宣長はどのような日本を想像したか
『古事記伝』の「皇国」
著:裵 寛紋
内容紹介
日本思想史上での宣長再評価に向けて。
『古事記伝』は『古事記』の解釈を通して、宣長による新たな神話を成立させたテキストであった。つくり出された〈古事記〉はいかなる物語となったのか。『古事記伝』の読みが『古事記』と最も乖離している箇所「外国(とつくに)」に着目し、ひるがえって、自国日本に対して用いた語「皇国(みくに)」の意味を追究する。神について語る『古事記』を、人に適用して読もうとした『古事記伝』の本質が明らかに。
【日本最古の書物や国民の古典として知られる『古事記』も、本居宣長の『古事記伝』も、昭和の戦争期を経由するまでは一般の人々に重んじられる書物ではなかった。それはちょうど、近代的学問の一つとして国文学が形成され、国文学科のなかで『古事記』が本格的に研究されることとも深く連動している。国文学が「国民の学」を担う際に、国文学者は国学との連続性をことさら強調した。……近代日本において国文学が国学という伝統を背負って誕生するところに、近代的学問としての宣長「学」の発見もある。……しかしながら、宣長の学問と思想とを峻別する「宣長問題」といったような問題設定はあまり有効ではない。……再考すべきは、宣長の「皇国」を国学的な思考の典型として批判しながらも、宣長「学」の方法を様々な近代学問の伝統として受け入れようとした国文学の方かも知れない。……国学から国文学へと単純な延長線の上に宣長を置くことから一旦離れてみる。それは近代学問の在り方そのものに対する批判的な省察の契機にもなるはずであろう。】……「はじめに」より
目次
はじめに
凡例
序章 『古事記伝』で「皇国」を問うこと
一 『古事記伝』の〈古事記〉
二 「皇国」を問う
第一章 『古事記伝』のつくった「外国」
第一節 「常世国」から拡大した「外国」の物語
一 神話の上の「常世国」
二 歴史のなかの「外国」
第二節 地球的世界における「外国」と「皇国」
一 世界の始まりの物語
二 古伝説と地球説との合致
三 万国の上たる「皇国」
第三節 「皇国」の物語のためにつくられた「外国」
一 「外国」を語らない『古事記』
二 「外国」を必要とした『古事記伝』
第二章 『古事記伝』における「カラ国」の克服
第一節 「韓国」の解決
一 「韓国」は「空国」なり
二 「韓国」の排除だったのか
三 「国覓ぎ」という文脈のなかで
四 「皇大宮」の起源の物語
第二節 固有なる起源を求めて
一 「韓」をめぐる論争
二 「漢」のなかに収斂された「韓」
三 熊襲偽僣説と征韓
四 「漢国」への対抗
第三章 『古事記伝』のつくった「皇国」
第一節 「事」としての世界
一 「皇国」の古の「事」
二 神代と現代との連続
三 「君臣の差別」による皇統の存続
第二節 世界の原典としての〈古事記〉
一 文字無き世の「言伝」
二 あるべき天皇記の完成
第三節 「皇国」の選択
一 「御国」から「皇国」へ
二 「皇国」の「真の道」
終章 宣長学の解明に向けて――「皇国」の物語の達成が導くもの
一 まとめ
二 宣長以後の「皇国」
三 宣長問題の始まり
参考文献
初出一覧
あとがき
索引(人名・書名)