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平安宮廷文学と歌謡

著:中田 幸司

紙版

内容紹介

平安の宮廷人に広く愛好され、 受容された歌謡 『催馬楽』は、
どのような性質をもつ歌謡で、往時の宮廷人にいかに受容されていったのか。
「宮廷の論理」 とでも呼ぶべき共通認識の存在を想定し、歌謡が受容・共感される道筋を 論証する。

【 本書『平安宮廷文学と歌謡』は、平安の宮廷人に広く愛好され、受容された歌謡『催馬楽』を対象に、この歌謡がどのような性質をもつ歌謡であるのかを問題意識の起点として論じたものである。
 具体的には、『催馬楽』がいかなる詞章による歌であるのか、いかなる表現形式や構成をもち、どのような世界を表明しているのか、さらに表現史上、どのような位置に立つのかを、詞章を分析しながら明らかにすることを試みた。このことは往時の宮廷人にいかに受容されていったのかを明らかにすることとも呼応する。
 そもそも、歌謡を論じるとき、その享受対象を集団というとらえ方として論じることが可能であるならば、歌謡は広く集団に受け入れられることによって成り立つ歌である。しかし、本書においては、歌謡が受容される場合には少なくとも時や場を反映させた宮廷人の価値観「宮廷の論理」とでも呼ぶべきか共通認識が存在し、それに則ったことによって受容、共感される道筋が生まれてくることを想定し、論証した。】......はじめにより

目次

はじめに
凡例

第一部 『催馬楽』と表現

第一章 和歌と歌謡―『催馬楽』の形成と受容―
一 はじめに 二 『催馬楽』の短歌体と問答体 三 和歌と歌謡の研究史 四 『万葉集』歌と短歌体 五 『古今集』歌と短歌体 六 既存の知識と問答体 七 おわりに―『催馬楽』の成立時期

第二章 『催馬楽』「我が駒」攷―表現にみる伝統の凌駕―
一 はじめに 二 『催馬楽』「我が駒」の研究史 三 「我が駒」の問題点―「早く行きこせ」の周辺― 四 第二・五句の反復―森朝男説を軸に 五 歌謡の様式からの発展―『万葉集』三一五四番歌と五五番歌― 六 道行歌・国見的望郷歌―『万葉集』三一五四番歌と五四三番歌― 七 『万葉集』歌と『催馬楽』「我が駒」―「妹」から「人」へ― 八 おわりに

第三章 『催馬楽』「高砂」攷―〈寿歌〉から〈恋歌〉への移行―
一 はじめに 二 『催馬楽』「高砂」の問題点 三 「高砂」の既成概念 四 「高砂の尾上に立てる松」の表現 五 記紀からの流れ 六 『荘子』の影響か 七 「玉柳」について 八 時間の位相差 九 おわりに

第四章 『催馬楽』「妹が門」攷―〈農耕歌〉から〈恋歌〉への昇華―
一 はじめに 二 『万葉集』二六八五番歌の〈歌謡性〉 三 『催馬楽』「妹が門」の〈原歌〉 四 「しでたをさ」の両義性 五 「笠やどり」の機能 六 〈農耕歌〉から〈恋歌〉へ 七 おわりに

第五章 『催馬楽』「東屋」攷―詞章の〈浮遊〉と〈知的な遊び〉―
一 はじめに 二 『催馬楽』「東屋」の問題点 三 〈浮遊〉する詞章 四 和歌史上の「東屋」 五 「板戸」と「殿戸」 六 「鎹」と「錠」と「人妻」そして笑い 七 おわりに

第六章 『催馬楽』「貫河」攷―〈知的な遊び〉が生む〈恋歌〉―
一 はじめに 二 『催馬楽』「貫河」の構成 三 宮廷内部に存在するとは 四 詞章「玉藻」の想定 五 知的な〈遊び〉としての「貫河」 六 歌謡に相応しい「親」 七 「沓」を買うこと 八 「表裳」を着ること 九 おわりに

第七章 『催馬楽』「沢田川」攷―〈寿歌〉と〈恋歌〉との往還―
一 はじめに 二 『万葉集』歌と『続日本紀』 三 「沢田川」の〈実〉と〈名〉 四 『万葉集』一三八一番歌との位相差 五 「神代紀」・「吉野讃歌」と『催馬楽』「沢田川」 六 「浅けれど」と「高橋」 七 『続日本紀』の記事 八 おわりに

第八章 『催馬楽』「葦垣」攷―「弟嫁」問答歌謡と『万葉集』巻十三―
一 はじめに 二 研究史と問題の所存 三 類歌の認定 四 「葦垣真垣 真垣かきわけ」から「てふ」へ 五 長反二首の表現と構成 六 〈問〉と〈答〉と笑い 七 讒言と「天地の神」 八 おわりに

第九章 『催馬楽』「総角」攷―『神楽歌』との連続性―
一 はじめに 二 『催馬楽』「総角」の研究史 三 問題の所存 四 「とうとう 尋ばかりや」が示すこと 五 『神楽歌』「総角」と『催馬楽』「総角」 六 『神楽歌』と『催馬楽』歌の連続性 七 おわりに

第十章 『古今和歌集』と歌謡―仮名序「いはひ歌」にみる「この殿」歌の定位―
一 はじめに 二 研究史にみる「歌のさま六つ」 三 和歌史にみる「この殿」歌の位置 四 「いはひ歌」と「この殿」歌 五 〈短歌体〉としての「この殿」歌 六 おわりに

