愛が基底にながれる、日本文学史上、極めて稀有な日記作品を現代語訳で紹介。
襲い来る病苦に呻きつつ、死に傾く堀河帝に何もなし得ない無力感を感じつつ、ひたすら、愛執の眼差しを注ぎ、病床に添い臥しながら、その体感を内奥に刻印する…。
情動のほとばしりとしての言説を的確に見きわめた著者が、丁寧に日記の世界に誘う。原文と現代語訳、詳細な解説、脚注語句索引、和歌各句索引付き。
【凡例】
一 本書は、一般研究者や大学院、大学での学習者だけでなく、古典を愛する方々にも利用できるよう配慮して、執筆したものである。
一 本文を右頁に、現代語訳を左頁にそれぞれ掲示し、また、両頁にわたって脚注を施した。
一 本文は、『群書類従』所収本を底本とし、今小路覚瑞・三谷幸子編『校本讃岐典侍日記』本文篇に対校資料として掲げられている二十三本の諸本を見合わせ設定した。
一 底本をはじめ、諸本のいずれによっても意の通らない本文箇所に関しては、私に改め、また、諸本に異同のない本文箇所でも、誤謬と判断される場合には、検証に立ち設定した。これらについては、可能な限り脚注で指摘することにしたが、詳しくは、巻末の「改訂本文一覧」を参照されたい。
一 讃岐典侍日記の世界を的確に理解するため、本文を、便宜上、四四の章節に区分した。
一 本文には、濁点、句読点を付し、会話、引用、心中思惟などの各部分は、「 」、『 』で括り、更に、以下のような処置を施した。
1 仮名遣いは、歴史的仮名遣いによって統一した。
2 助動詞の「ん」、「らん」、「けん」などの表記については、「む」、「らむ」、「けむ」にそれぞれ改めた。
3 適宜、底本の仮名を漢字に、または、漢字を仮名に改め、当て字になっている本文箇所などは、通常の表記に改めた。
〔例〕
もすそ→裳裾
あざり→阿闍梨
御前→おまへ
百敷→ももしき
供従者→久住者
木丁→几帳
4 漢字には、必要に応じて、振り仮名を付し、送り仮名のないものには補った。
5 反復記号は、「々」に直したり、同一文字、同一語を繰り返す形態に改めたりした。
6 底本に施されている傍注は、すべて省略した。
一 現代語訳に当たっては、本文に忠実に対応するようにつとめ、語法上、現代語に適応しない本文箇所以外は、冗漫な言いまわしでもできるだけ言い替えを慎み、また、補足を必要とする場合には、括弧内に記した。なお、改めた場合には、紙幅の許す限り脚注に指示するようにした。
一 脚注は、紙幅の関係上、きわめて限定的な説明にとどめるほかはなかった。
一 巻末に、「改訂本文一覧」、「脚注語句索引」、「和歌各句索引」を付した。
一 本書の執筆に際して、先行研究の恩恵に浴した。ここに明記し、深謝申し上げる次第である。