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狭衣物語論考

本文・和歌・物語史

著:後藤 康文

紙版

内容紹介

物語史上の傑作『狭衣物語』の形成と受容の実態を解き明かす、精緻にして斬新なアプローチの軌跡。

諸伝本入り乱れ、複雑な〈交配〉を重ねた『狭衣物語』。
それぞれの本文を吟味する手つづきを示しながら、本書は、本文、和歌史、物語史、と、三つの視座からトータルに物語を解読してゆく。変容が激しく異文が多い物語と、どう向き合い対処するのか。その方法論をも指し示す。

【そもそも、なぜ『狭衣』にのみ〈定家〉本が存在しないのか。—思うに定家は、この物語の証本を作らなかったのではなく、おそらく作れなかったのであろう。『伊勢物語』『源氏物語』と並んで後代の歌人や連歌師たちに重んじられた『狭衣物語』であってみれば、また、定家自身かなり惚れこんでいた作品だったことを思えば、当然定家本『狭衣』が残っていてもよいはずである。しかしそれがないという事実は、あの定家をもってしても校訂本を作成することが不可能なほど多様な『狭衣物語』が当時すでに生み出され、入り乱れて享受されていたことを雄弁に語っているといえよう。だとすれば、その後さらに〈改変〉の手が加わり、複雑な〈交配〉を重ね、かつ、多くの誤写誤脱箇所を抱え持つことになった諸伝本を前に、現代のわれわれが茫然と立ち尽さざるをえないのも、考えてみればしごくあたりまえの話だったのかもしれない。】……はじめにより

目次

はじめに

第Ⅰ部 『狭衣物語』のテクストクリティーク
1 もうひとりの薫
 1 六条院の蹴鞠を実見した『狭衣物語』の語り手
 2—1 幻の薫
 2—2 加筆された薫
 2—3 埒外の薫
 3 『狭衣物語』に取りこまれた光源氏
 4 もうひとりの薫
2 『狭衣物語』の「宮の中将」をめぐって
 1 「宮の中将」の謎
 2 巻二までの様相
 3 それは「中務宮の中将」だった
 4 「宮の中将」交替の理由
 5 構想変更でないならば
3 『狭衣物語』本文論覚書
 1 増補された引歌
 2 土岐武治氏の本文研究
 3 本文論のこれから
4 『狭衣物語』本文の機械的脱漏について
 1 巻一〜三における全書本本文の脱漏箇所
 2 巻一〜三における大系本本文の脱漏箇所
 3 巻四における共通の脱漏箇所
 4 巻四における全書本本文の脱漏箇所
 5 巻四における大系本本文の脱漏箇所
5 平安後期物語研究の展望

第Ⅱ部 和歌文学史のなかの『狭衣物語』
1 『狭衣物語』作中歌の背景・巻一
2 『狭衣物語』作中歌の背景・巻二
3 『狭衣物語』作中歌の背景・巻三
4 『狭衣物語』作中歌の背景・巻四
5 『狭衣物語』引歌拾遺
6 『狭衣物語』作中歌と中世和歌
 1 先蹤のある歌語の受容
 2 創造された歌語の受容
 3 俊成卿女・良経・定家の受容
 4 まとめ
7 後鳥羽院の『狭衣物語』受容
 1 正治二年院初度百首
 2 『新古今集』完成期まで
 3 承久の乱まで
 4 遠島以後

第Ⅲ部 物語文学史のなかの『狭衣物語』
1 「室の八島」の背景
 1 実方像の投影
 2 実方と?子の〈物語〉
 3 ふたつの〈歌物語〉
 4 実方と業平
 5 〈義妹恋慕〉のライトモティーフ
2 『狭衣物語』の成立時期
 1 成立の下限(序)
 2 成立の下限(一)
 3 成立の下限(二)
 4 成立の上限
 5 『狭衣物語』の成立時期
3 『浜松』は『狭衣』のあとか
 1 歌語「草の原」
 2 『源氏』ではなく『狭衣』か
 3 『浜松』巻五と『狭衣』巻二
 4 作中歌同士の影響関係
 5 『浜松』は承暦・永保の成立か
 6 増淵勝一説の検証
4 『夜の寝覚』と『狭衣物語』
5 『狭衣』を編集した物語

初出一覧 あとがき
人名索引 文献索引〔近世以前〕 『狭衣物語』作中歌索引

著者略歴

著:後藤 康文
1958年生、山口県下関市生まれ。九州大学大学院博士課程単位取得。博士(文学)。九州大学文学部助手、宮崎大学教育学部助教授を経て、現在、北海道大学大学院文学研究科教授。著書に『伊勢物語誤写誤読考』(笠間書院)などがある。

ISBN:9784305705785
出版社:笠間書院
判型:A5
ページ数:450ページ
定価:7800円(本体)
発行年月日:2011年11月
発売日:2011年12月01日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:FB
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:1FPJ