第十一章 『催馬楽』「梅が枝」攷―『古今和歌集』「よみ人しらず」歌との位相差―
一 はじめに 二 既存の解釈と問題の所存 三 囃子詞「そこよしや」の機能 四 『古今集』五番歌の原資料は歌謡か 五 『催馬楽』と『古今集』 六 梅・鶯・雪 七 「梅が枝」の意義 八 おわりに

第十二章 『催馬楽』「夏引」攷―和歌史からの定位―
一 はじめに 二 注釈史上の「夏引」 三 和歌史上の「夏引」 四 歌体からみる『催馬楽』「夏引」 五 宮廷内部に存在した創作歌の可能性 六 田中大秀『まつちやま』の注釈 七 おわりに―主題に向けて―

第十三章 『古今和歌集』巻二十〈短歌体〉攷―宮廷人の論理と都への志向―
一 はじめに 二 『古今集』にみる歌謡―「曲折無し」に位置すること― 三 研究史にみる〈短歌体〉の基礎構造 四 〈短歌体〉の機能(一)―「まかねふく」の詞章― 五 〈短歌体〉の機能(二)―「をぐろ崎」の詞章― 六 おわりに

第二部 『枕草子』と表現

第十四章 歌謡と『枕草子』―「歌は」・「河は」章段との関わりを中心に―
一 はじめに 二 「歌は」章段の問題点 三 「今様」の音曲 四 「遊びは」・「舞は」・「笛は」にみる音曲歌舞の機能 五 『枕草子』と『催馬楽』 六 おわりに―歌謡からみた『枕草子』

第十五章 『枕草子』類聚章段と作者の手法―「すさまじきもの」章段の叙述を中心に―
一 はじめに 二 「〜は」型と「〜もの」型 三 〈反復叙述〉とは 四 「轅」と「音」の〈反復叙述〉 五 「門たたく音」、「人のもとにやる〜」そして「産屋」 六 反復叙述〉のもたらすもの 七 他章段を視野に入れて 八 おわりに

第十六章 『枕草子』翁丸章段攷―「御鏡」の機能―
一 はじめに 二 翁丸章段の問題点 三 隔絶による懸念 四 融和の「笑ひ」 五 視覚による認識 六 定子と翁丸をつなぐ「御鏡」 七 他章段にみる「鏡」 八 おわりに

第十七章 『枕草子』「円融院の御果ての年」章段攷―藤三位と立文の機能―
一 はじめに 二 「みな人」と「蓑虫のやうなる童」 三 藤三位の特異性と「立文」の機能 四 「物忌」と「つとめて」 五 「鬼」と主上・定子 六 「笑ひ」への収束 七 おわりに

第十八章 『枕草子』「宮にはじめてまゐりたるころ」章段攷―交渉の〈ウラ〉から〈オモテ〉へ―
一 はじめに 二 書き出しの不安定さ 三 冒頭部分と後文の呼応 四 〈ウラ〉から〈オモテ〉へ 五 〈女房〉の〈無言〉と読者への心内語 六 定子との交渉 七 伊周との交渉 八 〈オモテ〉への進出 九 おわりに

第十九章 『枕草子』風土攷―〈雪〉の叙述と機能―
一 はじめに 二 「宮にはじめてまゐりたるころ」章段の研究史 三 〈雪〉の機能と初段「春はあけぼの」章段 四 宮廷内部の枠組みと〈雪〉の調和 五 既存の知識と〈雪〉 六 「宮にはじめてまゐりたるころ」章段と〈雪〉 七 おわりに

第二十章 『枕草子』「三月ばかり物忌しにとて」章段攷―和歌史と作歌―
一 はじめに 二 「さかしらに」歌と『古今集』歌 三 「いかにして」歌と恋歌 四 「雲の上も」歌と『うつほ物語』 五 おわりに―「かりそめなる所」の機能とともに

第二十一章 『枕草子』「五月ばかり、月もなういと暗きに」章段攷―「呉竹」の機能と〈知的な遊び〉―
一 はじめに 二 当該章段の研究史 三 「〜月ばかり」と自然描写の示す型 四 限定された視覚と叙述された聴覚 五 「呉竹」と〈知的な遊び〉の場 六 翌朝の報告 七 おわりに

第二十二章 『枕草子』「殿などのおはしまさで後」章段攷―叙述にみる読者への仕掛け―
一 はじめに 二 冒頭表現による読みへの誘い 三 経房の報告と機能 四 長女の文と機能 五 童による先入観 六 おわりに―謎々合の機能とともに

第二十三章 「なぞなぞ合せしける」の仕掛け―『枕草子』「殿などのおはしまさで後」章段の結末―
一 はじめに 二 「なぞなぞ合せしける」の位置 三 「あれは今まゐりか」発言の機能 四 「にくき歌なれど」発言の機能 五 「なぞなぞ合せしける」発言の機能 六 「いかがにくかりけむ」発言の機能 七 おわりに

初出一覧
あとがき
神名・人名索引 事項索引 和歌・歌謡初句索引

著者略歴

著:中田 幸司
1965年5月12日東京都武蔵野市に生まれる。
早稲田大学大学院文学研究科日本文学専攻博士後期課程修了。現在、玉川大学リベラルアーツ学部教授。博士(文学)。
著書に『歌謡とは何か』(共著、2003年、和泉書院、日本歌謡学会編)、『歌謡の時空』(共著、2004年、和泉書院、日本歌謡学会編)、『『古今和歌集』巻二十―注釈と論考―』(共著、2011年、新典社、久喜の会編)など。

ISBN:9784305706676
出版社:笠間書院
判型:A5
ページ数:490ページ
定価:14000円(本体)
発行年月日:2012年12月
発売日:2012年12月11日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:DC
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:1FPJ