和泉式部日記注釈[三条西家本]
著:岩佐 美代子
内容紹介
古今を通じての恋の代表選手、和泉式部が最もいとおしい思い出を描いた『和泉式部日記』。あらざらんこの世のほかの思ひ出でに今一度の逢ふこともがな [百人一首]。たったこれだけの事をこんなに情愛をこめて、やさしく美しく表現した『和泉式部日記』を、最も原作に近い本文を持つ三条西家本の原態を生かし、読解する。ここに『和泉式部日記』が新しい解釈で蘇る。
【古今を通じての恋の代表選手が、数ある恋の中でも最もいとおしい思い出、敦道親王との愛の経緯を、発端から宮邸入りまでの約十箇月、二人の感情の起伏を実にリアルに、心をこめて描いたのがこの『和泉式部日記』です。主要人物はこの二人きり、宮の小舎人童(こどねりわらわ)と乳母、女の使う樋清童女(ひすましわらわ)がわずかにこれにからみ、最終段、宮邸を去る北の方と姉女御が結末を締めるだけ。そんな単純な構成でありながら、二人の恋心の展開は波瀾万丈、取りかわす会話や和歌・手紙文は情趣と機知にあふれ、千年前の男女交際はこんなにも文化の薫り高いものであったかと、現代のそれと思いくらべて、今昔の感に堪えません。かくも美しい恋の姿を書き残しておいてくれた作者に、心からの感謝と敬愛の念を捧げます。……はじめにより】
目次
はじめに 凡例
■注釈
一 聞かばや同じ声やしたると
二 はじめて物を思ふ朝は
三 折過ぎてさてもこそ止め
四 おのがたゞ身を知る雨
五 出でさせ給ふはいづちぞ
六 殺してもなほ飽かぬかな
七 恨み絶えせぬ仲となりなば
八 人は草葉の露なれや
九 舟流したる海人とこそなれ
一〇 七夕に忌まるばかりの
一一 山を出でて暗き道にぞ
一二 気色吹くだに悲しきに
一三 秋のうちは朽ち果てぬべし
一四 君をおきていづち行くらん
一五 あやしく濡るゝ手枕の袖
一六 かしこへはおはしましなんや
一七 手枕の袖にも霜はおきてけり
一八 なか〳〵なれば月はしも見ず
一九 もみぢ葉は夜半の時雨に
二〇 すゞろにあらぬ旅寝
二一 頼む君をぞ我も疑ふ
二二 心々にあらむものかは
二三 文作る道も教へん
二四 なほざりのあらましごと
二五 昔語りは我のみやせん
二六 さりぬべくは心のどかに
二七 正月一日、院の拝礼
二八 まことにや、女御殿へ渡らせ給ふ
■解説
一 緒言 二 和泉式部略伝 三 為尊との恋 四 伝本考 五 作者考 六 文体考―「て止め」考察による作者考補説 七 新私解解説
参考文献 あとがき 和歌索引