム
6.6 錯体形成と固相への吸脱着
  6.6.1 錯体
  6.6.2 収着とイオン交換
  6.6.3 イオン交換の平衡方程式
  6.6.4 収着等温式
  6.6.5 疎水吸着
6.7 同位体水文
  6.7.1 同位体の基本的性質
  6.7.2 同位体と地下水調査
6.8 地下水水質の形成と表現法

第7章 地下水中の物質移動
7.1 拡散と分散
  7.1.1 分子拡散
  7.1.2 機構的分散
  7.1.3 水力学的分散
7.2 物質移動の数理
  7.2.1 流動地下水中における溶質の流束
  7.2.2 流動地下水中における溶質移動の支配方程式
  7.2.3 溶質移動支配方程式の初期条件と境界条件
7.3 保存性物質の移動と解析モデル
  7.3.1 均質な多孔体間隙を流動する浸透水中における保存性物質移動の解析解
  7.3.2 自然の堆積層における保存性物質の移動
7.4 非保存性物質の移動と解析モデル
  7.4.1 化学反応の種類と反応速度
  7.4.2 放射性崩壊にしたがう物質の移動
  7.4.3 吸脱着反応にしたがう物質の移動
  7.4.4 連鎖反応にしたがう物質の移動
  7.4.5 微生物分解にしたがう物質の移動
  7.4.6 高次反応にしたがう物質の移動
7.5 地下水流速と分散係数を求める方法
  7.5.1 Ogata and Banksの簡略解を利用して地下水流速と分散係数を求める方法
  7.5.2 単一ボーリング孔を用いた現地試験で地下水流速と分散係数を求める方法

第8章 土壌・地下水の汚染と対策
8.1 土壌・地下水汚染の現状
8.2 土壌・地下水の汚染物質と主な汚染源
  8.2.1 無機物質類
  8.2.2 病原性微生物
  8.2.3 有機化合物
  8.2.4 放射性物質
  8.2.5 富栄養塩
  8.2.6 複合汚染
8.3 汚染物質の移動形態
  8.3.1 疎水性液体での移動
  8.3.2 溶質での移動
  8.3.3 ガスでの移動
  8.3.4 コロイドでの移動
8.4 土壌・地下水汚染の調査
  8.4.1 NAPL汚染および複合汚染の調査
  8.4.2 溶質の調査
8.5 無機物質による土壌・地下水汚染と対策
  8.5.1 自然由来のヒ素汚染
  8.5.2 人為由来のフッ素汚染
8.6 汚染の修復
  8.6.1 物理的処理法
  8.6.2 化学的処理法
  8.6.3 生物的処理法

第9章 土壌・地下水中の熱移動
9.1 地下浅層部の温度変化
  9.1.1 熱伝導による熱移動
  9.1.2 浸透流に伴う熱移動
  9.1.3 広域の熱移動
9.2 土壌・地下水中における熱移動の機構と基礎方程式
  9.2.1 多孔体中の熱移動特性
  9.2.2 流体の流れを伴わない飽和・不飽和体中の熱伝導
  9.2.3 流動地下水中の熱分散と強制対流による熱移動
  9.2.4 自然対流に伴う熱移動
9.3 地下熱エネルギー貯留
  9.3.1 帯水層熱エネルギー貯留
  9.3.2 ボーリング孔熱エネルギー貯留

第10章 地下水の数値解析
10.1 コンピュータを利用した地下水解析
10.2 差分法
  10.2.1 差分法の原理
  10.2.2 1次元定常飽和・不飽和流動への差分法の応用
  10.2.3 差分法における境界条件の表現法
  10.2.4 非定常支配方程式の差分近似とその安定性
  10.2.5 2次元および3次元問題への差分法の応用
  10.2.6 定常移流分散方程式の差分近似とその安定性
  10.2.7 特性曲線法を用いた非定常移流分散方程式の解法
10.3 有限要素法
  10.3.1 有限要素法の原理
  10.3.2 1次元浸透流の有限要素解法
  10.3.3 2次元浸透流の有限要素解法
  10.3.4 3次元浸透流の有限要素解法
  10.3.5 特性曲線型有限要素解法による非定常移流分散方程式の解法
10.4 地下水解析のための汎用コードとその特徴

参考文献

付録
A. Excelによる計算法
  A.1 プログラム言語とエクセルの違い
  A.2 エクセルの使用法
B. ベクトル解析の要点
  B.1 ベクトルの内積と外積
  B.2 スカラー場の勾配
  B.3 ベクトル場の発散
  B.4 ベクトル場の回転
C. 微分方程式の概要
  C.1 微分方程式の分類
  C.2 解の重ね合わせ
  C.3 偏微分方程式の分類
D. 地下水学で用いられる特殊関数
  D.1 誤差関数
  D.2 ディラックのデルタ関数
  D.3 ベッセル関数
E. 有用な数学の定理・公式・恒等式
  E.1 ライプニッツの公式
  E.2 ガウスの定理(発散定理)
  E.3 グリーンの定理
  E.4 グリーンの第1恒等式
F. 単位とその換算

索引

ISBN:9784320047068
出版社:共立出版
判型:B5
ページ数:368ページ
定価:4700円(本体)
発行年月日:2010年01月
発売日:2010年01月25日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:RBKC