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社会物理学

モデルでひもとく社会の構造とダイナミクス

他著:小田垣 孝
他著:佐野 幸恵
他著:山崎 義弘

紙版

内容紹介

 社会は多数の個人の集団であり、各個人の振る舞いが、都市の構造、集団行動、格差社会、合意形成や噂の伝播などの社会現象を引き起こす。社会物理学は、集団における個々の要素の行動をモデル化し、物理学的視点から社会現象の示す普遍的性質を明らかにする学問領域であり、20世紀末から急速に発展している。
 本書は、この最新の学問領域「社会物理学」で用いられる理論と手法およびこれまでの成果を系統的にまとめた成書である。各章で取り上げる話題は都市の形成からSNSまで多岐にわたる。これら社会現象の問題点の整理を行った後、現在までに明らかにされている知見を紹介し、最後に今後の課題を説明して、これまでの研究から将来の研究の方向性を見通せるように構成されており、この分野を専攻しようと思う初学者には必読の教科書である。

目次

第1章 はじめに:社会位相空間を基礎として
1.1 社会物理学の始まり
 1.1.1 黎明期
 1.1.2 新たな発展
1.2 数理社会学
 1.2.1 合理的選択理論-少子化問題
 1.2.2 期待効用理論-人はなぜ詐欺にかかるか
 1.2.3 閾値モデル-暴動はどのように起こるか
 1.2.4 許容限界モデル-人種共存問題
 1.2.5 微分方程式(反応)モデル-流行はなぜ繰り返すか
 1.2.6 ネットワークモデル-世の中は狭いとは
1.3 統計物理モデルの援用:相転移
 1.3.1 イジングモデル
 1.3.2 平均場近似
 1.3.3 ストライキの発生
 1.3.4 平均場近似による考察
1.4 社会物理学とは
1.5 本書の構成
参考文献

第2章 社会の不均一空間構造
2.1 様々な社会構造
2.2 都市の人口分布と形状
 2.2.1 現象論的な理解
 2.2.2 都市人口増加の仕組み
 2.2.3 都市の形状
2.3 都市内における人種の棲み分け
 2.3.1 棲み分け
 2.3.2 近接効果による棲み分け
2.4 複雑ネットワークの形成
2.5 今後の課題
参考文献

第3章 群集の転移的振る舞いと時空間構造
3.1 個体の運動が生み出す集団運動
3.2 基本方針
 3.2.1 ソーシャルフォース
 3.2.2 転移的振る舞いと構造形成
3.3 速度の配向:群れ
 3.3.1 「群れ」の形成
 3.3.2 群れの転移的振る舞い
 3.3.3 ヴィチェックモデル:自走ブラウン運動の緩和極限
3.4 同期
3.5 交通流における構造形成:レーン,渋滞
 3.5.1 歩行者モデル
 3.5.2 最適速度モデルによる渋滞形成
 3.5.3 交通流に対するセルオートマトンモデル
3.6 密集した個体群を媒質とした波の伝播
 3.6.1 興奮性
 3.6.2 メキシカンウェーブ
 3.6.3 群集災害
3.7 群れにおける感染の伝播
3.8 今後の課題
参考文献

第4章 格差社会の自己組織化
4.1 格差の特徴
4.2 格差社会はなぜ生まれるか
 4.2.1 競争社会における格差の自己組織化
 4.2.2 モンテカルロ法による解析
 4.2.3 平均場近似による解析
 4.2.4 行動戦略と様々な格差
4.3 格差を生む最小モデル
 4.3.1 増・減モデル
 4.3.2 自由参加モデル
4.4 今後の課題
参考文献

第5章 社会における合意の形成
5.1 社会は合意で成り立っている
5.2 対立意見の間の合意形成
 5.2.1 意見分布同調集団
 5.2.2 多数派同調集団
 5.2.3 社会的影響力と合意形成
 5.2.4 多個体間の意見の調整:平均場近似
 5.2.5 空間構造の効果
 5.2.6 沈黙のらせん
5.3 多数の意見の間の合意形成
 5.3.1 不連続な多数意見の場合
 5.3.2 連続的な意見の場合
5.4 言語および言語圏
 5.4.1 単語の成立
 5.4.2 言語の進化
 5.4.3 言語の盛衰
 5.4.4 言語の継承
5.5 文化圏の盛衰
5.6 今後の課題
参考文献

第6章 社会における伝播現象
6.1 社会を伝播するもの
6.2 普及現象
 6.2.1 マルサスモデル
 6.2.2 ロジスティックモデル
 6.2.3 SIモデル
 6.2.4 バスモデル
 6.2.5 発展的なモデル例
6.3 感染症の伝播:単純な感染
 6.3.1 SISモデル
 6.3.2 SIRモデル
 6.3.3 発展的なモデル例
 6.3.4 実社会における感染症の例
6.4 うわさの伝播:複雑な感染
 6.4.1 うわさの伝播モデル
 6.4.2 実社会におけるうわさの例
6.5 社会におけるビッグデータ
 6.5.1 データの質と量
 6.5.2 データの入手
6.6 今後の課題
参考文献

第7章 確率モデルによる社会の構造の分析
7.1 単語の出現頻度
 7.1.1 サイモンのモデル
 7.1.2 ランダムな文字列
7.2 対面コミュニケーションの構造
 7.2.1 コミュニケーションの時間特性
 7.2.2 コミュニケーションのネットワーク構造
7.3 法制度の統計的性質
7.4 選挙の得票数
7.5 今後の課題
 7.5.1 単語の出現頻度
 7.5.2 対面コミュニケーションの構造
 7.5.3 法制度の統計的性質
 7.5.4 選挙の得票数
参考文献

付録A 確率分布
A.1 累積度数分布とランキングプロット
A.2 度数分布と累積度数分布との比較
A.3 代表的な確率分布
A.4 裾の重い分布・ファットテール

付録B 確率過程
B.1 マルコフ過程
 B.1.1 遷移確率
 B.1.2 チャップマン・コルモゴロフ方程式
 B.1.3 コルモゴロフ方程式・マスター方程式
B.2 べき分布を生み出す過程

付録C 複雑ネットワーク
C.1 特徴量
 C.1.1 次数と次数分布
 C.1.2 隣接行列
 C.1.3 平均経路長
 C.1.4 クラスター係数
C.2 スケールフリーネットワーク
 C.2.1 バラバシ・アルバートモデル

付録D パーコレーション
D.1 パーコレーションとは
D.2 格子上のパーコレーション
D.3 連続空間のパーコレーション
D.4 複雑ネットワーク上のパーコレーション
参考文献

付録E 連続力学系の線形安定性
E.1 固定点・流れ
E.2 線形安定性
E.3 例:流行のダイナミクス

付録F ランダム成長パターンのフラクタル性
F.1 基本的な考え方
F.2 成長パターンのフラクタル
F.3 フラクタル次元の測定法

社会物理学をさらに学びたい読者への参考文献

索引

ISBN:9784320036192
出版社:共立出版
判型:A5
ページ数:330ページ
定価:4500円(本体)
発行年月日:2022年10月
発売日:2022年10月25日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JHB